ポヤとペペとお宿

今作はTwitterのフォロワー様より頂いた案を元に書かせて頂いた話です。

フォロワー様、その説は素敵な案をありがとうございました。


いつかの時代のどこかの星。大きな戦争でボロボロになった街で、両親を亡くした幼いポヤと心が壊れた将校のペペは辛い思いや楽しい思い、時々怖い思いをしながら2人で寄り添い合って生きてきた。

しかしそんな日々はもう終わり。2人はペペを迎えに来た兵隊さんによって、ペペの故郷に帰されることになった。

ペペの故郷は国境をまたいだ遥か先の片田舎。ポヤの国の街からだとどんなに良い軍用車でも辿り着くのに2日はかかってしまう。

さすがに2日も運転し続けられないのでペペを迎えに来た兵隊さん─ボン軍曹とその部下はペペの国に入ってすぐのところにお宿を確保しておいた。


お宿に着くと、頭の禿げたオーナーと女中さん達が一斉に出て来て4人に「おかえりなさいませ」と頭を下げた。あまりにも沢山の人が笑顔で出てきたのでポヤとペペは気圧されて、あたふたと車に乗り込もうとしたけれどボン軍曹が「ダメダメ」と引き止めた。


「どこぞに売ろうってんじゃないんだから。それに家帰る前に身体の汚れ落としといた方がいいよ」


そう言ってからボンがオーナーに声をかけると、女中さん達がポヤとペペの手を引いてお宿の中へ連れていってしまった。ボンと部下は笑いながら後ろをついていった。


お宿の中で、ポヤは女中さん達に連れられて、ペペはボン達とお宿の下男に連れられてそれぞれお風呂に通された。

ポヤは身体を洗ってもらっている最中、女中さんから「兵隊さんに連れてこられちゃったの?」と訊かれた。とても優しい言葉遣いだけれど、ペペ達のことを何やら疑うような物言いだと思ったので、ポヤは自分の身の上を全部女中さんに話した。女中さんは泣いてしまった。

それでも何とか全身洗い終えて、泡をお湯で一気に流したところで、女中さんは「あら!」と声を上げた。なんとそれまでくすんだような茶色だったポヤの髪が、とても上品で可愛らしい、花のような薄桃色に変わったのだ。


「地毛なの?」


「そうだよ」


女中さんは可愛いねぇと褒めつつも、本当の髪の色がわからなくなる程の環境でポヤが暮らしてたんだと思ってまた泣いてしまった。


ポヤと女中さんがお風呂を出ると、今度はポヤの身体を拭く為に待っていた女中さん達がキャーッと黄色い声を上げた。何事かとポヤが戸惑うと、身体を洗ってくれた女中さんが「可愛いって言ってるよ」と。ポヤにとっては薄桃色の髪の方が当たり前だったので、何だか変な気分になった。


女中さん達が用意してくれた寝間着を着て、ポヤが女中さん達に囲まれながらお部屋に行くと、お部屋の前でも若い女中さん達が何人か、とろけた顔でキャッキャとはしゃいでいた。これまた何事なのかとポヤが見ていると、彼女達はポヤを見て更に顔をとろけさせながら部屋の戸を開けてくれた。


ポヤがお部屋に入ると、ポヤと同じ柄の寝間着を着た男前が3人、ちゃぶ台を囲んで水を飲んでいた。ポヤは一瞬部屋を間違えたかと思ったけれど、よく見たらペペとボンとその部下だった。ペペは伸びかけていた髭を剃ってもらったようで、普段よりいくらも若く見えて何だか近づきがたい。

するとポヤが来たことに気づいたペペが、ポヤに目を向けるなり目をまん丸にして「おーっ!」と声を上げた。


「そめた!?」


「地毛だよ」


「かわいーっ!ちょーかわいーっ!」


ペペは部屋に入るのをためらうポヤにおいでおいでと手招きして、恐る恐る近づくポヤを膝の上に座らせた。そうして可愛い可愛いとポヤを抱き締めて頬ずりするペペ。その口から漂うニオイに、ポヤはハッとして声を上げた。


「ペペに酒飲ませたでしょ!」


ポヤが水だと思っていたのは酒だった。

突然何やら叫び出したポヤにキョトンとするボンと部下。咄嗟にさっきの女中さんが通訳してくれた。

ボンと部下は「あーね」と頷いて、しかし「え?いつも飲んでたよ?」と。再び通訳する女中さん。

そこでポヤは大事なことを思い出した。ペペは身体だけならお酒を飲める年齢だったのだ。

こんなに身体が大きいのに、すっかり同年代の男の子だと思い込んでいた。顔を真っ赤にしてうつむくポヤの頭の上で、ペペは「いーのいーの、今日はブレーコーだから」と笑って酒を飲み続ける。ポヤはうつむいたまま「"無礼講"なんて言葉どこで覚えたんだよ」と呟いた。

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