第8話 要塞爆破ー① ルディア視点

 注意!:この先数話に渡って残虐表現多めです。それでも良いという方、読んで頂ければ幸いです。




その小型要塞は基地の近い森の中にあり、そこまで大きいとは言えない場所だった。

 大きさは...例えるなら、少し大きめの山小屋くらいだろう。要塞を中型の爆弾で破壊なんてできる訳が無いと思っていたが、この大きさなら大丈夫そうだ。

 私達は近くの茂みに隠れた。


 入り口には兵士が2人、近くの櫓のような場所で見張っている者が1人、周囲を歩いている兵士が4人。合計7人を一気にやらなければならない。


「7人か...どう配分したものか。」


 と私が悩んでいると、


「おい馬鹿、見え無ぇのか?あそこに2人いるから9だ。」


 ザクロスが指差す先には、別の茂みがある。...よく見ると、迷彩服を着た2人組が潜んでいるようだった。


「恐らくあそこ2人は手練れだ。先に周りの雑魚を殺るのが効率的だろうな。」


 ザクロス、殺しを効率で考える程慣れてるのか?いや、それは無いはず。


「確かに。じゃあ、どうする?」


「俺が茂みの野郎共と櫓を殺る。テメェは門、他は周りを殺れ。」


「分かった。失敗しないようにな。」


「失敗した事なんか無ぇよ。」


「俺達は周りを殺るんだな?2人ずつに分けよう。」


 リードは何やらNo.8の人と会議を始めた様だ。


「お前ら、数メートル横に移動しろ。」


「何故?」


「俺がここから櫓を殺す。そうすれば茂みの奴らに位置がバレるだろう。俺は動けるが、テメェらはそうもいかねぇだろうからな。」


 安全策を採るなら動いた方がいいだろう。しかし、ここで動いた事でバレるという可能性もある。


「早くしろ。さっさと終わらせてぇんだ。」


 半ば強引にザクロスに移動させられる。


「良し、俺が撃ったらそれを合図にして飛び出せ。...やるぞ。」


 ザクロスは銃を構え、櫓に向かって撃った。その銃声と共に、私は門の兵士を狙った。兵士達は突然の奇襲に驚いていたが、やはりそこは実践の兵士。体勢を立て直して銃を構えて来た。


 すかさず私は片方の脇腹を狙って弾を打ち込む。


「ぐはっ!」という声と共に、口から血を吐いて倒れた。これで1人目は行動不能だ。

 と思っている隙に2人目が撃ってきた。

私は倒れ込んだ1人目を盾に銃弾を防いだ。

 意識が無い兵士の心臓辺りを弾丸が貫く。

「あがっ!」という短い悲鳴と共に、盾となった兵士が痙攣し、すぐに動きが止まった。

...これで完全に1人目は死んだな。


 間髪を入れずに2人目は撃ってくる。それを避けつつ、銃口を向けて、脳天を狙う。一発で殺せるようにしなければ。


「がっ、ぐうっ...」


 頭に穴を開け、血を流して倒れる兵士。

 これで門前は片付いた。他はどうなっているのか。


 ザクロスはすでに終わっているようで、こちらに向かっていた。しかし、リード達は未だ手こずっており、避けるので精一杯という感じであった。


「仕方無い、加勢しに行くか。」


 私はNo.8の方、ザクロスはリードを助けに行った。見回り兵士はそこまで強く無く、急な乱入に困惑したまま死んでいった。


「一応、片付いたか。」


「なぁ...俺たちってさ、人、殺したんだよな。」


 リードの呟きで我に帰る。よく考えたら、今日が初実戦なのに、結構残虐に殺してしまった。

『戦争』という状況に置かれた事で、感覚が麻痺していた。すでに私達は、『一般人』から『人殺し』になったのかも知れない。いや、もうなったか。


「人殺したくらいで何言ってんだ?俺らは兵士だろぉが。」


「それはそうなんだが、初めてなんだから、なぁ...?」


 この中に人殺しが初めてじゃ無い奴がいるなら、今すぐ離れた方が良いだろう。


「まあ、これから先こんな事山程あるだろう。ここでしょげている様じゃダメって事だ。」


「お、おう。やっぱそうだよな。こんなんじゃこの先やって行けないよな。」


「良し、分かった。俺が先頭で行くよ。怖さを無くすには丁度良い。」


「...分かった。じゃあ入ろうか。」


 私達は、入り口に向かおうとした。


「おい、待て。入り口から入る前に、裏口を探すぞ。無ければ窓、入り口はその後だ。」


 む。確かにザクロスの言う通りだ。こう言う潜入や実戦で活躍しているのを見ると、やはりコイツは天才なんだな、と思う。


 裏口を探してみたが、無く、さらに窓すら無い。どうやら警戒は万全の様だ。そもそも普通、周りにあんなに人員を割く筈がない。

 そんなに重要な所なのだろうか、ここは。


「仕方が無ぇ。入り口から入るぞ。ただ、中にも張ってる奴はいるだろう。警戒すんぞ。」


「じゃ、じゃあ行くよ。」


 リードが入っていく。続けて私達も入る。

 中に入ってみると、部屋が一つと、階段があった。


「部屋と階段があるな。2階にも行ってみるか?」

 その時だった。私は、階段の隙間から、銃口が見えていることに気付いた。

 銃口は先頭、リードの方を向いて構えられている。


「リード、上だ!避けろ!」


「え?上?」


 私はすかさず銃の持ち手でリードを死角であろう場所に突き飛ばした。

 しかし、そうなると、次に狙われるのは...2番目のNo.8、ことテギエだった。

 だが、すでに弾丸はセットされているので、彼を突き飛ばす時間は...無かった。


 ドッ、という鈍い音と、血の滴る音の2つがした。


 それと同時に、ザクロスが階段の隙間に銃声を響かせた。血の音はこれか。


「チッ、間に合わなかったか...」


「あ、あああ...」


 リードは衝撃を抑えられずにいる。

 目の前には、仲間の死体が転がっている。仲間の死というものは、久しぶりだ。ふと、戦争の時を思い出してしまった。いけない、いけない。

 私が慣れを感じたのは、昔の戦争の影響か?そういう事だったのか...。


「おい、ぼーっとして無ぇでさっさといくぞ。」


「いや、ちょっと待てザクロス。テギエが死んだんだぞ。放って行けない。」


「...まぁそうか。だが、俺は爆破をさっさと終わらせてぇんだ。だからコイツはお前が外に出しておいてくれ。」


「俺が、やるよ...。ザクロス達で任務を遂行してくれ。俺、ちょっと耐えられなくて...」


「成る程な。おい、行くぞ。」


「...すまない、リード。そして何よりテギエ、

ごめんなさい。」


 リードは戦線を離脱し、基地に戻って貰う事にした。

 1階と2階では、爆心で破壊する割合が高いのは1階という事になり、部屋の中に爆弾を投げ入れる事にした。


「窓が有れば、もう少し安全にできるのだけど。」


「しょうが無ぇだろ、窓しか無ぇんだからよ。」


 窓が無いのでは、遠距離爆弾の意味が無いだろう。しかし、爆破までの時間が長い分、遠くまで逃げる事が出来るだろう。


「じゃあ、私が開けるから、この中に投げ入れてくれ。」


「俺がやんのかぁ?別に良いけどよ...」


「じゃあ開けるぞ。」


 ガチャ、私はドアを開ける。中には...人が居なかった。


「誰も...居ない?」


「つうか、何も無ぇなこの部屋。」


 私達の目の前に広がっているのは、外側の壁と同じ物質でできている部屋...というか

"空間"だった。


「まさかここ、偽物?」


「カモフラージュ用か。中にいたのも恐らくあいつ1人だろう。」


「そうか...ここ、どうする?」


「一応爆破しろとの命令だ。やっとくべきだろう。」


「じゃ、よろしく。」


「ん。」


 そう言って、ザクロスは部屋に爆弾を投げ入れた。私達は...全力で逃げる。

 100メートルくらい離れた時、爆発音がした。

 振り向くと、建物は崩れ、周辺の木々や草は真っ赤に燃えていた。

 人体とだったものがある。恐らく、先程の兵士や周りにあった死体だろう。...こんなにいたか?



「想像以上に威力が高い爆弾だったな。」


「ああ、まるで前後から爆弾の音を感じる様だったな。」


「俺もだ。」


「そういえば、フレイスの要塞の本拠地はエリセス達の所だったな。大丈夫だろうか...。」


「アイツらも馬鹿じゃ無ぇ。なんとかなんだろ。」


「そうだな。」


 こうして、一応任務を成功させ、基地へ戻る事にした。

 途中、テギエの死体を背負ってゆっくり歩くリードと合流し、一緒に基地まで行く事にした。

 テギエは道の途中に軽く埋葬しておいた。後でまた来よう。


 森を抜け、ようやく更地に出た時のこと。


「やっと基地に戻って...ってあれ?」


 周囲は焼け野原だった。近くでは兵士の呻き声も聞こえる。


「ここって...まさか戦場?」


「おい、どういう事だ。」


「間違えて戦場に来ちまったってか?おいおい、冗談じゃ無ぇぜ。」


「まあ、元々これから戦場に行く事になってたから、それが早まったって事と考えれば良いだろう。」


「それより、周囲を警戒して、体勢を整えるよ。」


「そうだな。まずは周囲を調べよう。」


「それが先決か。俺ぁここを調べるぞ。」


 こうして、私達は状況把握を主として、調査を開始した。



 思えば、この時既にあれは決まっていたのかも知れない。あれはもう、避けられない事だったのかも知れない。

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