ポヤと大人
ポヤが初めて大人を怖いと思ったのは、彼女の住む街で戦争が始まって間もない頃だ。空いた防空壕を探してさまようポヤとパパとママを、先に防空壕に入った人達が「狭くなるから」と言って追い出した時の、鬼のような顔がとても怖くて泣いてしまったのをポヤは覚えている。
結局ポヤ一家はどこに行っても追い返されて、最終的に身体の小さなポヤだけ防空壕に入れてもらえた。
「ポヤ、元気にしててね。絶対に迎えにくるからね」
そう言った直後に、パパとママは爆弾で身体をバラバラに吹き飛ばされてしまった。
パパとママを一気に失ったポヤはショックでどうしたらいいかわからなくなって、フラフラと防空壕の奥に進んで蹲った。ショックが大きすぎて逆に涙が出なかった。周りの人達はしまったと思ったが、同時に「仕方ない、そうなるなんて誰も思わないんだから」と自分に言い聞かせた。
ポヤや他の人は防空壕に何日も閉じ込められた。外はずっと銃声や爆弾の音や誰かの悲鳴が聞こえ、時々防空壕の中が熱くなったりミシミシと揺れたりした。食べる物も無く、皆不安やら恐怖やらでイライラし些細なことで喧嘩を始めるようになった。
ある時、ポヤの近くのいた若い女の人が泥棒をしたとか何とか言われて、沢山の男の人に囲まれて酷いことをされた。女の人の悲鳴と気持ち悪い音に耳を塞いでいたポヤは、ふと顔を上げた時に、何人かの男の人が自分を見ていることに気づいた。
ポヤは頭を抱えて膝を折って、できる限り小さく丸まった。ポヤにできるのはそれだけだった。そのうちポヤの脚に生温かいものが触れて、堪らなくなったポヤは防空壕を飛び出した。戦いは続いていたが、防空壕の中にはいたくなかった。
いっそパパとママと同じになりたかった。
その時のことを、ポヤは18歳になった今でも夢に見て飛び起きる。心臓がバクバクして身体中から汗が吹き出て、いつまでこうして苦しまなきゃいけないんだろうとポヤは悲しくなって泣きじゃくる。すると決まって隣からたくましい腕が伸びてきて、ポヤの華奢な身体を抱き締めてくれる。
その正体はポヤの旦那さん。敵だった国の将校さんで、長い路上生活を共にしてきた大親友。戦争で心が壊れて子供みたいになっているので、普段はポヤがお姉さんとして接しているが、ポヤが困っている時や悲しんでいる時はちゃんとお兄さんになってくれる。
ポヤは防空壕で見てきた男の人達と将校さんが完全な別人種だと思ってはいない。何故なら将校さんも時々、あの男の人達と同じような危なげな目でポヤを見ることがあるから。
それでもポヤは路上生活の間ずっと自分を守ってくれて、今でもこうして寄り添ってくれる将校さんが大好きだ。
「ペペ、ありがとう。ありがとうね」
ポヤは将校さんの愛称を呼びながら、彼の腕の中から少しだけ身を乗り出して頬にキスをした。将校さんは嬉しそうに笑って、ポヤをさらに強く抱き締めた。
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