第5話 卒業
季節が巡り、4回目の冬が過ぎた頃、卒業の時期が近づいていた。
「ザクロス、今回こそは負けられ無い。これが最後だからな。」
「テメェが勝てる未来なんざ一生来ねぇっての。それより、さっさと見せやがれ。」
「2人ともまた争ってるの?ボクは枠の外なの?」
「エリセスも勝負する?私は構わないけど。」
「いや、ボクは良いよ。負けてる気がするからさ。」
「おい、さっさとしろ。敗者に待たせられる勝者の気が分かるかぁ?」
「そうだな、敗者と決まっては無いが。では行くぞ、せーのっ!」
私達はお互い手に持った成績表を見せつけ合う。毎度の如くここでやられるが、今回はそうはいかない。と、思っていた。
ルディア・ソラリア
筆記 96
射撃 97
体術 100
筆記(聴) 98
卒論 96
ザクロス・フォーゲンバーグ
筆記 98
射撃 100
体術 100
筆記(聴) 98
卒論 100
「9点差...くっ、負けた...」
「おいおい、随分と自信あった様だが、なんだぁこりゃ?いつもと変わんねえんじゃねえのか?」
「結局勝てなかったかぁ〜。あ、ルディアさ、ボクには勝ってるよ?」
「ああ...そうだな...」
「なんか勝負の土俵にも入れて無い⁉︎ボクも悲しくなってきたよ。」
「だから言っただろ?テメェは勝てねぇって。」
私が落胆の道を極めていると、ベリィが通りかかった。
「あ、負けた?やっぱりね。ザクロスには勝てないと思ってたよ。」
「ベリィ、昔に比べて心が冷たくなったね。昔はあんなに可愛い子だったのに...」
「んん〜?ルディアはベリィの親かな?」
「エリセスさん、あたしが言いたかった事を言ってくれた。さすがだわ。」
「ベリィ、さん付けはやめて欲しいな〜。」
「だってー。」
ベリィはエリセスをさん付けで呼ぶ。理由を聞いてみた所、「エリセスさんって、なんか年上のお姉さんって感じするから。」と答えていた。
「しかし、あと1週間で卒業かぁ〜。なんか短い様な気がしてくるよ。」
「そうだね。私はかなり充実した日々を過ごせたと思っているけど。」
「そんなもんかねぇ。俺には良く分からねぇけどな。」
その日は落胆しながら帰り、1週間も早く過ぎていった。途中、偶然会ったサンド達に卒業式の後の打ち上げに誘われたので、6人で行くことにした。
ーそして、当日。
卒業式の日が訪れた。
「これより、卒業式を始めます。まず、〜」
「久しいね、この感じは。入学式を思い出すよ。」
「あの時のザクロスは凄かったよね〜。」
「うるせえなぁ。」
「ボクなんか初日から隣だよ?ホントにびっくりしたよ。」
「確かにね。あたし達はその時キツいだろうって話してたけど、実際にそんな感じあるよね。今はだいぶ落ち着いてるけど。」
「また生徒代表やる?」
「卒業式に生徒代表もクソもあるか。」
「なんだ。つまらんな。」
「テメェに言われたかぁねぇよ。」
「2人ともちょっと静かに!ボク達注目されちゃってるから。」
エリセスが止めに入ろうとしているが、やはり火花が散っているので、止められないと思う。
しかしここで何かする訳にもいかないので、一旦弁えよう。
「最後に、成績上位10名発表。
1位 ザクロス・フォーゲンバーグ
2位 ルディア・ソラリア
3位 エリセス・アルヘルム
4位 〜
5位 〜
6位 べナルト・サン・ハイドリヒ
7位 リード・ヘル
8位 〜
9位 サンド・バロック
10位 ガラード・マックス
以上で発表を終わり、卒業式を閉会とする。」
サンドやガラードはAクラスながら10位以内に食い込んでいた。ベリィも6位には入っている。
しかし、どうにも自分が負けている事を分からせる様で嫌な発表だった。
卒業式が終わった後、私が4人で話していると、
「いたいた。おーい!ルディア、こっちだ!」
遠くでサンドが私達を呼んでいる。
「ああ、今行くよ。」
「例の打ち上げ会ってやつだね。ボクはそういうの初めてなんだ!ワクワクするよ。」
「まあ私も初めてなんだがな。」
こうして私達一行は出発し、サンド達が予約していた店に向かおうとしていた。
「この学校に来るのも最後だな。」
「そういえばそうだったね。バイバ〜イ、学校。」
エリセスはそう言って校門から足を進めた。これで本当に終わりなのか。と思うと若干寂しく思えて来る。
「じゃあ、行くか。」
こうして、私の学生生活は終わりを迎えた。
「えー、それじゃあ卒業を祝して、」
「「「「「乾杯!」」」」」
サンドの掛け声と共にみんなで乾杯した。
「やっと卒業か〜。長かった長かった。」
「途中で俺らがSに上がれなかった時は本気で落ち込んだぜ。」
「やっぱザクロスは強いよな。ルディアより上だろ?」
などと雑談を交わし、その日は夕方まで語り尽くした。
ー帰り道ー
「そういえば、みんなは配属先決まった?」
「ボクは陸軍230中隊って所だったよ?」
「あ、私も一緒だ。」
「お、一緒じゃん!」
「俺らは2人とも陸軍の157小隊だったぜ。」
「...帝国参謀本部の研修だ。」
「え⁉︎ザクロスすごいじゃん!」
「だけど、バラバラになるね。」
「進路がバラけるのはしょうがない事じゃんか。また会えば良いさ。」
「ガラード君もたまには良い事言うじゃん。確かにそうだよね。ボクもそう思うよ。」
「じゃあまたみんなで生きて会おうな!」
「ああ。」
「それじゃあな、いつか。」
そう言って私達は別れた。
「あ、そういえば今日から軍の寮だね。だからボクもルディア達と一緒だ!」
「エリセスさんの私生活が見られる。」
「最近のベリィはよく分からなくなって来たよ。私では手に負えない。」
「問題児じゃ無いんだからさ!」
ベリィは頬を膨らませる。
これがベリィのあるべき反応だろうと私は思っている。ベリィの象徴と言っても良い。
「まあ、そういう時もあるよね!ボクはベリィを応援するよ...?」
「...あれ?エリセスさんからも哀れみの感情が向いている?」
ベリィは誰が見てもすぐ分かるくらい落ち込んでいる。そんなにショックだったのだろうか。
「明日くらいまでには立ち直っておいた方がいいと思うよ。」
「ルディアこそ最近冷たいかも...」
私達はこれから兵士になるのだな、と思いつつも、少々楽観的すぎたと今でも思う。
これから何があるか、どんな地獄が待っているかを知っていれば、あそこまで後悔することはなかっただろう。
ー戦場帰りの兵士達は皆口を揃えて言う。ー「戦場は地獄だ」と。果たしてそれは事実なのだろうか。地獄ほどでも無いかも知れないし、大地獄かも知れない。それがどう転ぶかは、その時の戦況次第である。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
近況ノートで毎話あとがきのようなものを書いてます。
1話ごとに200文字程度の感想の様なものなので、良かったらそちらも是非見ていってください。 by 作者
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます