第17話 分岐。

『未来に影響するような干渉は厳禁』

 師である異能者の先輩から言われた最初の掟。


 大野英次の異能【天言】は、予知系の中でも最高レベルの能力である。


 使用者に対する反動や消耗は激しいが、未来だけでなく過去も見ることが出来る為、彼の指導者である先輩の異能者は使用について、厳しい条件と制限を設けさせていた。


 中でも未来を大きく改変するような干渉に関しては、「間違っても絶対するな」と、くどいほど言われてきた。


 英次自身も改変の危険度を理解しているつもりだ。

 未来の改変行為も止むおえない場合のみ、制限の中でしかしてこなかった。


「あの馬鹿が! こんな時期にいったい何をやってんだ!」


 だから英次が神社を許可なく侵入したと知った泉けんは憤慨した様子で、地下に続く階段を早歩きで進んでいた。


 普段は普通に仕事をしている零の叔父で、短めな顎髭を生やした中年男性。

 その日の神社の警備を任されていたが、警備の手薄なルートを『未来視』で見極められて見事に出し抜かれていた。


「クソ! 幻の奴から連絡が無かったら気付きもしなかったぞ! オレが担当中に狙いやがってあのガキが!」


 異変に気付いたのはほんの30分ほど前。

 同期である柊幻からの連絡あり、「つい先程、元妻彼女から起きたら息子が家にいなかったと連絡があった。まさかとは思うが、アイツは零と協力して扉について調査していた」と聞かされ、まさかと思いつつ能力で調べたら、神社の塀から彼が侵入した痕跡を確認した。


「く、不覚過ぎる! 心兄にバレたらまた小言を言われるぞ」


 ただでさえ、幼い頃の零に心力技法に関する書物を件で、こっぴどく祖父と兄からお叱りを受けている。あの時は彼の成長速度に決まり事よりも好奇心が上回り、周囲には内緒でこっそり閲覧させてしまったが。



 その結果、大人顔負けの技量を手に入れた零が誕生してしまった。



 小学生でありながらあり得ないレベルの異能の形態変化。

 心力操作による肉体強化及び感知能力、自然治癒など心力強化。

 所持する能力の上書き、プログラムのように追加させる脳内の演算能力。


【武闘】【詠みの手】【異能術式】


 これら3つが街に伝わっている基本的な技能であるが、普通は極めても2つまでが限界であり、全部使える者も多々いたが、3つとも極めている者はほぼいなかった。


 使用者との相性問題もあったが、基本技能なので3つ扱えたとしても個人差が出てしまう。それだけ3つの技能は種類として異なっており、能力者のタイプによって大体2種類に分けられた。

 

 近接戦闘系のタイプなら身体強化の【武闘】を中心にし、次に能力の強化か感知能力のどちらかを選択する。【武闘】のみに絞る者もいるが、そういうタイプは一点特化型のタイプなのでこちらとは少しズレている。


 遠距離系のタイプは戦闘系にしてもそうでなくても、相手の位置を常に把握する為に感知能力を中心にして鍛えていく。次に【武闘】を選択して武器の強化や五感の強化をする者が多いが、凝った感じの向いている能力なら能力の向上を促す【異能術式】を選択する者もいる。


 

 大体がこの2種類のタイプである。だから3つ目を極めようとする余裕は実はあまりない。殆どの者達が使える程度に覚えているだけだ。



 しかし、零は違っていた。

 学べれたのは借りれた書物と実戦で見れた親達や年上の人達だけ。


 それなのに零は短期間で3つをマスターした。

 身体能力を飛躍的に強化させて、感知能力、さらにただの霧のようだった【黒夜】を槍や剣、盾や籠手などに形態変化させる【異能術式】のほぼオートを覚えていた。


 大人達に付いていた彼が狩人のように魔獣を狩りまくったのは、その辺りからだった。


 素晴らしいと褒める……なんてことは流石に言えなかった。彼の父親や祖父が激怒して危惧した通り、彼はそこから異能に染まっていった。

 そして、まだ子供である零に多大な負荷を与える切っ掛けになったと、鍵は激しく後悔した。


「話の限りじゃ、零が裏で意図を引いているようだが、まさか鍵の方を最短で調べる為に許可も取らせず英次に向かわせたのか?」


 やや話はズレてしまったが、つまり零達は必要なら決まりも平気で破る連中なのだ。今までも何度か強引な方法で乗り切っては、大人達に怒られている彼らがいる。


「お叱りなんていくらしても無駄なのかもな」


 今回もそうだとしたら、かなり厄介な事態になりかねない。隠されている『扉』を開ける鍵は特に厳重に扱われており、万が一にも盗まれでもしたら街にいる全異能者で対処にあたらないといけないレベルだ。


 なにより処分だって重い。いくら零達だとしても、仮に盗みでもしたら大人達……親達は決して許さない筈だ。


「まぁアイツらに限って流石に盗むまではしないと思うが……」


 などと言っている間に目保管場所の扉の前まで到着した。

 ここまで来る間に冷や汗がダーダーと流れてしまい、顔は汗だくな健は袖で拭いつつ扉を開ける鍵を用意しようとしたが。







「は……?」






 微かに匂ったソレ。鍵穴に差し込もうとした手が止まる。

 所持している異能の効果で彼は五感の中でも鼻に長けている。英次の匂いが警備が手薄な箇所の塀からした為、侵入自体も確信できてここまで来る通路からも彼の匂いがしたので、間違いないとさっきまで頭を抱えていた。



 それが彼が急に凍り付いたように固まった。

 鍵穴や扉の隙間から微かに匂ったソレに、思考回路が数秒ほど停止してしまったのだ。



「っ……!」



 しかし、彼も警備を任されたほどの異能使い。

 止まっていた思考回路が勢いよく回転した途端、腰に差していた長めのトンファーを片手に持つ。


「……!」


 引き戸を軽く動かして、嫌なことに鍵が開いていると分かった瞬間。



 勢いよく横に引いて開けた。

 すぐさま構えて戦闘態勢に入ったが。


「っ……!?」


 その必要なかった。

 何故ならそこには敵と思われる者の姿は無く。




「英次ッ……!!」




 うつ伏せで頭と腹部から出血して倒れている大野英次の姿しか残っていなかった。








 鍵が封印されていた木箱も消えていた。


 

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