第3話:追放刑

「私は王太子殿下に襲われたから必死で抵抗しただけです。

 王家に対する叛意も不敬の気持ちも全くありません。

 王太子殿下にケガを負わせたのは正当防衛でございます。

 それともこの国では、婚約者を王太子に売る事も、王太子が地位を振りかざして婚約している令嬢を襲う事も、王家王国が認めているのですか?」


 殿下などという敬称をつけるのは反吐がでるほど嫌だが、裁判で不利になるようなすきを見せるわけにはいかないから、嫌々継承をつけてやる。


「王太子殿下もソモンド侯爵家令息チャーリー卿も、神に誓って貴女を襲っていないと言っている。

 自分が乱心して王太子殿下とチャーリー卿に治しようのない傷をつけたばかりか、それを誤魔化すために嘘偽りを申す事許し難し。

 本来ならば死罪とするところだが、乱心ゆえ温情を与える。

 ライエン伯爵家令嬢ケイ、貴女を国外追放刑とする」


 王太子とチャーリーのやったことを認めれば、王家王国の威信が地に落ちる。

 だから私を処分して事を隠蔽したいのだろうが、流石に私を死罪にしたら、全ての貴族士族が王家をやり口に忠誠心をなくす。

 だから形だけ追放にしておいて、密かに暗殺するつもりだろう。

 だがそう簡単に暗殺される私ではない、むしろ地に潜んで逆撃してやる!


「貴族院長、それは私が神に誓った証言を否定するという事か?

 貴族と騎士の誇りにかけて証言した事を否定されれば、私も後には引けないぞ!」


「いや、それはだな、色々とあってだな。

 バーンウェル辺境伯の神に誓った証言を蔑ろにしたいわけではなく……」


 これは、これは、有り難い事ですね。

 大陸一の魔導士が私を庇ってくれたばかりは、王家を脅かしてくれています。

 これでは王家も判決を覆さなければいけないかもしれませんね。


「何を言っている、この不忠者が!

 私やチャーリーのケガの治療を拒否しておいて、貴族や騎士の誇りだと?!

 お前などレジオン王家の家臣ではないわ!」


 ああ、ああ、ああ、馬鹿も極まりましたね。

 私に眼を潰された王太子を治療しろという王家に対して、バーンウェル辺境伯が「強姦魔のような下劣な腐れ外道を治すために魔術を習得したわけではない」と言って、治療を断られた事を根に持っていて、このような発言をしたようです。

 ですがこれは最悪の言葉です。

 これでバーンウェル辺境伯は正々堂々と王国から分離独立できます。


「それは大変結構は発言ですね、では言葉通りにさせていただきましょう。

 私も、王家の権力を悪用して家臣の婚約者を襲うような、獣以下の汚物に仕えるのも、その王太子を無罪するような国に残るのも嫌だったのです。

 今この場でレジオン王国から分離独立し、バーンウェル伯国の建国を宣言させていただきます」


 あれ、あれ、あれ、とんでもないことになりましたね。

 こんな状況に成ったら、私の事など些細なことになってしまいます。

 バーンウェル辺境伯が分離独立したら、大陸の勢力図が一変してしまいます。

 レジオン王国を見限ってバーンウェル辺境伯に味方する貴族も多いでしょう。

 王都は蜂の巣をつついたような混乱になるでしょう。

 さて、私はどうするべきでしょうか?

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