第2話:後遺症

 私は正当防衛を訴える心算で、外道二人を殺さない事にしました。

 殺すと国王の処罰も激しくなり、私は確実に処刑されるでしょう。

 ですが、襲われて必死で抵抗しているうちに偶然傷つけたのなら、処刑まではできないと思ったのです。

 だから、四本貫手の中指と薬指の間を広げて、王太子の目突いてやった。

 これで一生目が見えず、王太子も廃嫡されるだろう。


「ウギャァァァァ、眼が、眼が、眼が!」

「なっあ!」


 王太子は激痛で泣き叫び、チャーリーは身体を硬直させている。

 私は流れるようにチャーリーに近づき、掌底で顔面を叩きつける。

 身体の中で気功を練り、それを掌底に込めて鼻を中心に叩き込む。

 手に鼻が潰れる感覚が伝わってきて、心に暗い喜びが広がる。

 これでチャーリーの鼻は血行障害で壊死するだろう。

 その原因が梅毒だという噂を流せば、社交界に出ていくことは不可能になる。

 そうなれば、チャーリーはソモンド侯爵家を継げなくなる。


「キャアアアアアあ!

 助けて、誰か助けてください!

 殿下が、王太子殿下が襲ってきたのです!

 チャーリーから私を買ったと言って、強姦しようとしたのです!

 助けて、誰か助けて、王太子の地位と王族の権力で、淑女を強姦しようとする者から私を助けてください、騎士様、聖なる騎士様、お助け下さい」


 三文芝居、幼稚園の学芸会のような、陳腐な芝居だが、婚約披露宴用に特別に仕立させたドレスを切り裂かれ、あられもない姿の貴族令嬢が逃げて来れば、普通は貴族令息や騎士が我先に助けに来てくれる。

 だが、襲った相手が皇太子とチャーリーだと言えば、早々助けに入れない。

 下手に助けに入れば、王家王国に睨まれて、家が滅ぼされる可能性がある。


「ケイ殿、まずはこのワインを飲んで落ち着かれよ。

 近衛騎士、ケイ殿の警護を任せる。

 もしケイ殿に何かあれば、貴族の誇りにかけて私が貴君を許さん。

 相手が国王陛下であろうと、ケイ殿を渡すではないぞ。

 私が名誉を守るために、王国から分離独立せねばならないような状況にはするなよ、分かったな!」


 助けを求める私に救いの手を差し伸べてくれたのは、バーンウェル辺境伯ソロモン卿だけだった。

 王家やソモンド侯爵の権力を恐れず、正義を貫けるのは彼だけだった。

 噂通りの美丈夫だが、武勇の噂は全く聞かない。

 だが、醸し出される気配からは、圧倒的な強さがうかがえる。


 表に出ている彼の強さは、大陸一の魔導士という事だが、戦士としても突出した武芸の持ち主なのは、側近くで気配を確かめた私には分かる。

 そんな彼に脅かされた近衛騎士は、とても不幸だ。

 近衛騎士に選ばれるくらいだから、騎士の中でも優秀な者だろうが、甲冑を着ていてもガタガタ震えているのが分かる。


 まあ、そんな事は私にはどうでもいい事だ。

 私にとって大切なのは、強姦魔二人の傷をソロモン卿が癒してしまわないかだ。

 この世界には治癒魔法の使い手が極端に少ないようで、この国で治癒魔法が使えるのはソロモン卿だけなのだ。

 私が復讐のために与えた傷を、ソロモン卿はどう判断して処置するだろうか?

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