ポヤとペペと連れて帰る人
いつかの時代のどこかの星で、○○国という国と■■国という国が大きな戦争を始めた。国土も技術も未熟な○○国はあっという間に■■国に負けてしまい、特に大きな戦いがあった街はどこもかしこも瓦礫だらけになってしまった。
○○国の中には出征していった■■国の兵士がまだ沢山残っており、軍曹のボンは上司から命令されて、仲間達と一緒に○○国に残った兵士達を迎えに行く仕事をしていた。
ボンは○○国のあちこちで、傷を負った兵士を助けたり事切れた兵士のドッグタグを回収したりした。
そうしながら、ボンは戦争中に別れた友達の行方を密かに探した。身体が大きくて、強くて、誰にでも優しい友達。自分よりも階級が上だったが全然偉ぶらず、一緒に過ごした難民キャンプでは難民の子供達とサッカーするのにいつもボンや他の仲間達を呼んでいた。
しかし、その友達とはある事件を機に気まずい関係になった。というのが、友達が難民の子供達と遊んでいる最中に起こした事故が元で、美男子として知られるボンの左頬に大きな傷がついてしまったのだ。ボン自身は気にしなかったが、ボンの評判を知っていた友達は気に病んだようで「合わせる顔が無い」とボンの前に現れなくなった。
そのうち友達は大きな戦いのあった街に派遣されていった。酷い戦いだったというからきっと生きてはいないんだろうな、とボンは思ったが、それでも心のどこかで友達の生存を願った。どんな形でも生きていてほしいと思った。
「傷なんかあってもなくても同じだけど、お前がいるといないじゃ全然違うんだよ」
その一言をかける為に。
大きな戦いのあった街に入ったボンは、事切れた仲間のドッグタグを回収するその傍らで、復興の為の資材集めをやっている役人の男に「生きている兵士はいないか」と尋ねてみた。役人は火傷だらけの顔をしかめて「いたかなぁ」と考え込んだ。それから「あっそういえば」と呟いたが、すぐに黙ってしまった。
「いるんですか」
ボンが食いつくと役人は「いや、いや」と半ば慌てた様子で否定した。何かを隠していると思ったボンは食い下がったが、役人はもう何も答えなかった。
ボンはまたドッグタグの回収をしながら、役人の態度の怪しかったことと資材集めについてずっと考えた。
あの役人のやっている資材集めは、街の瓦礫を片付ける方法の一環として取っている方法らしい。
街をさまよう難民に資材になりそうなものを集めさせて、食糧と引き換えに預り、そのままなり加工さるなりして再利用し街の復興に役立てているそうだ。それなら生きている兵士が食糧欲しさに資材集めに協力しているかもしれない。
そう考えたボンは、役人が資材と食糧を交換しているテントの前でそれらしい人を待ってみたが、役人から「皆が怖がるので」と追い払われてしまった。
仕方がないので、ボンは仲間のドッグタグを回収しながら生きている兵士を探した。
事切れた仲間の中には友達と一緒に街へ派遣された兵士が何人かいたが、友達は見つからなかった。生きているかもしれないという気持ちが強くなる一方で、なぜ役人が生きている兵士のことを隠そうとするんだろうと思った。言いにくいことでもあるのかと思った。
それから何日も仲間を、そして友達を探し続けたボンはある日、1度も入ったことが無かった河川敷で、自分と同じジャケットを着ている大男を見つけた。白詰草が沢山生えた所にしゃがみ込んで何かをしている大男に話しかけて、ボンは思わず笑顔になった。友達が見つかったのだ。
友達はボンのことを覚えていないようで、作りかけの白詰草の冠を両手で握りしめたまま恐ろしいものを見る目でボンを見つめた。
ボンはショックを受けたが、すぐに友達の心が壊れたんだと察したので、努めて優しく「家に帰れるんだよ」と語りかけた。友達はパッと笑顔になった。そしてどこかへ駆けていった。どこへ行くのかとボンが友達を追いかけると、近くの瓦礫で拾い物をしていた小さな女の子を抱き上げて連れてきた。ボンがその子はどうしたのかと尋ねると、友達はニコニコと笑いながら「つれてかえる」と答えた。
その答えを聞いたボンは嫌な気持ちになった。ボンは○○国に入る前に、○○国から連れて帰った年端もいかない女の子達にいやらしいことをする上司を沢山見てしまったからだ。
「ダメだよ、そんな小さな子を連れて帰るのは悪いことだよ」
ボンがそう語りかけると、友達は「じゃあかえらない」と言ってそっぽを向いてしまった。ボンは「そういうわけにもいかないんだよ」と説得したが友達は譲らない。すると友達の腕に抱かれていた女の子が、ボンを指差しながら○○国の言葉で「コイツ何て?」と言った。
「なんかポヤつれていけないって」
「はぁ?なんでよ?」
「ポヤをつれてくのはわるいことだって」
「それこそなんでよ!?」
ポヤと呼ばれた女の子は子供とは思えない勢いで怒鳴り始めた。ボンにはポヤの言葉が少ししかわからなかったが、ポヤが孤児であることだけはわかった。
「君のことは役人さんに言って孤児院に預けて貰おう」
ボンが提案し、友達に通訳させる。するとポヤがまた何か怒鳴った。また友達が通訳をする。
「あんな1日か2日でかおぶれがかわるよーな所だれが行くかって」
それを聞いたボンは驚いた。
この○○国において、孤児院は子供を養い育てる場所では無くなってしまったらしい。ボンの頭の中に、上司からいやらしいことをされている女の子達の顔が浮かんできた。
ポヤにとっては、この心が壊れて子供みたいになった大男のそばが1番安全な場所なのだ。
そう悟ったボンは、友達がポヤを連れて帰ることを許した。ポヤは「アンタ融通利くね!」とボンを誉めて、友達はポヤの小さな身体を愛しそうに抱き締めた。
■■国に帰る車の中で、友達とポヤはしばらく移り変わる景色を眺めながらはしゃいでいたけれど、やがてポヤがワッと泣き出した。
突然どうしたのかと困るボンの横で、友達がポヤの背中を擦った。友達の顔にも涙が浮かんでいた。
ボンは2人の様子を眺めながら、自分の胸が熱くなるのを感じた。
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