第15話 アルヘルムの秘密

注意!この話の冒頭部分に、性描写は

含まれません!

  固有名詞ですので、ご了承ください。

「書き方がいけない。」とかは本当にごめんなさい。



 ボクには7人の兄弟姉妹がいるのだが、その中で、1番下に『H』という弟がいた。

 Hはボク以上の落ちこぼれと言われていて、

他のみんなが『H』くらいの時にできた事ができないのだ。


 彼が自分より出来の悪い兄弟だという事は分かっていたが、そんな事で差別するような人間にはなりたく無い。


 ボクは今回のやらかしで一気に評価が落ち、訓練でも『H』の相手ばかりさせられる様になった。


 Hはボクより2つ年下で8歳。ボクどころか兄弟の中で一番弱いのは必然の事だ。

 だが、教育の過程で、通過点ごとに成長が早いものを良とするのがアルヘルム家の方針だ。努力ではなく、天才を獲るのだ。


 『あの日』から1ヶ月くらいが経ったある日の事。いつものように、ボクは『H』の訓練を手伝っていた。この日は銃の訓練だった。


「とりゃ〜!」


「もうちょっと右だよ。そうそう、よ〜く狙って!」


「や、やった!姉さん、的の真ん中に当たったよ!」


「凄いじゃん!頑張ったね、『H』!」


「ありがとう、『E』姉さん。」


「良いの良いの。さて、ボクもやろうかな〜。」


 ボクが銃を用意して、訓練を始めようとしていると、弟の顔が俯いている事に気づいた。


「どうしたの?」


「...ごめんね。姉さん。ボクが落ちこぼれだから、本当は1人で集中したいでしょ?」


「そんな事無いよ。ボクだって、『H』には強くなって貰いたいしね。いつかは対等に戦える様になろう!」


「ありがとう。本当にありがとう。」


 弟は泣き出してしまった。そこまでだったのだろうか。ボクは彼を優しく抱きしめてあげた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その日の深夜、ボクはふと目が覚めてしまった。起きてしまったのは仕方が無いので、とりあえずトイレに行って、もう一度寝ることにした。


 トイレに向かう為、ボクが廊下を歩いていた時の事。

 ある一室から光が漏れていることに気がついた。中からは声が聞こえる。

 

 気になって、少しだけ中を覗いてみたところ、どうやらアルヘルム家の大人たちが集まって話をしている様だった。

 隙間から見えたのは、父、母、祖父の姿だった。

 いけないと分かっていつつも、ボクは会話を聞いている事にした。


「当主、そろそろ誰にするか決めてくれ。『A』が産まれてからもう16年が経った。そろそろ良いのではないか?」


 この声は祖父だ。祖父は父の事を当主と呼ぶ。祖父は前当主で、父のさらに父親なのだ。


「私の視点では、『D』か『G』が良いと思っております。」


 ...父だ。父は祖父に敬語を使っている。


「では1人に絞ろう。『D』と『G』、次期当主はどちらにするのじゃ?」


(なるほど、次期当主を決めてたのか!それで『D』か『G』なんだね。あの2人は天才だからね。)


「確実に強い者を残すなら『D』です。可能性を信じるなら『G』です。どうしましょうか?」


 兄弟の中で最も強いのは、次男の『D』だ。

 最も成長が早いのは『G』だ。さて、どっちになるか。


「ならば『D』じゃ。可能性など必要無い。次期当主は『D』で決定じゃ。」


「承知しました。『D』には私から伝えますので。」


 なるほど、『D』が当主か...。おめでとう、『D』。やっぱりアルヘルム家は可能性というものを


「では、3日後に『D』の当主になる儀式を行う。『D』にはデルタという名を授けよう。」


 その時だった。

 ボクが『D』...デルタ当主だと知って心の中で祝福していた時だった。衝撃の言葉が耳に飛び込んできたのだ。


「では、デルタ以外の者は...。」


「そうじゃ。」

    

  ー3日以内に全員殺すのじゃ。ー


 突然の祖父の言葉に、声が漏れそうになった。3日以内に殺す?何を?ボク達を?

 そんな事を考えていた時、初めて母が口を開いた。


「いくらアルヘルム一族の習慣とはいえ、悲しいものです。我が子を7人殺さなくてはならないとは。」


 やっぱり、殺すんだ。ボク達のことを。

 会話から察して、アルヘルム家の習慣というのは『1人を残してそれ以外を消す』だろう。

 前からおかしいとは思っていた。

 父には6人の兄弟がいたと聞いているが、その誰もがこの世にいない。そんな事がある訳がなかったのだ。


 そう思った次の瞬間には、全力で寝室に戻っていた。そして、デルタ以外の全員を起こして回った。抵抗した者もいたが、なんとか全員を起こす事ができた。


 その後、ボクの部屋に兄弟6人が集結した。

 ボクは廊下で聞いてきた事を全て兄弟に話した。デルタが次期当主になる事、アルヘルム家には恐ろしいしきたりがある事、そして、このままではボク達が死んでしまう事。


 誰もが顔を蒼くし、絶句していた。

「殺し」にいくら慣れても、自分の死には慣れないものだ。


「どうしよう、俺たち死んじまうのか...」


「嫌だ、死にたく無いよお!」


「みんな落ち着いて。死なないための作戦を考えよう。」


「『E』、あんた、何か作戦があるの?」


「あのね...この家から脱出しようと思うんだ。」


 それはとても危険な案だった。この家から脱出するという事は、少なくとも父と母、祖父や、デルタが入ってくるかも知れない。

 

 デルタや祖父がなんとかなったとしても、その状態で父、母と戦うのは無理だ。彼らはあまりにも強すぎる。


 案の定、長女の『B』は


「無理よ!そんな作戦。成功する訳がないわ!」

 

 と言っていた。だが、


「他に何か方法ある?」


 と聞いたら黙ってしまった。

 これ以外に方法は無いのだ。確かにリスクは高い。この中の誰かが死ぬ。全滅の可能性だって大いにある。


 それでも、何もせずに死ぬ訳にはいかない。兄弟たちが全員納得した事で、この作戦は可決された。実行は明後日の明朝4時。

 各々装備を持って集合となった。


 最後に皆が解散する直前、ボクはある事を提案した。あの日、少年バレスに言われた事だ。


「そうだ、名前決めようよ!名前。」


「何言ってるんだ?俺たちには名前あるだろ。」


 彼らには常識がなさすぎる。ボクもほとんど無いが。


「もう、違うよ!ちゃんとした、外の世界でも使える名前!」


「そういえば、外の世界じゃ、この名前通用しないんだったわね。」


「なるほどな。じゃあ決めちまおうぜ!」


 (名前ってそんな簡単に決めて良いものだったっけ?)

と思ってみたが、名前の無いものにつけるのは不自然では無かった。


 結局ボク達は名前を決める事にした。各々それぞれのアルファベットを頭文字にするのだ。

 ボクはもちろん、“エリセス”だ。


 皆で考えた結果、名前はこう決まった。

 長男Aは「アイフ」、長女Bは「バジリア」

次女Cは「クレア」、(デルタ、エリセスは飛ばす。)四女Fは「ファネット」、

 そして、三男Gの名は、「ガイ」

 四男Hの名は「ハンス」と決まった。


 それぞれの名前を決め、ボク達は新しい人生を歩める様になった。

 ボクはバレスに心からの感謝を伝えたい。いつか会う事が出来るなら。

 そして皆が心の中で決意した。


 ー必ず、この家から脱出してみせるー


 ー新しい地で、新たな人生を歩むー と。


 この時は全員大きな夢と希望を持って動いていた。新たな人生を歩むのだから。

 しかしその希望は、次の日に打ち砕かれる事となる。

 ボク達は油断していたのだ。

 相手が「プロ」だという事を甘く見過ぎていたのだ。


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