第3話
『そうだ。飛鳥。あのなあ、あそこで河童釣りしてる美少女がおる』
「詫びのつもりか俺の気を引こうとしてるのか、そんな嘘を言ったところで無駄だぞ。お前と話せるのは俺だけだと言ったが、この間は春日大社の神主も、興福寺の坊さんとも話せると言ったのはどこぞの腐れ河童だこら。どつき回すぞ」
『それはそれで、おいておいて』
「おいておくなアホが」
『ほんまに、美少女が河童釣りしてるんやで』
その手には乗るもんかと、俺は高貴な鼻を鳴らす。妖怪たちの言うことを断じて鵜呑みにしてはいけないのは、幼い頃より幾度となく降りかかった困難の数々によって、骨の髄まで染み渡って分かり切っていることなのだ。
「美少女じゃなかったら頭の皿叩き割ってやるからな」
『ほんまや。ほんなら、美少女やったら
「ああいいとも。五つでも六つでも買ってきてやるからな、のどに詰まらせて死んじまえ」
それに河童は目をキラキラとさせて、こっちだと言うとすいすいと水の中を泳ぎ始める。頭や身体に引っ付いた藻を払い落しながら、俺は嘘を言っていたらハリセンボン飲まして、絶対に干物にして中国かアメリカにでも売り飛ばしてやる気持ちのまま、橋を渡った。
『ほれ、これを美少女と呼ばんのやったら、飛鳥の頭の中は湧いとるで。褒美の草餅は十個や』
河童がひょっこりと顔を出したその脇で、真剣な表情をしながら釣り糸の先にキュウリを一本引っかけて何やら難しそうに眉根を寄せている美少女がいた。そのあまりの異様さに俺がまじまじと見つめていると、美少女は俺の視線に気がついて、愛想のひとかけらもなく言い放った。
「見てないで手伝ってよ。河童がどうやったら釣れるのか、調べているんだから」
「……マジかよ」
俺が呆然としたのと、河童が水面から草餅を十個だと言うのと、目の前の美少女が池の中にキュウリのついた糸を投げるのが同時だった。それが、俺と学校一の美少女、
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