第29話 後日談。
今回の話のオチは、要するに俺がどうしようもないガキだったということだ。
本当の意味で事態の脱却をしない大人達を信じず、最低限の者のみと協力し合い。結果、無惨にも失敗した。
そのツケは大きくさらに山で重傷だった件も要因となり、当分の間、異能者として活動することを禁じられてしまったが、俺自身も精神的な疲労が勝っていた。
大半の者から拒絶しなかったのが余程意外だったか、一部の者から心配されてもしかして辞めるのかとも言われた。ちょっと意地悪気味であったが、後半に関してはノーコメントにしておいた。
兄としても俺は大失敗をした。異能で無意識に人格を生み出すほど悩ませていた妹の気持ちも気付けなかったし、俺と妹のことを日々苦悩していた凪にも察することが出来なかった。
ちなみに大怪我で発見されて帰って来た際、凪からもの凄く激怒されたのは言うまでもない。
親父達が怯えて目を逸らすくらいのレベルで。らしくなく感情が昂り過ぎて反動で泣きそうになって、逆にこっちが大慌てするハメになった。……理由は当然、シスコンな兄貴が大剣を持って側にいたからであるが。途中、肉体的な接触が何度かあったが、血の涙を流して見逃してくれた。後日、すっごい怖いけど。
そして、無事に傷も治り父親から正式に処分を受けて、凪達も一緒に休暇を言い渡された。
その次の日である。要するにクリスマスの日だ。
深い眠りから覚めた時には既に昼過ぎであったが、家に集まっているいつものメンバーに寝ぼけながら引っ張られて……雪が積もっている寒い外にいた。一応パジャマに厚着な格好であるが、寒いものは寒いんだけど。
「何でカマクラなんだ?」
「だってほら、雪じゃん?」
何故か心底興味ないカマクラ作りに参加させられている。ちなみにいつものメンツとは、すっかり元気になった妹の葵、幼馴染の凪、本日の企画者の武、その姉の由香さん、おまけに復活した英次がいる。英次だけは本当は騒いでいる外部関係の仕事があったらしいが、親父達が上手くカバーしてくれたそうだ。
「こんなだけ雪が積もったんだ。カマクラ作らなくてどうするよ?」
「いや、だって寒くないか?」
「バッカやろう! この寒さも楽しみだと思えよ! 人生損してぞ!」
真っ当なことを言ったつもりだが、何故か武から憤慨そうに雪玉を投げられた。問題なく避けたが、人生損と言われて少しばかりグサっと来た。
「……」
「ギャバ!? 何すっ――ゲホンッ!?」
無言で雪玉を作るとそのムカつく顔面にぶつけてやった。加減はしたつもりだが、命中力まで調整してなかったから鼻に雪が入ったらしい。
くしゃみか咳払いか分からない声を漏らしたが、俺は気にせず近くで暖かそうに甘酒を啜っている奴を睨んだ。
「お前は見てるだけか?」
「頼むから休ませてくれよぉ。今回一番裏方で苦労したのはオレなんだぞ?」
「一緒だろう。十分寝たくせにサボりたいだけが」
「やっぱり、こういう時の為に後輩とか欲しいよな。最近勧誘系も疎かだし、近々再活動してみるか」
今回の件で手駒不足を痛感したらしい。誤魔化してるか誤魔化してないか分からない発言をすると、俺がいないと思いたいのか顔ごと逸らして甘酒を堪能していた。
とそこで背後から近寄る気配。馴染みがあるから振り返ることはなかったが、寄り添ってくると自然と視線がそっちに移った。
「まぁ、見逃してあげなよ。英次君だって今回は零と同じくらい頑張ってたんでしょう?」
「その分、実戦方面はサボり魔だけどな。ちゃんと訓練してれば、実戦でも強いのに」
能力は街でも高位の分類だからな。
本人が本気で戦闘系も鍛えれば、間違いなく頼りになると思ったが……。
「性格の問題もあるよ。私だってそこまで得意な方じゃない」
「凪の場合は冬夜さんが許さないからな。あの人、お前のことになると途端に手が付けられなくなる」
なんて何でもない話をしながら、先で雪ダルマに力を入れている葵と付き合ってる由香さんに視線を送る。あの時とは異なるいつもの満面な笑みだ。昔は俺にも向けられたが、いつからか怯えられて、あそこまでの笑みは全然であった。
「記憶が無いんだ」
「ああ、朝一で精神系の能力者に見てもらったらしいが、昨日の件どころか自分が異能者だったことも知らない。もう1人の人格が主導権を握っていたのか、気配の欠片もないそうだ」
俺の攻撃で完全に消えてしまったか。でも俺が仕出かしたことだ。たとえ魔獣と手を組んだ存在で別人格でも責任は俺にある。
「俺自身もだいぶ中がボロボロになったしな。謹慎ついでに頭の方を改良出来ないか試してみるか?」
「? 急に何の話?」
「いいや、こっちの話だ」
やや強引であるが、話を終えると俺たちもカマクラ作りに参加する。
……凪や英次には俺の異能のこと、頭に仕込まれていた『機能』については話していない。近々張本人と思われる祖父と話をする予定だが、少なくとも俺はそれでこの話を終えるつもりだ。
親父達からは何も言われていない。祖父が何も言わなかっただけか、それとも俺の事情をそもそも知らないだけか。どっちでも構わないが、いつでも引っ張る予定もない。
「ケリは付いたんだ。これ以上引っ掻き回しても誰も得しない」
「勝手に1人で納得して、勝手に終えないでほしいんだけど?」
不機嫌顔でジト目で見上げてくる凪。また隠し事するかと睨んでいるけど…………話してもなぁ? ヘタしたら今度は凪が世界を滅ぼしそうだし。ホント冗談抜きで。
「まぁ、いいじゃないか。今回の件で零も少しは大人になったってことだろう?」
ちょっと返答に困っていると、甘酒を飲み終えた英次が会話に入り込んで来た。別に頼んでもいないが、武と同じで1人にされているのが嫌だったようだ。
さてと……
「全然違うと思うけど。単に今までがコミュ障で屁理屈だったってことでしょう? 零が……って、ん?」
「え……零? 何してんだお前?」
「ん? 何って……」
英次のお馬鹿な発言に呆れた感じで溜息を吐いた凪だが、俺の方を向くと不思議そうな顔で小首を傾げる。
凪の顔を見て英次も釣られて俺の方を見る。具体的にはデカスコップを背負う俺であるが、そんなに意外そうな顔をされるとは思わなかった。
「雪だまるでも作ろうと思ってな。とりあえず……家サイズくらいあれば葵も喜ぶよな?」
「「…………へ?」」
まさか本当に雪遊びに参加すると思ってなかったようだ。まぁ、俺自身も昔の俺ならあり得なかったが、これでも反省して改心したつもりだ。
ただ、反省すべき点は多々あるが、まずは妹との関係の改善である。まだまだ不器用ではあるが、楽しそうにしている顔を見れば、この選択は外れではないだろう。
「妹を喜ばせる。それが俺の償いに対する第1歩だ」
正直雪だるまもカマクラも幼い頃に少し親と一緒に作った程度。流石にその辺りの知識なんて全然ないが、スコップを握り締めて……脳内でとにかく強そうな『雪だるまの設計図』が浮かんだ。
いける。これなら国くらい簡単に落とせそうだ。
「体力と身体能力には自信があるんだ。見せてやろう! 最凶の名相応しい俺の傑作を雪だまるさんをッッ!」
待っていろ葵! 今、兄ちゃんが家すら踏み潰せれそうな『デッカいヤツ』を作ってや―――
「うん、ちょっと待とうか零。よく分からないけど、それは絶対ダメな気がする」
「オレも九条に同意だよ零。今、とんでもない未来が見えたから、一旦止まっくれないか?」
やろうとしたが、なんか超真剣な眼差しの凪と英次に止めらてしまう。
いったいどうしたことか? 心なしか冷や汗をかいているように見えるが……え、あ、ちょっと待てって!? ガチで抑えに来てないか!?
「これは想定外だよ。まさかあの零がこんなポンコツになるんなんて……!」
「全くだよちくしょう! 冬夜さんの同じシスコンの気配がビンビンにする! まさか妹を傷付けた反動で一気に目覚めたというのかッ!?」
とか何とか言って騒ぐお二人さん。いい加減離して欲しいんだが。武も由香さんも葵まで不思議そうにこっちを見てるぞ?
といった感じでグダグダではあったが、俺―――泉零の黒歴史の象徴とも言える最悪なクリスマスもこうして終わりを迎えた。
今後さらに年末やお正月、他にも色々とあるが、その辺りは別の物語で語るとしよう。……最もそんな余裕があればの話だが。
時とはあっいう間に過ぎる。今の俺が昨日までの俺と違うように。こんな寒い季節だってあっいう間に変わるのだった。
【???side】
「よく来てくれたね。
「もう急に呼ばないでくださいよ。今、こっちも休み中で友達と集まってるのに……断るのにどれだけ苦労したことか」
「いやーすまない。どうしても伝えたいことがあってね」
急に上司に呼ばれた私は渋々と会議室に入る。わざわざ休暇中に呼び出すなんて、と不満そうに見つめると、上司は少しだけ申し訳なそうにしてこちらに謝ってくるが。
「とか言ってまた奥さんや娘さんのお悩み話だったら即帰りますからね? 去年のクリスマスだって『支部長の自分には休みなんてないんだぁー!』ってキモいくらいメッセージ送ってきましたけど、またして来たら今度こそ拒否扱いにしますから」
「ぐっ、ふ、古傷を突かないでぇ……結構も気にしてるんだから。あの時は僕もどうかしてたよ」
どうだか、と口はしないが大きめな息を吐いて、近くの席に座り込む。他のメンバーは来てないのか広い中で私と支部長だけが集まっていた。
…………。思わず体をギュッと抱き締めて離れた席に避難した。
「まさかと思いますけど、不満通り越して私に変なことするつもりじゃありませんよね? だったら今すぐ異能ぶっ放して警察呼びますけどよろしいでしょうか?」
「全然よろしくないからねっ!? 君は僕をなんだと思ってるの!?」
どう……と言われたら。
「
「なんか言葉らの裏に悪意を感じたよ! そんなに呼び出されたことが不満なの!?」
不満に決まってるでしょう。どうやら他の先輩達は任務中で外せないらしい。でも支部長としてはすぐに伝えたい件があるそうで、無理言って私を呼んだということだ。
「そんなに面倒なことですか?」
「うん、かなり厄介な方でね。出来れば全員の耳に入れておきたい。とくに佳奈くん」
テーブルに置いてある資料を見せてくる。結構あるが、いくつかは本当に関係あるのかと首を傾げるのもあるが……これは
「これは前々から考えていたことだ。君も来年は中学2年。再来年は受験だろう? 我々の都合で転々させるのも悪いと思ってね。1つ……ちゃんとした拠点が必要だと考えたわけだ」
そう言って私――
引き取って貰った身として、別に転校について不満を抱いたことはなかったが、まさか1年の段階で貰うことになるとは……
「いったい何があったんですか? この街が関係してるんですよね?」
「ああ、まだ正確ではないが、今から約一日前……この街で―――」
告げられた内容に私は目を見開いて驚愕する。
気が付いたら呼び出された不満も消えて、用意されているパンフ一つ一つを真剣に読み始めた。
そうだ。別に受験の準備は早くて困ることはない。
渡り鳥的な私の学生生活であるが、こうした場所でちゃんと落ち着くのも悪くない。
上司は半分冗談のつもりだったようだが、私は割と本気でこの街に対して興味を持ち始めたのだった。
物語は『高校生編』へ続く。
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