殺害考察
1. 考察
俺はあの少年のことが何一つ分からなかった。
それは調べてる最中もそうだったし、足元で死骸となった彼を見てもそう思う。何がこの少年をそこまでさせたのか、本当にあの化け物に勝てると思ったのかが全く理解できない。
「長い物には巻かれろ」とまではいかないが、その存在に敵対するだけ無駄な事だろう、命が惜しいのなら。
少年を殺し終えた俺は、近くにいる仲間らしき少女へと視線を向ける。
ただ利用された民間人だったら気の毒だが、俺の力を見られた時点で生かすつもりはない。市民の一人や二人減ったところで誰も気づかないだろう。
「ファウスト、圧殺し...」
言葉が続かない。
目の前の少女の視線が俺を押さえつけてるみたいに、体はおろか口すらも動かせないでいる。そんな俺を見て向かってくるのかと思いきや、少女は一目散に路地裏の奥へと向かっていった。
その様子を見届けた後、俺は血だまりを作っているソレへと目を向ける。
ソレは、目を見開きながら動かない。
流れる血はどう見ても致死量、まず生きていないだろう。完全に死んでいる。
「監査官、あの少女を逃がしてよかったんですか?」
俺の隣で一連の流れを見ていたリュカがそう言う。
「大丈夫だ。あいつ一人が騒ぎ立てたところで誰も耳を貸さないし手を差し伸べない。世界はそうやって出来てる」
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国の調査局に諸々の報告を終えた後、局を立ち去ろうという時に奴が話しかけてきた。
「や、エドガーさん。お疲れ様です」
「聞きましたよ? 例の少年殺したんですってね。あんま仕事に行きたくないから殺してくれて助かりましたよ!」
このクソガキ...。
力を持ったゆえの怠慢なのか、この人間性だから超常的な力を手に入れるのか。どっちみち、目の前にいるこいつはどうしようもないクズだな。
「存外あっさりしていて拍子抜けだったがな。宰相があそこまで焦るほどの存在ではなかっただろう」
「エドガーさん...言ってることと考えてることが違いすぎ。そんなに酷いこと言われると普通に傷つくよ」
そうだった、コイツは人の心が読めるんだった。
つくづく化け物だなと感じる。思考まで封じられてしまっては不意打ちも出来ないじゃないか。
「俺もそこまで万能じゃないですよ。この力にも欠点はあるし、世界中の人の心が読めるわけじゃない。案外不意打ちぐらいならできるんじゃないですか?」
「そうですね。あなたに返してもらってない貸しもあることですし、俺を殺すのは止めて欲しいかな」
まあ、元からコイツと戦う気はない。
俺よりも強いやつには立ち向かわないのがモットーだ。
それに、この男には『契約』の魔女から救ってもらった恩がある。
その借りがあるうちは、この男に歯向かうなど死んでも考えないだろう。
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