第17話 生きた証

 注意!この話は後半残虐表現多めです。

  それでも良いという方、見ていただけると幸いです。



「情報提供ありがとう、『G』。本当に感謝するよ。」


 父が言い放ったのは、ガイが内通者だと言うこと。

 あまりの衝撃で、その場にいる全員が足を止めた。


「ガイ...?本当なの?」


「ガイ、嘘よね?なんとか言いなさい!」


「『G』、どうしたんだい、そんな不貞腐れた顔をして。」


「......話が違う。俺はコイツらには黙っといてくれって言ったんだ。」


「おっと、これはすまなかったね。ついつい言ってしまったよ。」


 父は不敵な笑みを浮かべながら答えている。

 父が笑う事など、基本あり得ない。その時は、おそらく狂気的な笑みとなるだろう。

 今の状況がそれだ。


 それに、内通者が居ることは分かっていたが、まさかガイが内通者だったなんて思いも寄らなかった。

(ガイ...裏切り者め...。)


「そうそう、『G』よ、この子達を殺した後で、お前には褒美をやる約束だったな。」


「そうだ。こっちはそれが欲しくてやってんだ。」


 (褒美?...まさか!)

  ガイは兄弟の中でデルタに次いで出来が良い。そんなガイがボク達を犠牲にしてもとりたい褒美、それは恐らく、

   『自分の命を永遠に保証すること』

              だろう。


 昨夜、ガイは暗い顔をしていたが、あれは少し罪悪感があったということなのだろうか。ファネットが死んでしまった事に対する、罪悪感だったのだろうか。


 もともと、ガイには自分の事を優先して考える傾向があったが、それでも優しさは残っていると思っていた。

 ガイが候補に挙がっていたという話をしたのがいけなかっただろう。


「それで、『G』よ、褒美の件だが、」


「お前の命を、後1年延長させてやろう。」


「は?」


        は?

 

 ガイは呆気に取られている。ボクとバジリア、ハンスもそうだ。

 ガイの命を延長するだって?命の保証じゃなくて?


「おい、待ってくれ親父。どういう事だ?俺の命を保証してくれるんじゃなかったのか?」


「ああ、保証するとも、1年は。だが、アルヘルムの当主は2人もいらないのだからね。」


「予定より1年長く生きられるんだぞ?もっと喜べ、『G』。」


「な、な...んで...。」


 ガイは落胆し、絶望の淵に落とされている。残念ながら、これは自業自得といった所だろう。ボク達にはどうする事も出来ない。


「な、んで...。せっかく生き残れると思ったのに。兄弟まで売ったのに...。」


「ふざけるな、親父...。ふざけるな!」


 途端、ガイは父にナイフを持って飛びかかった。

 父は軽々と避けている。

(予定外の戦闘...。この隙に!)


 ボク達は全力で走り出した。このチャンスを逃してはならない。と思った。


 後ろで声が聞こえる。


「君の命は1年保証するといってるだろ?面倒だから、今は眠っていてくれ。」


 何かを蹴り飛ばす音と、ガイの断末魔が聞こえた。膝蹴りでも入れられたのだろう。


「さて、予定は狂ったが、追う事にしよう。」


 父からの逃走が、また始まった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ボク達は山を降り、街まで走る事にした。

 アイフやクレアとも合流し、街を目指した。暫くすると、また父が追ってきた。


「お、『A』、『B』、『C』、『E』、『H』までちゃんといるじゃないか。これなら殺しやすい。」


 狂気的な事を淡々と呟く父を他所に、ボク達は街へ走り出した。

 日の出前と言う事もあり、人がほとんど通っていないが、街まで行けば何人かはいるだろう。


「まずは『A』と『C』から殺ろうか。」


「チッ、なんてこった。こっちに来ないでくれ!」


「お父様、辞めて!」


 アイフとクレアが追われている。助けなければ。しかしボクもハンスを抱えている。下手に動けば返り討ちに遭うのは確実だろう。

(どうすればここを乗り切れる...。考えろ、エリセス、考えろ!)


 これ以上ないほど頭を捻った。だが、どんな策を考えても、父に勝てるものは無かった。

 その時、後ろで甲高い悲鳴が聞こえた。

 一瞬振り向くと、クレアの首が180°回転して血を吹き出していた。

 咄嗟に目を瞑り、ハンスにも見せないようにする。

(クレア...。ごめん。助けられなくて...。)


 さらに、後ろからアイフが全力疾走してきた。


「クレアが...。やられちまった。俺のせいだ...。」


「アイフ、クレアの事は一旦後にしよう。今は走るよ!」


 ボク達は走った。街についても全力で走った。人気の多い所まであと数百メートルだ。

 しかし、父もすぐそこまで迫ってきていた。


「市街地に入られると殺せないのでね。今死んでくれるかい?」


 父の言葉を無視し、走る。だがどうだろう、ボクは次第に遅れて行く。原因は分かっていた。ハンスを抱えているからだ。

 父は10m後ろまで迫っている。そんな時、ハンスが口を開いた。


「エリセス姉さん、ごめんね。ボクが荷物なんだよね。」


「何言ってんの、ハンス。行けるから。」


「そうかな。なら良いんだけど。」


 だが、行けないだろうと言うのは分かっていた。最悪、アイフかバジリアにハンスを渡そうとも思っていた。

 しかし、ハンスは動いた。

 突然、抱えているハンスが暴れ出した。


「ハンス、暴れないで、追いつかれちゃうよ!」


「やっぱり、荷物は捨てるべきだよ。お荷物は必要ないんだ。」


「さようなら、エリセス姉さん。僕の分も楽しく生きてね。」


「ハンス、何言って...!」


 ハンスは腕から抜け出し、父の前に立ちはだかった。


「父さん、勝負だ!」


 ナイフを持ったハンスが父に言う。

 父はそれを軽くあしらった。


「邪魔だ。退け、『H』。」


 父は大きなナタを持っていた。

 次の瞬間、ハンスの体は二つに分断されていた。小さな子供の体は上半身と下半身で分かれてしまったのだ。


「ハ、ハンス...。」


 すかさずアイフに呼びかけられる。


「ハンスはあとだ、走れ、エリセス!」


 ボクは悔しさを噛み締め、今まで以上に最高速度で走った。

 そして、


 街の市街に入り、人気も多くなってきた。父の姿はすでに消えている。

 ここまで来られたのは、ボクとアイフとバジリアだけだ。

 3人しか助からなかった。ハンスとクレアはあと少しだったのに。

 ハンスを犠牲に逃げてしまった事を、深く後悔した。反面、少し安堵している自分が嫌になりそうだった。


 その日、ボク達は街の宿に泊まって、疲れを癒した。また、その街の墓場に兄弟達の墓を建てて弔った。

 墓前に手を合わせてこう念じる。

(ファネット、クレア、ハンス。逃げ切れたよ。ボク達が3人の分まで人生を楽しむから、安心して見ててね。)


 その街を出る時、3人の進路は別れた。  アイフはフレイス王国で暮らすそうだ。

バジリアは世界を転々とする様だ。


そしてボクは、隣国、ゲルンの国籍を作って、兵士になる事にしたのだ。弱い人を守る。守り切れないものを無くすために。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 一瞬だけど、随分と長く感じる走馬灯だった。

 いや、そういうものなんだろうか。

 木に打ち付けられたままのボクは、目を閉じて、死の覚悟をした。


『本当に死ぬの?このままで良いの?』


 ふと声が聞こえた気がした。ハンスの声だ。


『姉さんは守り切れないものをなくすんでしょ?僕はダメでも、ベリィさん達を守らなきゃ!』


 ベリィ達も、じきに殺られてしまうだろう。

 ボクにはもう、ガイに勝てる力は無い。体力が足りない。


『回復が必要なら、時間を稼ぐ事もできるよ!だから姉さん、ベリィさん達を守る為に戦って!お願い!』


 ハンス、どうしてそこまで言うの?そこまでの義理はないはず。だってボクは、君を死なせてしまったんだから。恨まれていて当然の存在なんだから。

 じゃあ、とハンスは続けた。


『ガイさんを倒さないと、僕達が報われないよ!』


 一瞬、困惑した。だが、どういう事だろうか。幻聴のハンスに理由を聞いてみる。


『僕達は父さんにやられたでしょ。その父さんに情報を流してたのはガイなんだよ!』


『だから僕達のためにも戦って!』


 そう言われて、ボクはハッとした。

『兄弟のため』『ベリィ達のため』

 2つの理由がある。どちらもまだなんとかなる。自分には、何も守れていなかった。まだまだ戦う理由があるじゃないか。

 ボクはそう信じて、武器を持ち立ち上がった。拳銃を持って向かってくるガイを、睨みつける。


そしてまた、改めてもう一度思うのだった。


 ー『コイツは、今ここで絶対に殺す』ー

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