「わたしも」


 動かない彼に。声をかける。


「わたしも好きだった。あなたのことが。ずっと。ずっとずっと。好きだったの」


 なんとかして、彼を抱きながら、起き上がる。


「ごめんね。私。すぐ死ぬから。起きてね。私のことなんか忘れて、生きて。あなたは」


 私なんかよりも、ずっと。


「やっぱり」


「え」


「なんとか、なるんだ。これだ。これだよ」


「沫柯。まつかっ」


「うわいたたたたっ。くるしいよ煮喬にたかちゃん」


「あっご、ごめんなさい」


「僕ね。君のことが好きだったんだけど、それ以上に、かわいそうだと、思ったんだ。なんとかして、君の助けになりたい。好きだけど、それ以上に、君の役に立ちたいと思った。そしたら、起き上がれた」


「うん?」


「だから、ええと。僕は君のために、生きたい。です」


「それを好きっていうんじゃないんですか?」


「え、そなの?」


 彼。また倒れそうになる。抱いて支えた。


「だめ。もう告白しちゃ。ほんとに死んじゃう」


「あれ。違ったのかな。かわいそうという気持ちが必要だと思ったのに。違うみたい。眠くなってきた」


「だめっ」


「煮喬ちゃん、僕が起き上がる前に、なんて言ってたの。もう一回、おしえて?」


「わたしがしぬ」


「そこじゃなくて。その前」


「あなたのことが好き。だいすき」


「あ、それか」


「えっ」


「両想いなら死なないんだ」


「そんなばかなことが」


 彼。倒れそうになる。


「あっ」


「ごめん。ひさしぶりに全速力で走ったから。足つった」


「なによ。まぎらわしい」


「僕の兄がね。幼稚園で。ぼうじゃくぶじんな振る舞いをしてたんだ。だから、そうはならないぞって思って、なるべく身体を動かさないように生きてきた」


「ん?」


「どうしたの?」


「あなたのお兄さん、って。幼稚園の年長で死んだ?」


「うん」


「あの猿山のボスか」


「そう。そんな感じ」


「その節はどうも。もうしわけねえことをいたしました」


「いやいや。兄に関しては因果応報なので。幼稚園の覇権なんか握ろうとするからああなるんだ」


「沫柯」


「えっ兄さん?」


「そのかたは、おまえ、俺が寝てる間に」


「やっべ。修羅場る」


「良い彼女さんげっとしたじゃねえか。はじめまして。沫柯の兄です。いやあ、ついさっき起きましてね。なんで寝たのか自分でも分かんないんですが」


「あれ?」


「あれ?」


「ん、どうかしました?」


「あ、ああいや。なんでもないです。はじめまして。煮喬、といいます」


「煮喬さん。弟をよろしくおねがいします」


「あ、はあ」


「邪魔なので兄はここで失礼します。どうぞごゆっくり」


「あ、はい。どうも」


 猿山のボスがいなくなる。


「ね。これ」


「記憶。消えてるね?」


「神様のアフターサービスかな」


「だんだん絞まってきてるんだけど」


「あっごめんなさい。抱きしめるのって力加減むずかしい」


「はずかしいから、そろそろ、はなれよっか?」


「いや」


「えっと」


「好き。大好き。私のこと、好き?」


「好きだから、さすがに公衆の面前でずっと抱き合ったままは、その」


 告白されると人が死ぬ。


「ぐええっ」


「うれしいっ。大好きっ」


「くるしいっ。物理的社会的両方の側面から死んじゃうっ。離してよっ」


「あっごめんなさい。ついうれしくって」


「しぬかとおもった」


 でも、もう、大丈夫。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

告白されると人が死ぬ 春嵐 @aiot3110

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ