第6話
次の日の明け方、僕とレシアが住んでいる家の前に2頭の馬が用意されていた。
「こちらがレシア様が先日申し付けていられた馬でございます」
シェリエール子爵家の高齢の執事が言うには帰りに邪魔になるならば乗り捨ててしまっても構わないとのことらしい。
「それと馬とは別に主人からの贈り物です」
「これは、まさか幻想級の剣ですか」
武器には等級があり、上から順に
創世級
神話級
神器級
伝説級
幻想級
国宝級
となっていてその下には名剣、名刀など名〜級と続いている。
ちなみに、上2つの武器の存在は確認されていない。
曰くその2つのランクの武具は世界の終わりに現れるや世界の果てに刺さっているなどの嘘か真かわからないようなものである。
「ドラゴンの巣に行くのならばぜひこちらを渡すように、と」
「では、今回はありがたく使わせていただきます」
「その剣と相性がよろしければ今後もレシア様が使ってよいとおっしゃっていました」
「ありがとうございます。それは使ってみてから考えさせてもらいます」
もう少し話したかったのだが、夜は行動が阻害されるのでできるだけ早くここを出発したい。
「じゃあレシア、早速だけど行こうか」
この家を2週間ほど空けることになるので、代わりに管理してもらう人を派遣して頂いた。
「では、私達が留守の間のこの家を任せましたよ」
夜が明け、風が僕たちに向かって吹いてきた。空は晴れ渡っている。遠くに行くのに最高の天気だ。
「了解しました。では行ってらっしゃいませ」
まだ日が開けてそう時間も経っていないなか僕たちは王都の北側を馬で駆ける。
この都は西が貴族の街、北が商業の街、東と南が庶民の街である。
僕らは中央の王城から見て南西部、貴族とそこそこ成功した冒険者が多い街に住んでいるので、北側に来ることはことは稀である。
白いレンガの舗装された道を駆けて行く。
商業の街は木の街並みだ。服屋、肉屋、食事処などが見て取れる。
「帰ってきたら、新しい人と一緒に行ってみたいわね」
「そうしようか、覚えとく」
王都の繁華街を抜けたあたりからは全力で馬を走らせても大丈夫なはずだ。
「じゃあ休憩地まで全速力で行くよ、レシア準備はいい?」
「できてるわ、行きましょう」
◯
それから2時間ほど走り続け、一個目の休憩地に到着した。まだ朝方だが幸いなことに休憩所は動いているようだ。
「そういえばその剣の特性はなにか知っているの?」
「えっと、誰でも使える効果は持ち主の魔法の強化、ごく微弱な自動魔力回復よ。そして私の場合は剣の本来の力を使えるわ。どう、褒めてくれてもいいのよ」
得意げな顔でいるレシアも可愛いのだが、一つ気になった点があった。
「じゃあなんで今まで使わせてもらえなかったんだ?」
剣本来の力が使えるのなら使わせてもらえない理由がないのにどうしてだろうか。
「えぇっと、その、ずっと本家に保管されていたから…」
なぜか返答が曖昧になるレシア。
「なるほど、本家の象徴でもあるから、おいそれと持ち出すことはできなかったのか」
一家の象徴となればそう簡単に持ち出せはしないだろう。一人で納得しスッキリしていたら気まずそうにレシアが口を開いた。
「えっとね、ちょっと違うんだけど、使いこなせていたらその人が使っていいんだけど…昔勝手に触ったら、剣の本来の力を暴走させちゃったらしく」
「…」
「いや、もちろん今は大丈夫だから、出力を調整できるようになったから」
慌てて顔を赤くしてあたふたしているレシアが可愛いので、馬が水を飲み人参やりんごを食べている間はもう少しイジろうとこの話をすこし引っ張りたかったのだが、馬たちの休憩が終わってしまったのでやむなくこの休憩所を出る。
「一応だけどこのあたりは盗賊が出るらしいから気を抜きすぎるなよ、まあ過度に警戒する必要はないと思うけど」
「わかったわ、まあ遭遇すると思っときましょ。そのほうがあったときの精神へのダメージが少なくてすむしね」
「盗賊からすればこっちは格好のカモに見えるだろうしな」
確かに今の僕たちの見た目は盗賊の格好の獲物である。
そこそこいい身なりをしているうえ、二人だけでドラゴンの巣に向かっているので屈強な護衛などもいない。
装備しているものもきちんと鞘にしまっていたり空間魔法の中にしまっているのであまり外からはその強さがわからない。
まるで襲ってくれと言わんばかりである。
◯
休憩所を出てから30分ほど経ったときにやはり僕らは20人ぐらいの盗賊と遭遇した。
「おい、ここに持ってるもんすべて置いていけ、さもなくばその命を置いて行ってもらうぞ」
「やっぱりかぁ」
「とっとと片付けて先に進むわよ」
そう言って抜刀するレシア。
相当頭にきているようである。精神へのダメージがどうとか言っていたのは何だったのだろうか。
「インフェルノ」
相手が道を封鎖しているので道一面に炎が向かう。
最初から容赦せず高火力な技で相手の人数を減らしていく。
上級魔法への対応は盗賊には無理なようだ。ほとんど半数の敵を一撃で持っていくことができた。
「さあ、残っている奴ら選ぶんだ。今すぐここから逃げるか、もう一度上級魔法を食らうかだ」
そう言いながら、僕は風属性の魔法を放つ素振りをする。
「撤退だー、被弾したやつをまとめて撤退しろー」
王都のギルドにも先程の休憩所にも張り紙がしてあるほどのそこそこ有名な盗賊なだけあってなかなか理性的だった。もし全勢力が集結していたら今のままではかなりの苦戦を強いられていただろう。
「下っ端だけで良かったな。大勢じゃなくて正直ホッとした」
「そうね、ここで力を消費してたら肝心のドラゴンの巣で思わぬ不覚をとったかもしれないしね」
奴らが去ったのを確認してから僕らはまた馬に乗って街道をすすみだした。
一悶着あったが特に重大な被害がなく通り抜けることができた。
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