神様が教えてくれた答え、
1. 契約
憎くて殺したくても、僕にはそれが出来ない。
なぜなら、あの男はこの世界で誰よりも強いから。
この世界に溢れる異能、その全てを兼ね備えたような存在だから。
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転移者でもない僕は当然何の力も持ち合わせない。
だから普通に生きて普通に死ぬ。田舎町で暮らし、都会に出稼ぎに出ては崇拝される奴を見て憎悪を募らせる。
...なぜこうも憎く思うのだろう、神様はとても酷だ。
選ばれた役目を全うするとは言ったけど、それは僕がこの憎しみから解放されたいという思いもこもってる。
あぁ、早く楽になりたいなあ。
ある日僕が農作業を終えて町に戻ると、唯一の教会へと人がたくさん集まっていた。
周りにいる人たちから話を聞くと、どうやらその教会でただ一人のシスターが危篤状態にあるのだとか。確かに少し前から難病を患っていて、町中の人々がその事実を憂い嘆いていた。
僕もその事実を知って少し悲しくなる。
シスターは町中の人たちに愛されるだけのことをしている。世の中一つも罪を犯したことのない人間なんていないと思ったけど、シスターは間違いなく犯してないと断言できる。それくらい聖人のような人だった。
彼女の元居た世界なら、この難病も治せるのだろうか。
町に来た時の彼女は、明らかにこの世界のものとは思えない衣服を身に纏っていた。だから最初は煙たがられたりもしたけど、彼女の行いはそんな偏見を打ち破ったのだった。
教会の中に入り、詰めかけた多くの人たちをかき分けて奥へと進んでいく。
一目だけでもシスターに会いたい、もしこれが最後の機会になったらと考えるととても怖くて、気持ちが逸ってしまう。
教会の奥の開け放たれた扉、そこを何とか潜って僕は部屋へと入った。
変わらない、彼女の美しさは何も変わらない。
寝転がる彼女の黒く長い髪の毛はベッドのシーツへと広がっている。天井を見上げるその表情はどこか儚げで、もうすぐそこまで迫る死期を悟っているようにも見えた。
彼女のベッドの近くには子供たちが悲しげな表情をしながら見守っている。
教会で彼女によくされていた子供たち、この町で一番彼女と親密な関係にあったのは間違いなくこの子たちだろう。
ふと、部屋の様子をちらりと見たシスターは、消えてしまいそうなくらいゆっくりと僕を指さす。近くにいる子供たちではなく、壁際で佇む町の偉い人々でもなく、なぜか僕を指さす。
彼女に誘われるまま、僕は近くまで寄って顔を傾けた。
彼女は消えてしまいそうな声で話すので、僕は彼女の口元に耳を近づける。
「...君に私の力をあげる。今まで誰にも見せなかった...私が授かった力を」
「私の力の名前は『契約』、その力は...」
僕にしか聞こえないように、彼女は静かに話す。それをすべて聞き終えた時、僕は死に際の彼女へ向けてこう言った。
「あなたは魔女だ...いや、悪魔だ」
でもその言葉は届かない、言い終えると同時に彼女は事切れていた。
まるで呪いを移したかのように、彼女は安らかな寝顔をしていた。
錯乱する周りを他所に、僕は独り考えていた。
でもなんだろう、
これでやっと奴が殺せるような気がして、僕は嬉しかった。
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