4. 離別

『おや、君は...。どうしたんだい? こんな夜更けに』


町に活気が溢れていたころ、僕は夜更けにある人の元を訪れていた。


ノックしたドアから顔を覗かせる彼は、いつ見ても全く顔が変わらない不思議な人でもある。そんな彼に案内されて、僕は本だらけの部屋で腰を掛けていた。



『...君の目、何人か殺してるね、見るだけで分かる。おおよそ『刃』と『視線』辺りかな? そして次は同じく転移者である僕ってわけだ』



どう? あってる?


そこまでバレてるのなら仕方がない、どうせ殺すんだし。そう思ったので何も言わずに頷いた。いざという時のために、服の中には刃物が隠してある。


『でもよく僕を殺そうと思ったね、この町に来て一度も力を使ったことないから誰も知らないはずなんだけど』


『そこのところも含めてさ、君がこうするに至った理由を教えてよ』



もうすぐ死ぬというのに、なぜここまで悠長にしていられるのだろう。そう思ったけど話さない理由も特にはないし、あいつを初めてみた時辺りから話すことにした。




...あぁ、最悪だ。こんなにも君の境遇に同情するなんて...。


『それじゃあ僕が選ばれたのも納得だ...。それに、君はきっとだろう...』


『普通に死ぬつもりだったけど、君には少しプレゼントがしたくなった』



『だから僕が死ぬ前に、少しだけ話を聞いておくれよ』


まあそれぐらいならと、僕はさっきと同じように頷いた。



『僕は趣味でモノガタリを作っててね、だから創作の心得とかメアリー・スーについても知ってるんだ』


『例えば...作者は読者に配慮なんかしないで自分の思ったものを書けばいい。変に忖度してるとその作品の味が落ちちゃうかもしれないからね、批判なんて気にせず書き進めるべきだ』


『あとは、生まれ落ちたキャラクターに罪はないってことは言っておきたいね。人から嫌われるキャラになったとしたら、それは作者の落ち度だ。どんなクズが生まれたとしても、それは作品を成り立たせるための重要なピースに違いない』



その意味では、僕も君もメアリー・スーも、実は被害者なのかもね。



...何を言ってるのか全く分からない。

僕やあいつが被害者? そもそも加害者は誰なんだ? そんないきどおりにも似た疑問が顔に出ていたのか、彼は話題を変え始める。


『ごめんごめん、変なこと話しちゃったね。じゃあ君が一番聞きたいであろうメアリー・スーについて話そうか』


『この世界の最強存在、それはこの世界に存在する全ての力を持ってる。一見すれば勝ちようがないけど、メアリー・スーとして生まれ落ちたが故の弱点が一つだけあるんだ』



『それは、ということ。生まれた時点では誰よりも強いかもしれないけど、時が経てばアレを倒す人間は必ず出てくる』



だから僕は、アレを倒すのが君だと信じてるよ。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


リズと契約して三日が経った。


その間は彼女から転移者のことを聞いたり、使役した動物たちを使ってこの街の地理情報を頭に叩き込んでいた。そして今はリズから聞いた転生者の一人、『武器』の元へと向かっている。


「大通りをもう少し歩いたら裏路地に入る。で道なりに進めばあのクズの店に着くと思う」


彼女の言葉の通りに進むと、薄明るい裏路地へと出る。


「仮に『武器』の人柄が言った通りなら、十分警戒したほうがいいだろうね。さっき言ったこと」



「を」



不意に誰かに腕を掴まれる。


見ると掴んでいたのはこの国の警備兵だった。



しかし身なりは一般の兵士とは違って高貴そうに見える。おそらく特別な役職を持った兵士なのだろう。


「...すみません。何か用ですか?」


リズに目配せをして、何かあったら逃げろと伝える。




「よう...用か、強いて言えばってとこだな」



瞬間、僕は兼ねてより奪っていた『刃』の力を使って手のひらから刃物を生み出す。そしてそれを男の喉元へと突き刺そうとした。


が、すんでのところで手首を掴まれる。



「お前たち、逝け」



男の発したその言葉が、僕の周りに六体の異物を出現させる。それは『契約』の悪魔みたいで、いつの日か見た魔物の様にも見える異形。そのどれもが剣を持っていて、そして今まさに...それが向かってくる。



あー、これはヤバいかも。


刺突音が六回した後、僕の体の至る所から大量に血が流れていることに気づく。












そして僕は死んだ。

薄れゆく意識の中、最後に僕が考えたことがそれだった。





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