第4話 天才の強さ
視界の先には2つの班。一方は無傷、もう一方は2人やられている。
しかも、攻めている方で闘っているのは1人だった。
「どうしたらコイツ倒せるんだよ!」
「班長、危ない!」
「えっ...」
彼が驚きの声を上げた時には既に、バッジに弾が命中していた。
「班長!」
「おいおい、弱ぇなあお前、しかも無駄死にってやつかぁ?」
「ザクロス、死ねぇぇぇぇ!」
最後に残っていた班員が銃声を響かせるが、ザクロスはそれを悠々と避け、返り討ちにしていた。
「そんな、負けた...」
「お前らが勝てる訳ねぇだろ。」
こうしてSクラスの班は負けてしまった。
「おつかれ〜ザクロス。」
「テメェはいつになったら戦う気になるんだぁ?」
「いいじゃん、君1人で勝てるんだからさ。」
「ったくよぉ、お前個人戦じゃ勝てねぇぞ。」
「そんな事言わずにさぁ〜。」
どうしよう。コイツと今から戦うのか⁉︎
「ところでよぉ、さっきからそこに居る奴らはどうすんだぁ?」
「ん〜、見たところAの人達だね。この班で最後かな?」
「一個下の雑魚の集いかぁ?さっさとやるぞ。」
「よーし!ボクも参加するよ!ボクだって一応ザクロス除けば1位なんだからね!」
「勝手にしやがれ。」
「なんだよ、さっきまで戦えって言ってたくせに〜。」
「それとこれとじゃ話が別だ。」
「何が?」
「おい、良いからさっさとやるぞ。」
「は〜い!」
そう言って2人はこちらに銃を向けた。しかし此方にも作戦はある。勝てる算段も少し、ある。
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「あいつらは何故か2人しかいない。かと言ってもう1人が弱い訳じゃ無い。恐らく2位だな。」
「ただ、アイツを狙うよりは少し難易度が下がるはずだ。私がヤツの相手をするから、女の方をやってくれ。」
「了解だ。」
「任せろ!」
「それと、ベリィは引き続き此処からだけど、良い?」
「全然問題なし!」
『おい、良いからさっさとやるぞ。』
『はーい!』
「全員準備して、来るぞ。」
...1秒も有っただろうか。私は合図を出した。
「行くぞ!」
サンド達は女の方を狙いに行く。彼女も一瞬驚いた様な表情だったが、直ぐに戻り、反撃を開始した。
問題は私だ。コイツを相手にするという事は、自殺行為と言っても差し支え無い。さてどうするか。
「テメェ、此処のリーダーだろぉ?じゃあテメェが一番強ぇんだよなぁ!」
そう言って私に発砲してくる。間一髪だった。
「チッ、一発じゃ無理か。まぁ所詮あと数発ってとこだな。」
弾が連射される。しかし速い。撃つ感覚が速すぎる。避け切れるか...
「くっ、あ、危なかった...」
何とか弾を全て避け切る事が出来た。が... 「ぐっ...」
不意打ちされて、バッジに近い腕に当たってしまった。模擬弾とは言え、痛みが走る。
「外したか...図々しい奴だな。さっさと倒れろよな。」
「そう簡単には、ね?ところで、君のお仲間さんは大丈夫かな?」
「あぁ?」
戦いながら向こうの戦況を見ていたが、勝敗が決した様だ。
サンドとガラードがやられている間にベリィが撃ち込んだのだろう。
「うちの班員もやられたけど、アンタの仲間もやられたな。」
「...茂みの中に残ってたヤツか。」
「バレてない訳は無いと思っていたが、戦況推理まで出来るとはね。」
「なるほどな、じゃあ先にアイツを潰すか。」
空かさず茂みに銃弾が撃たれる。
「クッ...」という声とともにベリィがやられたのが分かった。
(マズいな。しかしここで動揺を悟らせてはいけない。)
「やられてしまったか。これで私1人だ。君も1人。」
「たった1人で俺に勝てると思ってんのかぁ?ま、雑魚が何匹でも変わんねえけどな。」
「それはどうかな!」
再び戦闘開始。今度は私が攻める。全力で弾を撃つが、彼はそれをいとも簡単に躱していく。このままでは拉致が開かない。
私は意を決して突撃した。
「おい、お前知ってっかぁ?銃ってのは中、遠距離武器なんだぜ?それをこの距離で使おうってかぁ?跳弾するかもなぁ。」
「いいや、違う。この距離じゃ無い。発砲に距離は要らない。ゼロ距離で撃てば、必ず当たるんだからね。」
そう言って私は彼のバッジに銃を突き立てた。
「チッ...!」
弾を撃つ、これで...
「痛ぇなぁ。腕でも当たったらそこそこだな。」
「なっ...!」
バッジは新品のままを保っている。間一髪で銃口を逸らされた様だった。
「はぁ、なかなか面白い発想だったけどよぉ、残念ながら勝てるほどじゃなかったなぁ。」
私は尚も弾を撃ってみる。もちろんこれは躱された。
「勝敗も決まってんのにまだやんのかぁ?悪あがきたぁみっともねぇことすんなぁ。」
「くっ...。」
恐らくこれが最後の一発になるだろう。
パァン、銃声が響く。弾は奥へと飛んでいってしまった。
「ったく、遅いぜ。」
彼は静かに呟いた。
その直後、勝敗が決した。
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「優勝は、Sクラス、ザクロス・フォーゲンバーグ班!」
歓声が起こった。ある者は喜び讃え、ある者は悔しがる。
「さすがだぜザクロス!」
「お前ならやると思ってたよ!」
「ザクロス、カッコ良かったよ!」
「...邪魔だ。失せろ。」
「ザクロス、それは酷いよ?」
「別に良いだろうが、何言ったって。」
「そういうことじゃなくて、言い方だよ!」
「ハァ?」
ザクロス達は歓声を浴びながら帰って行った。
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「負けてしまったな。」
「でもあれは善戦したと思うぜ。」
「でも負けは負けだよね。あたしなんか一瞬でやられちゃった。」
「俺達なんてアイツと戦ってすら無いんだぜ?」
「でもあの2位の人倒してたじゃん。」
「倒したのはお前だろ。」
「しかし、やっぱりアイツはバケモノ級なんだよなぁ。」
「今日の戦いで改めて分かった。やっぱり私はアイツに勝てない気がする。」
「気にすんなって。アイツに勝てるヤツなんていねぇから。」
「だけど...」
「まあまあ、次勝てれば良いじゃん!」
「そうだな。」
こうして、その日の合同演習は終了した。
春が終わり、夏、秋、冬と過ぎて行き、もう一度春が訪れた。私は努力を重ね、Sクラスに行くことができた。サンドとガラードはAに残ってしまったが、ベリィはギリギリで合格した様だった。
「ベリィ、上がれたんだね。」
「ギリギリだったよ〜。ホントに落ちる寸前だった。」
「結果的には行けたんだし、良いんじゃ無いか?」
「うん...ねぇルディア、1つ全く関係ないけど気になった話して良い?」
「構わないよ。」
「ルディアってさ、実は結構美人じゃん。なのに何で男が寄ってこないと思う?」
「何を言ってるんだ?ベリィ。私は美人っていうのはベリィのことを...」
「あたしはどうでも良いの!結局、何でモテないか分かる?いや、モテてはいるか。」
「わ、わからないけど。」
「ズバリ!男口調だと思うのだよ!そのせいでちょこっと近寄りがたい感じなのだ!」
「は、はぁ。」
「直してください。」
「そんな急に言われても...」
「はぁー。これだからルディアは...」
「どういう事⁉︎」
ベリィと訳の分からない話をしていると、見覚えのある人影が教室に入って来た。
(あ、2位の人だ。それと...アイツか。)
「〜だからー!...ん〜?あの子達は、合同の時の子じゃないかな?」
「あぁ?...ああー、あの諦めの悪かった雑魚か。」
「なかなか酷い評価だな。」
「事実だろぉが。」
「ほぉ、やるか?」
「良いぜ、やる前から勝負が決まっている物ほど簡単なモンは無ぇな!」
私とザクロスの間に火花が散った様な気がした。
「はいストーップ!そんなんじゃこの先やっってけ無いよ?ボクとしても友好的にしておきたいし。」
「あの、言い回しが凄く嫌なんだけど。」
「え〜?そうかな?」
「...あ、そういえば。ザクロスは有名だけど、ボクは名乗ってなかったね。ボクは2位のエリセス・アルヘルムだよ。これから宜しくね!」
「よ、よろしく...」
こうして私のSでの生活が始まった。
入ってからも努力を続け、4年の始め頃には、エリセスも追い越した。ただ、どんなに苦労して、どんなに努力しても、ザクロスには勝てなかった。
季節が巡り、学校に入ってから4回目の冬が過ぎた頃、卒業の時が訪れていた。
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