第12話 昔の知り合い

  林の中から出てきたのは、黒い服の男と、紫の服の女、そして、見覚えのある顔に赤い服を着た男だった。


「おー、なかなか良いもんあるじゃないか。」


「2つの国が争った感じね。2種類の軍服が散らばってるわ。」


「銃や金目のものは売り捌く。それ以外の役立ちそうな物は持って帰るぞ。選別はしっかりな。」


「おう。...こりゃどうだろう?」


 盗賊(黒)はフレイス軍の勲章を持っていた。


「それは打った後に加工してくれるそうだから、街の闇商で売る。」


 赤い服を着た男が的確に指示を出している。これで盗賊達は回っているのだろうか。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「アイツら、盗賊か?死んだ兵士の物を漁りにきたのか...。」


「仲間の死体を漁られるのは...あまり良い気分じゃ無いな。」


「エリセスさん、コイツらどうする?見逃す?殺る?...エリセスさん?」


 彼等が今後の判断をしようとしていた時、ボクは1人、絶句していた。

(そんな・・・有り得ない・・・あの子が居るはずない・・・)


「エリセスさん!聞いてる?エリセスさん!」


「え、あ、ああ。うん。何かな?」


「もぉ...。今ね、アイツらどうするの?っていう話してるんだけど、エリセスさんはどう思う?」


 そう言われても、と言った感じではある。が、一つ名案を思いついた。


「ボクが直接行って話付けてくるよ。」


「え⁉︎ちょっと、大丈夫⁉︎」


「エリセス、それは無理じゃないか?相手は山賊だぞ?」


「少し、ボクにもやらなきゃいけない事があるんだ。」


 そう言って、ボクは戦闘があった場所へ飛び出した。


「誰だ!まだ居やがったのか...。リーダー、殺るぞ!」


「リーダー、コイツはゲルン軍の人間よ。気をつけないと...リーダー?」


 ボクを見た赤い服の男は、先程までのボクと同じように、絶句していた。


「おい、なんで、ゲルンの、軍に居るんだ?」


「やあやあ、こんにちは。キミたち盗賊だよね。赤服のお兄さんと少し話が有るんだけど。お時間頂戴するよ。」


「誰だテメェ!リーダー、早いとこコイツ殺しましょうぜ。」


「待て。俺もな、ちょっとこの人に話が有るんだ。」


「リーダー、この人誰なの?知り合い?」


「昔の知り合いみたいなモンだ。」


 仲間内で会話をしているようだが、そろそろ切り出さなくちゃいけない。


「さて、まずはキミに質問。キミはガイ・アルヘルム君で間違いないよね?」


「そっちこそ、エリセス・アルヘルムだよな?」


「よし、間違っては無かったようだね。じゃあ次にもう一つ質問。キミはここで、何をしているのかな?」


 分かっているが、一応聞いておく。


「見りゃ分かるだろう。盗賊だ。」


 彼は続けて言葉を発した。


「それじゃ、こっちからもう一つ。あんたは何故、軍なんかに入っているんだ?」


「一言で言えば、職探しの結果かな。これぐらいしか出来ないんだよ。ボク達は。」


 この言葉が地雷だったのだろうか。彼は顔を顰ると、突然責める様な物言いを始めた。


「確かにそうだな。だがどうだ?俺は盗賊やれてる。あんたが言ってるのは『闇に堕ちないで』の話だろう。いい加減に諦めろ。」


「..ボクは闇に堕ちるなんてことはしたく無い。正当に生きて、悪い事でもあるのかな?」


「お前のは正当とは言えないな。、軍に入る事で殺しを正当化してるんだろ?」


「そういう事じゃないよ!」


「まあ、俺も人の事は言えない。盗賊をやってる俺達だが、一応フレイス軍に雇われてんだ。」


「なっ!?フレイスに...なんで...?」


「おいおい、そんな事も忘れたのか?俺達は元々フレイスの人間だろうが。」


「あっ...!」

 

 そうだった。長い間ゲルンこの国に居た所為で忘れていた。自分は元はフレイスの人間なのだ。

 まあ、家や産まれがフレイスなので、必然とも言える。


「まあいい。...俺らはな、フレイスに雇われてる。つまり一応はフレイスの兵士って事になってんだ。だから...ゲルンの兵士は殺さなきゃなあ!」


 ガイは突如銃を構え、ボクに向かって発砲してきた。

 周りの2人も続けて攻撃を開始した。

 (3人はまずい。避け切れないかも...)


「他にも仲間が居るんだろう!お前を潰してさっさと殺してやるよ!」


 すると、背後から弾丸が飛び出し、黒服の男に当たった。


「がっ!」


「黒、大丈夫⁉︎リーダー、黒が!」


 彼等はリーダーが今、戦闘以外に興味を示していない事に気付いたのだろう。

 森の中に戻ろうとしていた。しかし、さらに茂みからの銃弾は、女の方も軽く撃ち抜いてしまった。


 即死を狙った様で、弾丸は胸を貫いている。しかし、仲間の死を気に留める様子も無く、ガイはボク達の方に近づいて来た。


「わざわざそっちから場所教えてくれるなんてな...。手間が省けて嬉しいぜ。」


 先程の一撃で、ベリィ達の居場所がバレてしまった様だ。黒服の行動不能を対価とするには、リスクが大きすぎる。


「黒服を殺ったらそっちに行く。とでも考えたんだろうがな、そこまで俺も馬鹿じゃない。そんなのがただの罠だって事くらい分かる。」


 ガイはじりじりと歩み寄って、銃を構える。そして、銃口をベリィ達の居る方へ向け、


「エリセス、止めなくても良いのか?このままじゃお仲間さんは死んじまうぜ?それともやっぱ、心配なんてしてないとかか?」


 本当なら、今すぐにでも撃っている所だ。ただ、相手がガイである以上、撃つのも気が引ける。ベリィ達を助けようにも、返り討ちに合う可能性が高い。様々な事象が絡まって、ボクの行動を制約している。


「おら、撃っちまうぞ。...テメェの本性はそういう事なのか?残念だぜ。」


 その言葉を聞いて、体が動き出す。若干残念そうなガイの声が、心に刺さる。それと同時に、ベリィ達の危険を感じた。

 (今すぐ、コイツを止めなきゃ...。)

 ボクは全力で走り出した。しかしもう遅い。ガイは引き金に指を掛け、発射していた。

 さらに、その直後、彼は手に持っていた拳銃を使ってもう一弾、撃つ。

 ボクが彼を突き飛ばしたのは、その後だった。

 同時に倒れ込み、彼を取り押さえる。しかし、それより重要な事を思い出す。


「もう遅いぞ。2発も撃っちまった後だ。それに、突き飛ばすだけとは、それがお前の甘さだ。」


 ボクはガイの言葉を最後まで聞かず、手を離してベリィ達がいる場所へ向かっていた。

 すぐ近くの茂みの中で待っているのだ。

ベリィ達は無事なはず、誰も死んではいない。と淡い期待を持って見に行く。

 バレているのだから、隠す気なんて無い。此処にガイが来ても、それは仕方が無い事だ。

 そう思いつつ、茂みの中を覗き込んでみると、



 その場所には、惨劇が広がっていた。

 口を両手で押さえて恐怖し、怯えているフィフォンの横に、腹部を撃たれ必死に痛みを堪えながらも、流血で倒れそうになっている兵士がいた。

 さらにその横には、背中を撃たれて気を失っているベリィの姿があった。


「フィフォン...これは...?」


「さ、最初の弾で兵士さんがやられて...。2発目でベリィがやられた。俺には...どうする事も...。」


 フィフォンは未だ恐怖に顔を歪ませている。そこへガイが近づいてきた。


「まだ完全に仕留められて無かったか...。良し、今から殺してやるよ。」


 兵士さんはともかく、ベリィは意識が無い。もしかしたら、もう死んでー

 そう考えると、徐々にガイに対する怒りが沸いてきた。今まで許していたのは、何の為だったのか。

 殺す。殺す。殺す。殺す殺す殺す殺す!

 ボクの心の中で、結界が崩れた。今と昔の区別も着かないまま、ゆっくり彼に告げる。


「ふざけるなよ、ガイ。キミは調子に乗りすぎた。やり過ぎの一線を超えてしまった。」


「だから此処で、キミを殺す事にしたよ。」


「キミに猶予は必要無い。実刑で、即死刑判決だ!」


「やっと本性出したか。ケケ、面白くなって来やがった。」


「お喋りももう、必要無いよね?」


 ガイを睨みつける。向こうも睨み返す。

 一瞬、風が吹く。その一瞬だ。それが戦闘開始の合図だった。

 両者が対峙していた状況から、それぞれ武器を構えて、同時に戦闘を開始した。


「今ここで、キミとの戦いに決着を着ける!」

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