ポヤとペペと音楽

いつかの時代のどこかの星。戦争で両親を亡くした孤児のポヤは、役人を手伝って街の復興に使えそうなものを拾い集めている。集めたものは役人がどうかして再利用するそうだがポヤはそこまで興味が無いので割愛。


ある日ポヤは、瓦礫の隙間に懐かしい物が埋まっているのを見つけ、好奇心のままに取り出してみた。ポヤの両手に収まる程度の横長なそれは上に三角や四角の描かれたボタンがついていて、横にスピーカーと覗き窓付きの蓋がある。蓋を開けると穴が2つ開いた厚いカードのようなものが入っている。この物体の名前をポヤは知らなかったが、何となく音楽を流す為の機械であることはわかった。

もしかしたら音が出るかも。ポヤは恐る恐る三角の描かれたボタンを押した。すると機械がガチャガチャという音を立てて、それから音楽を流し始めた。男性のボーカルが軽快に歌うアップテンポの曲。戦争が始まる前に街中でよく流れていたどこか遠くの国の曲で、ポヤは歌詞こそわからないもののサビをハミングすることはできる。


『○◇∞△&#~♪』


機械から流れる音楽に合わせてリズムを取るポヤ。懐かしさで胸が熱い。そこへ。


「∞#◯◇■♪ □◎%♂∂♪」


背後から響く、機械のそれより遥かに生々しい歌声。まるで誰かが直に歌っているような。

ポヤは声の主に目星をつけて振り返り、やっぱりと苦笑した。

歌っていたのはペペという心が壊れた大男。ポヤにちょっかいばかり出す厄介者だが、共に暮らし物拾いをするパートナーでもある。

そのペペが音楽に合わせて歌い、両手を交互に曲げたり伸ばしたりしつつリズミカルに後退していく。


「ペペこの歌知ってるのー?」


ポヤの問いかけにペペは「なんか知ってるー!」と答えてから、曲げた左腕に顔を埋め、かたや右手は斜め上にピンと伸ばし「うー!」と叫んでダブポーズを取った。


「さっきからどういう動きしてんのそれ」


酒場の若者のようなリズムの取り方をするペペに腹を抱えて笑ったところで、ふとポヤはある思いに至った。

私とペペって多分1年ぐらい1つ屋根の下で暮らしてる。少ない食べ物を分け合って、2人で一緒に仕事をして、今は同じ音楽を楽しんでいる。でも私達って敵国の人間同士なんだ。私とペペはこんなにも仲が良いのに、お互いの国がいがみ合っている限りは敵同士なんだ。

これって他の国にも言えることで、2つの国の間で個人レベルの付き合いがあっても、お互いの国の偉い誰かの一声で戦争が始まれば、その2人は"敵同士"にされてしまうんだ。同じご飯を美味しく食べていたのに、同じ音楽を聴いて楽しんでいたのに、お互いに好きでいたのに、戦争で引き裂かれてしまうんだ。

ポヤは胸が苦しくなり、涙が溢れ出した。楽しいハズの音楽も耳に入ってこなくなった。

ポヤは流れる音楽をそのままにしてしばらく1人になろうかと思ったが、こういう時ペペという男は憎たらしくもポヤに絡んでくる。


「ポヤ?どしたん?ないてる?」


ポヤの前にしゃがんで、心配そうに顔を覗き込んでくるペペ。


「…別に」


「えーなんだよーいえよー」


「…ガキが気にすることじゃないよ」


ポヤは「ガキじゃねえし」と返すペペを避けて走り去ろうとしたが、やはりペペは見逃してくれないもので、ポヤの小さな身体を自分の腕の中に収めて「いいこ、いいこ」と頭を撫で始めた。

その力があまりにも強く咳き込んでしまう程だったが、しかし温かくて心地好い。

コイツもう、バカのくせにしつこいし反則だ。バカのくせに。心の中で悪態をつきつつ、ポヤはペペの胸に顔を埋めて泣いた。

音楽はいつの間にか終わっていたようで、機械が止まるカチッという音が響いた。

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