第3話

神様は嘘つきかもしれない。

シェアンはダンジョンに行く日の朝、物思いに耽っていた。

この国では12歳で神託を受ける制度がある。

そこでは自分が一番得意なことや魔法の属性がわかる仕組みになっている。

神託というのだから神様はいるのだろう。

でもダンジョンで弓を引き続けた期間のほうが長いというのに最近風属性魔法のほうが

自分にあっていると実感してしまうのだ。

遠い昔に何人か同じような人はいたという。

実は僕も同じタイプの人間なのではないのかと。

いや、本当は他の勢力が...

割とおもしろそうな考えが浮かびかけたのだが、隣で寝ていたレシアが起きてしまう。


「あ、ごめん 起こしちゃった?」


「いや、大丈夫よ。それよりいよいよだね」


「ああ」


今日から1週間かけて僕らはダンジョンに遠征する。

目標は60層の到達である。

今日はほとんど素通りできる49層まで行き、その前で50層のボスに挑む予定である。

ダンジョンの特徴として50からの層は25の倍数でかなり強く10の倍数がやや強い。

なので今回のボスの強さ順は強い順に60 50 59 58...51といったふうになる。

つまり何が言いたいかというと今日の50層は第一の山場である。

今まで幾人もの冒険者が50層で命を散らしてきた。


「この家とも少しの間お別れか、さびしくなるなぁ」


「そうね、無事戻ってきてもっと思い出を作りましょ」


装備品や食料、ダンジョン内に泊まるための用具の一式を最近進化した僕の空間魔法で収納する。

緊張のせいか、僕らはレンガの町並みを無言で通過する。

そうしていたらいつの間にかこの街では珍しい木造の大きな建物の

冒険者ギルドにたどり着く。

受付の人に言う


「今日は60層の探索を」


「はい、了解しました。ご武運を」


そのように言われ僕らはダンジョンへと歩き出す。

さあいよいよ決戦だ。

   


僕らはダンジョンに到着した。第1層に降りた途端にあたりが暗くなる。

ダンジョン内は外の街とは対称的に黒を基調としている。


「レシア。こっちきて」


レシアに魔物避けの粉を渡す。割と今回の遠征で値がはったものの一つである。

これを服にかけるだけで自分たちと明らかに強さの格が違うモンスターは近づいて来なくなる。

僕たちは前に試しに使ったときには49層でも効果があった。イレギュラーがいなければ今回も49層までは止まらずに行けるはずだ。

ではそのまま50層以降にも使えばいいではないかと思うのだがこのダンジョンでは

50層から相手の強さの格が変わる。

なのでこの粉を使っても49層までしか楽ができないものなのである。



僕らは特に何も問題がなく49層についた。

そこで僕らは装備の最終調整をする。先輩の冒険者たちからどのようなボスであるかは聞いている。なんと後衛の攻撃手段がほとんど通じないボスであるらしい。

その名はキング・アイアン・ゴーレム 

鉄壁の防御力と重い一撃があるシェアンからしたらかなり厄介なボスではあるのだが

レシアは相性がいい。

レシアの戦闘スタイルは軽いが速さの乗った連撃で相手を押し切るというスタイルであり、

カバーとして火属性魔法を使うスタイルなので剣での連撃も火属性魔法もどちらも相手に

突き刺さっている。


「この層はレシアがやりやすそうだね」


「今回の層は任せて、うまく行けば一瞬でおわるかもしれないけれどね」


なにか不穏なことを言っている。新しい技でも覚えてきたのだろう。


「よし、じゃあ行くよ。覚悟は良い?」


「ちょっと待って、予備の剣を先に使ってもいいかしら」


そう言われたので予備の剣を渡す。

切れ味はいいがいつも使っている剣とは素材が2ランク下の剣である。


「よし、これでいいわ」


そう言われたのでボスがいる部屋の扉を開ける。

ぎぃぃという重厚な音とともに僕らの50層ボス戦が始まった。

薄暗いのもつかの間周りの照明がパッパと手前から順についていく。

王の間のような外観だ。地面には絨毯らしい模様や緑色のクリスタルが埋め込まれている。

レシアが剣を抜いた途端に魔法を使った。


「インフェルノ」

驚いた。いつの間に火属性の上級魔法を使えるようになったのだろうか。

そしてレシアはそのまま攻撃をすると思っていたがその魔法を剣に付与するような形で

ボスに切りかかった。必殺の一撃のように思われたが少し手間取ってしまったせいで

ボスには炎は届いたがうまく一直線上に炎を開放できずに致命傷とまではいかない中途半端な攻撃となってしまった。


「ごめん、ちょっとミスったわ」


「了解、レシア下がっていていいよ」


少し失敗してしまったといっても上級魔法の一つだ。あとは自分でもなんとかできそうである。


「風よ、集まれ」


できることはわかっている。ここからはイメージが大切だ。細くて流麗なレシアの剣を想像する。


「よし、できた」


風を集めて剣を精製する。これならあの硬い外装を抜けダメージをいれることができそうである。


突然ボスが距離を詰めて右腕をしならせながら攻撃をしてくる。

僕は右手にできた剣で受け止めながら叫ぶ。


「バースト」


風を剣の形にするというイメージを一旦なくして風を拡散する。

暴風に耐えきれずゴーレムが飛ばされる。レシアの剣の交換が終わるまでは

僕が耐えるしかない。


「集まれ」


また新しく風の剣を精製する。

レシアがいつもの剣を取り出して後ろから切りかかっているのが見える。

僕に意識を向けさせているので一度下がっていたレシアのことなど見えていないだろう。

わざわざ前にでてきたかいがあった。


「集まれ」


ぎりぎりまでレシアに意識を向けないようにするため左手にも剣を作る。

所詮風でできた剣なのでゴーレムの攻撃を何回か食らったら壊れてしまう。


だがもう良かった。


「はぁぁぁ」


後ろから僕がイメージした元の剣をもって跳躍するレシア。

ゴーレムの背丈よりも少し高い位置から剣を振り下ろす。

静寂のあとゴーレムが真っ二つになり倒れ消えていった。



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