ぺぺのパパとママ

ある夫婦は煩悶していた。

将校として出征していた息子が子供返りした上、敵国の子供を連れて帰って来たからだ。


「この子ポヤ」


この子と呼んで息子が指した少女─ポヤの国は今や我が国の属国だが、しかしそれにしたって。場合によっては道徳上の問題が生じるのでは。悩みつつも、とりあえず夫婦はポヤの臭いが酷いので風呂に入れることにした。

ポヤの入浴には妻が携わった。温かいお湯が張られた盥に子供を浸からせ、洗髪しながら素性を尋ねてみた。当たり前だが子には■■国の言葉が通じなかった。妻にもこの子供の祖国の言葉はわからない。

後で息子に通訳させるか。妻は溜め息をつきながら、子供の頭に巣食う虱を取り除いた。

子供を綺麗にしてやった後、夫婦は息子に通訳をさせながらこの幼い少女の素性を尋ねた。息子が少女の言葉を一通り聞いた後、夫婦に対してこのように話した。


「お父さんとお母さんいないんだって。おじさんおばさんもいるかわかんないって。一人だって」


夫婦は戦争とは何たるかを思い知らされた。

我が国がこの少女を孤児にしてしまったのかもしれない。というか確実にそうだ。

夫婦はこの哀れな少女を養子として迎え入れることにした。とりあえずは息子の妹として…


「ポヤはおれのおよめさんになるんだよなー」


こんな幼い子を嫁だなんて。息子の言葉に夫婦はいよいよ卒倒した。

■■国の法律では、女性が結婚できるのは満15歳からだが、ポヤは10歳にすら達していなかった。仮に達していたところで周囲の目を考えて結婚なんかさせられなかった。この国の女性は大抵成人を過ぎてから結婚するので、15歳で結婚させたら息子が変態だと思われてしまうのだ。

夫婦はポヤを戸籍上息子の妹として迎えることに決めた。そのことを息子に伝えると、息子が少女に対し、少女の国の言葉で何やら一言だけ語りかけた。

後で調べてみたら「お嫁さん」と言っていた。違うってばと夫婦揃ってたしなめた。

少女を養子として登録した後、夫婦はおかしくなった息子が少女を相手に道を踏み外さないよう注意深く見守った。意外にも少女はしっかり者のようで、息子を"ペペ"という愛称で呼び一緒に遊んだり何やら言いくるめたりしていた。

あれなら、まあ大丈夫か。夫婦は安心しつつも、二人を見守り続けた。

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