第2話 馬鹿と天才
式が終わった後、教室で教官が来るのを待つ間、ベリィと少し話していた。
「ねぇ、生徒代表の人凄くなかった?なんかもの凄く威圧されるような感じがしてさ。」
「あぁ、あのZの人か。確かにあの人は凄かった。私は今までいろんなところで生きてきたけど、あんなに殺気立った人は初めて見たよ。」
正直に言って、戦場の熟練兵士かそれ以上のオーラだったと思う。
「うん、だよね。なんていうのかな、あのー・・・蛇に睨まれたカエルみたいな感じかな?小動物になった気分だったよ。」
「...ごめんベリィ、それはちょっとよくわかんないわ。」
「えー、なんで〜」
そんな話をしていると、教官が戻ってきた。
「すまない、遅くなった。では、本日は皆にこれからの訓練等について説明しようと思う。」
「まず、明日についてだが、明日は座学と基礎体術訓練だ。これは後々凄く重要になる上、成績点としてもでかいから真面目に受けるように。」
私が教官の話をある程度聞き流しつつ、重要な部分だけ抽出する術を身につけようとしていた時、ベリィが肩を小突いて話しかけてきた。
「ねぇ、ルディア。座学ってテストあるんでしょ?だったらそれの点数勝負しない?」
「いいよ。まあずっと先の話だろうけどね。おそらく数ヶ月先だけど、覚えてられる?」
「ちょっと、あたしだってそれくらいはできるよ!そこまで馬鹿にしないでほしいな!」
そう言ってベリィは頬を膨らませる。
「おい、そこの2人聞いているのか。」
教官にそう言われて慌てて前を向く。
「まぁいい。次からは気をつけるように。ソラリア訓練兵、ハイドリヒ訓練兵。」
「「はい。」」
ベリィと同時に返事をする。なんというか、苗字の後ろに『訓練兵』をつけられるのは変な気分だ。
「では続けるぞ。本日から君たちには我が軍学校の寮に移ってもらう。場所を今から伝えるので、そこに移動してくれ。これで今日は解散だ。」
さて、これから寮に移動するのだが...
「ねぇ、ベリィ。これホントに部屋も同じなのかな?」
「うん。ていうか、今なんだか結構酷い扱いをされた気がする。」
「うん、した。」
「酷い!」
そんな感じで部屋に付き、しばらくくつろいだ後、食堂に向かう。夕食を食べに行くのだ。
「なかなか広いところだね。」
「実家の工房と同じくらい広いんだけど。」
「例えが独特すぎて全く伝わらないよ、ベリィ。」
「わかってるけど!素直な感想だもん。」
その後席に付き、食べ始める。
(しかしなかなかの量だな、食べ切れるかな...)
と考えていると、ふと声がした。
「こんにちは、いや、こんばんはだったな。」
「どうも。」
「えーっと、誰だったっけ?」
「ああ、同じAクラスのサンド・バロックだ。よろしく。」
「同じくAクラスのガラード・マックスだ。よろしくお願いするぜ。」
「うん、よろしく。私はルディア・ソラリアだ。こっちの金髪はべナr」
「べナルト・サン・ハイドリヒです。ベリィと呼んで欲しいな。」
ベリィはなんだか私を牽制しようとしていたが、結局本名を言っている。何がしたいのやら。
「ああ、そうだ。隣、いいか?」
「別に構わないけど。」
「ありがとう。」
そう言って、2人は隣の席に座った。
しばらくは食事や雑談をしていたが、ある時、サンドが『あの』話題に触れ始めた。
「そういえば、今日の演説凄かったよな。」
今日はどこもこの話で持ちきりだ。耳を澄ますと、どこも同じような話をしているのがよく分かる。
「ザクロスだっけか、アイツ。狼みたいだったよな。
...もしかしてアイツ、人狼⁉︎」
「いや、人狼はないでしょ。」
この2人はバカなのか。
「でもさー、Sクラスの奴らは授業中ずっとアイツと一緒なんだろ。大変だよなー。」
「うわ、キッツいなー。あたしは無理。絶対に耐えられない自信があるよ。」
「俺も同意見だぜ。」
「確かにかなりの圧だが、彼の実力を知るには間近で見られてちょうど良いと私は思うけど。そう考えるとSも良いかも。」
「おいルディア、お前それ本気で言ってんのか⁉︎ていうか、Sに行きたいのか?」
「まぁそうとも言うけど、ちょっと気になっただけだ。あれだけのオーラがあるんだから、どれだけの力を持っているのか気になるよね。」
「...あんまり危険なことはすんなよ。」
「ヘ?何言ってるんだ?見るだけだし、危険なことはないだろう。」
「いや、そうなんだけど、もしもって話だ。」
「うん、まぁそうだな。」
「なぁなぁ、明日って何すんだっけ?」
突然ガラードが聞いてきた。コイツ...話聞いてなかったな。
「明日は座学と基礎体術訓練だよ。それくらい覚えとけよ、ガラード。」
「ま、まぁ確認の為だからな?うん、うん。」
動揺が隠せていないガラードを見て、ベリィが彼を挑発し始めた。
「本当に分かってるなら確認とか要らないと思うなぁ。」
「なっ、念には念をって言うだろ!」
「どうかなぁ〜。」
「テメェ...」
その後も2人は挑発と防衛を繰り返し、5分後にようやく落ち着いた。まったく、何をやってるのか...。
食事を終え、解散しようとしていた時のこと。そろそろ帰ろうかという話をしていて、食堂の生徒達も帰ろうとしていた時だった。食堂の端で喧嘩が始まったのだ。
皆が騒ぎ始めたので、私たちも見ることにした。覗いてみると、1人の生徒に数人が群がっているようだった。
「アンタさぁ、今期で一番強いんだろ。だったら俺達と勝負しねぇか?」
「一番つえぇんだったら俺ら数人くらいには余裕だよな?」
「負けるわけねえって。Zだもんなぁ。」
その数人は皆半笑いで余裕そうである。そんな中、その中心にいた人物が「ハァ...」と溜息をついた。
「おいお前ら。俺ぁ言ったよなぁ?そういう馬鹿みてぇなのはやめろってさぁ。」
「おいおい、俺達が馬鹿だって言いてえのか?そもそもこんなもんこの人数じゃなきゃ来てねえっての。」
「もしかして馬鹿はお前じゃねえの?ギャハハ、とんだブーメラン野郎ってか?」
「どうしたよ、萎えちまったか?それとも降参か?」
彼はーザクロスは一言も発さなかったが、ついにその口を開いた。
「いいぞ。お前らそんなに死にてぇなら先に言えよなぁ。まとめてあの世行きにしてやっからよぉ。」
「へっ!上等だ。」
「そう来なくっちゃな!」
「よし、いくぞお前ら!」
リーダーのような少年がそう叫んだ次の瞬間、全員が彼に飛びかかっていた。
「チッ、雑魚が。」
「知ってるかぁお前ら。雑魚ってのはなぁ、どんなに集まっても雑魚なんだよ。」
そう言った直後、見たことのない、技の形からして東洋の武術で彼らを圧倒した。素早く彼ら全員をなぎ倒していたのだ。
彼の腕にはそこまで筋肉がついている様には見えない。ならば何故、何人もの相手を、一瞬で倒し込ませる事ができるのか。
「お前らの雑魚さがよく分かったろ。それがわかんねぇから馬鹿なんだぜ?」
「お前...なんでそんな早く...動けるんだ...」
「お前さ、人間にも弱点はあるんだぜぇ?そこんとこ考えろよ、馬鹿。」
「ぐっ...」
私の聞きたいことを見事に聴いてくれたあの少年は、悔しそうに顔を歪めている。
「それと、そこで見てるやつら。これが馬鹿だ。お前らも馬鹿にはならねぇ様になぁ。」
まただ。またこの強烈なオーラ。すくみあがる様な圧を持ったオーラだ。この力はどこから出ているのか知りたい。
その後、彼はすぐにその場を立ち去ってしまった。それに合わせて、生徒達も続々と帰り始めた。
私が見ていた場所に立っていると、横からベリィが抱きついてきた。
「け、結構、怖かったね...」
ベリィは震えながら呟く。
「ま、まぁ1日に2回もこんな事が有れば、ねぇ?」
「あ、あぁ。そうだ。こんな事普通ねえから大丈夫だって。」
3人とも、気が動転しすぎて会話が噛み合っていない。それほどまでに衝撃だったのだろう。実際のところかなり私も面食らった。だからここに棒立ちなのかもしれない。
「ルディア...?大丈夫か?」
「ん?ああ、少し考えていただけだ。だが、ようやく決まった。」
「そ、そうか。で、何が決まったんだ?」
「私は2年後のクラス分けでSクラスに入れる様に頑張ることにした!」
ベリィとガラードは呆れ驚いており、
サンドは一瞬困惑したが、すぐに呆れとも心配ともつかない様な顔をして、
「おい、まじかよ...」
と呟いていた。
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