ポヤとペペの追いかけっこ

戦争で両親を亡くした幼いポヤは、焼け野原から復興の糧になりそうな物を拾って役人に届けることで報酬として食糧を得て暮らしている。

そんなポヤの後ろをついて回るのがぺぺという大男。心が壊れていていつもヘラヘラ笑っているが、力持ちなのでポヤはいつも仕事を手伝わせている。

ある日、いつものように民家の跡からアクセサリーや写真等の小物を拾っていたポヤは、いつも背後で歌を歌うなり鬱陶しく絡んでくるなりしてくるぺぺの姿が無いことに気づいた。どこにいるのかと見回してみれば、少し離れた隣家の陰からヒョッコリと顔だけ出してポヤを見つめている。


「コラ、おじさん!何してんだよもう!こっち来て手伝ってよ!」


別に言うほどおじさんではないが、自身を5〜6歳の子供と勘違いしているであろうぺぺに向けてポヤはよくそう呼ぶ。

一方おじさんと呼ばれたぺぺは少々不満げに大きな身体をのっそりと現したが、その場から動こうとしない。早く来いとポヤが促しても動かない。どうも怒るポヤの姿を見て楽しんでいるようで、次第に顔がニマニマと悪戯っぽい嫌な笑みを浮かべ始めた。


「マジで何!?早く!ぺぺ!」


ポヤが名前を呼ぶことで、ようやくぺぺが動き出した。

手足をブラブラと振り、ピョンピョンと何度か軽く跳ねて、弾かれるように走り出した。急激な速さで迫ってくるぺぺ。ポヤは何だか妙に恐ろしくなり、拾い集めていたものを急いで鞄にしまい込みその場を逃げ出した。


「何!?何!?何!?何!?」


小さな足で逃げるポヤにすぐさまぺぺが追いつき、ポヤの前に回り込んでピョンピョンと跳ねる。

この人とうとう本当に馬鹿になっちゃった。いよいよ身の危険を感じ始めたポヤはさっさと踵を返し、瓦礫の山へ突撃していった。ぺぺの方が身体が大きく足も速いので、追いつかれないように障害物を利用しなければならないからだ。

ポヤは瓦礫の間にできた小さなトンネルをかい潜る。後ろでぺぺの「あっ」という声が聞こえたが構わない。トンネルを抜けたポヤはすぐ目の前の、窓があったであろう枠に飛び乗った。

直後、目の前に形だけはよく整った間抜けな笑顔が飛び出してきた。


「うおおわああああ!」


悲鳴を上げると同時にバランスを崩すポヤ。身体が後ろに向けて倒れていく。そのまま背中を固い瓦礫に打ちつけられるかと思いきや、前から回されたぺぺの大きな手に受け止められ事無きを得た。

そのままぺぺの手で優しく地面へ降ろされた後、ポヤは震える足を隠すこともせず「マジで何?」とぺぺに尋ねた。


「本当に頭おかしくなったのかと思ったんだけど」

「おもしろいから」

「酷いなアンタ。コンビ解消する?」


"コンビ解消"の言葉にぺぺが「やだぁ」と泣きそうな顔になる。


「じゃあ謝って」

「ごめんなさい」

「よし。じゃあ仕事しよう」


そう言ってポヤが笑顔を見せると、ぺぺもパッと笑顔になった。

それから2人は日課の物拾いを再開したが、ポヤは咄嗟に発した自分の悲鳴が思いの外図太かったことに少しだけショックを受けていた。

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