第6話 帝国陸軍第230中隊
しばしの休暇の後、春も半ばに入り、桜が咲き誇る頃となった。
私達は『訓練兵』から『新兵』に昇格したようだ。どの新兵も配属先との顔合わせを間近に控え、少しそわそわしている様に感じる。
かくいう私達も、今日がその当日だったりする。配属決定時に渡された紙を元に、集合場所へ向かう事にした。
その建物は、煉瓦造りの壁が聳え立つ豪華な造りをしていた。
その建物の入り口には、『帝国///////本部』と書かれており、文字がよく見えなかった。
しかし一応集合場所なので、指定された部屋に入ってみると、私達の他に数名の兵士が部屋の中に居た。
その中には、見覚えのある顔もあった。
「ベリィ、あそこに座っている人、合同演習でザクロスにやられていた班長さんじゃないか?」
「一応、クラス一緒だったから名前くらい覚えてあげよう?彼はリード君だよ。でもあの人、成績もかなり良かったから上の方に行ったと思ってたよ。」
「へ〜。...あのさ、彼もそうなんだけど、なんかSクラスの人が多いね。ボクは名前知らないけど。」
ほら、エリセスだって名前知らなかったっぽいじゃないか。
「あ、もしかしてここにいるのって...」
ベリィがそう言いかけた時、中年の兵士が中に入ってきた。恐らくここの中隊長だろう。 そして彼は教壇につき、話を始めた。
「えー、諸君。今回は230中隊編入おめでとう。本隊は、新たな仲間を歓迎しよう。」
「さて、君達も大体予想が付いているだろうが、ここにいるのは成績上位2位から8位までの新兵だ。」
「本当は1位も欲しかったが、今年は特殊だからね?」
「では、本題に入ろう。この中隊は、230中隊と銘打っているが、実際はただの中隊では無い。」
「ここは帝国陸軍の“特殊作戦部隊”だ。」
その一言が発せられた後、一瞬の沈黙の後、どよめきが起こった。
(特殊作戦部隊?まさか、スパイとか...)
声には出さなかったが、私もそう思わざるを得なかった。
「近年、フレイス王国との国境戦線で、我々の仲間が多く亡くなっていった。そうすると、我々も人手不足になってくるのだ。」
「そこで、新兵の中から優秀な人材を集めて編入したというわけだ。」
「特殊作戦部隊といっても、スパイや盗聴をやらせようという訳ではない。」
「普通、陸軍の兵士は相手の軍と戦っていく訳なのだが、それだけで戦争が回ると思うかい?ただぶつかっているだけでは、双方に甚大な損害、被害が出てしまうだろう。」
「それらを最小限に抑える為に開発された、帝国陸軍の精鋭組織がここだ。」
「危険な軍務になるだろうが、これから先の作戦で少しでも君達が生き残る事を切に願うよ。」
「私からは以上だ。頑張って生き延びるようにね。」
そう言って、中隊長は去っていった。
その後、別の上官から『作戦の実行日は3日後』という事と、フレイス王国の激戦地である、『ストラスブール戦線』というところで行われることが伝えられた。
(ストラスブール戦線だと⁉︎対フレイスの最前線じゃないか!)
そんな危険な所で、私達のような新米の兵士が出来る事なんて死、以外にあるのだろうか。
「上官!質問です。ストラスブール戦線で、我々は何をするのですか?」
「簡単に言うと、...そうだな、爆弾工作と言ったところか。」
(ば、爆弾工作...新兵にそんな事をやらせるのか...)
「その、爆弾工作というのは、何処で...」
「戦線にあるフレイスの要塞に潜入し、爆弾を設置して爆破。その後本隊が突撃するという手筈だ。」
「なるほど、わかりました...」
「ああ、因みに使うのは33式遠距離中型爆弾だ。」
(33式ということは、最大投弾範囲はおよそ250mと言った所か...)
33式遠距離中型爆弾とは、帝国が開発した爆弾の一種で、大きさは中。250m以内から投げて使う事ができる。まあ人間の限界は60m位なので、基本は発射装置を使うのだが。
「爆弾の起動は新兵にやってもらうつもりだ。」
上官がそう言った瞬間、新兵全員が硬直した。
「特に君、ルディア新兵、君には期待しているよ。次席だったそうだね。」
「は、はい...」
「つまりこの中で一番機動力があるという事だね。頑張りたまえ。」
「はい、精進致します...」
(3日か...あと3日で地獄行きか...)
ー数分後ー
上官は居なくなり、半分の新兵はすでに帰っていた。
「ねぇ、どうする?」
「どうするって...?」
「このままじゃ死んじゃうかもね。」
「や、やめてよ。不吉な事言わないでよ。」
「って、ルディア、聞いてるの?」
「ん?ああ、うん。」
「絶対聞いてなかったよね...」
「ここの上官はさ、これ以上仲間が減るのを恐れてる。だから新兵に危険な仕事を押し付けていると言えるだろう。」
「だとしても酷いと思うなぁ。」
「そういうものだろう。私達は新兵だからな。逆らうわけにもいかないし...」
「ボクたちは捨て駒で、生きてたらラッキー、みたいな事だよね?それって凄く酷いと思うなぁ〜。」
「生き残ればいいだけの話。」
「確かにそうだね。よーし、じゃあ三人で行き来残ろう!」
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ザクロス視点
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俺の配属先は帝国の参謀本部だ。今日仕事の初日で、指定された場所に向かう。
その場所は、見覚えのある場所であった。自分達も一度だけ、学校の課外で来た事がある。まさしく帝国陸軍の本部であった。
(まったく、派手なこった。こんなんに金使うなんてなぁ。上の連中も馬鹿しかいねぇってかぁ?)
中に入ってみると、そこはやはり、というべきか。帝国で随一の建物である。内装も最先端となっている。
(これからこんな派手なところで仕事しなきゃなんねぇのか?出世したら絶対変えてやる。)
部屋に到着し、少し待っていると、若い青年が入って来た。
「君が今年の新兵かな?こんにちは。僕は君の...上司みたいなものだ。」
「上司、っすか。」
「そう。君より歳は4つ上だね。」
(やっぱ敬語とか使わなきゃなんねぇか。こればっかりは、しょうがねぇか。)
「これから、君には研修を受けてもらう訳なんだけど、まずは何をすると思う?」
「はぁ。雑務とかっすか?」
「まあそれもそうなんだけど、まず一つやらなきゃいけない事があるんだ。」
「じゃあ何すればいいんすか?」
「新兵にはまず、戦場に行ってもらわなきゃね。」
「は?」
思わず声に出してしまった。ここに来て戦場へ行け、だ。無理もない、と自分に言い聞かせる。
「つまり、戦えって事っすよね?」
「そうだね。何事も基本からだよ。兵士なんだから、戦わなきゃね。」
「いやー。自分も最初に入った時は驚いたよ。まさか戦場へ行けって言われるなんて思ってなかった。」
「でも、今思い返せばどんな経験も重要だったよね。」
「...それで、俺はどこに行けば良いんすか。」
「今ね、人手が足りなくて優秀な人を募集してる所があるんだ。えっと、特殊作戦部隊って言うところなんだけど...」
「特殊作戦部隊?どういうことすか?」
「一言で言うなら、陸軍の精鋭部隊みたいな所だね。まあ1位で卒業した君なら余裕だと思うけどね。」
「...はい。分かりました。そこに行けば良いんすね。」
「良し。ああ、それと、3日後に行くんだよ?その日にそこの本部に行ってくれ。」
「期待しているよ、ザクロス・フォーゲンバーグ君。」
そう言われ、詳細の乗った紙が渡された。
(あぁ...?230中隊だぁ?アイツらがいる所じゃねぇか...。そういえば精鋭が集められたっつってたな。そういうことか。)
こうして俺は、特殊作戦部隊に一時的に異動となった。
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