第14話 それぞれのパートナー

★★★(水無月優子)



「おーい!」


背中から、聞きたかった声を聞きました。

私は振り返ります。無論、戦闘中ですから注意しながら、ですけど。


向こうから。


触手を打ち払い、焼き払いながら向かってくる彼。

その逞しい姿。


「完了したー!!」


雄二君です!


一般人の避難、終わったんですね!?

助かりました!


最愛の人が、仕事を終わらせて戻ってきてくれました。

怪我だけが心配でしたけど、どうでしょうか?


「大丈夫だった!?」


聞くと、ああ、と言ってくれました。

良かった……


彼と一緒に一般人の避難に協力してくれたあの男。

モルフェウス男。


今回ばかりは、感謝するしかないですね。

ちょっと、複雑なものがあるんですけど。

すみません。今回だけは許してください。

じゅじゅさん。黒伏さん。そしてゆりちゃん……。


彼は彼で、自分のパートナーに労われているようでした。

あの女オーヴァードに向き合って言葉を交わしています。


気持ちとしては私からも一言あった方が良い気がしたんですけど、あまり慣れ合うのはやっぱダメですよ。

要らない疑い掛けられる原因になるかもしれませんし。あいつ裏切り者じゃ無いか、って。


それ、私たちの未来の障害ですよねぇ。

ヤですよ。UGNの福利厚生使って、雄二君との子供を沢山育てる予定でいるんですから。私。

血のつながった家族っていうものが経験できなかった分、雄二君と一緒に、いっぱい作るんです!

私の夢を邪魔されたくありません。UGNを追放なんてとんでもないです!


……申し訳ありませんが、あなたはあなたのパートナーに労われて、それで満たされてくださいね。

ホント、申し訳ありませんが。


さて。


後は

海へと振り返ります。


「後は倒すだけだね!」


この魔物を退治すれば終わりです。


この、安全な海中に潜んだまま、触手だけ伸ばして攻撃してくる厄介な魔物を。


……どうやってやるかが、かなりの問題なんですけどね。


私が反重力をかけて、海から引き上げるには、本体が見えて無いと厳しいですし。

雄二君のシンドロームはサラマンダーで、こういうことには向いてません。


どうすればいいんでしょうか?



★★★(佛野徹子)



「相方!ご苦労様!」


「サポートどうも。おかげさまでUGN彼氏さんと一緒に速やかに作業できた」


アタシたちと合流するために、この浜まで駆け戻って来た彼。

向こうも、彼氏さんと彼女さんが愛の語らいをしているね。

おめでとうございます。


こっちは相方への儀礼というか、お約束と言うか。

まぁ、ただのお決まりの会話だよ。


向かい合って、労う。

それだけー。


深い意味は無いもんね。

だってアタシたち、ただの仕事上のベストコンビだし。

親友ではあるんだけど。


仕事終わりの挨拶が済むと、相方は足元の砂浜から貝殻をひとつ、拾い上げ


「あとは化け物を海から引きずり出し、倒すだけだな」


そう言った。

その声に、思案している様子もなく、意見を求めている様子も無かった。

ということは。


「アテ、あんの?」


「あるよ」


だよねー。

アンタはそういうの、ぬかりないもんねー。


教えてよ、っていう言葉を言う前に。


相方は貝殻を、ぐるぐる巻いたワイヤーロープの束に錬成した。

太さは鉛筆くらい。長さはかなり長い。絶対10メートル以上ある。


「これの先端を持って、アイツの触手に突き刺してくれ。なるべく根本な」


言いながら、もう一個、同じワイヤーロープを錬成する。


「突き刺す?」


「そう。突き刺す」


どうやって?

と口にする前に。


ワイヤーロープの先端に、ナイフのような「刺せる」部位が突如出現する。

彼が再錬成して、ロープに加えたんだ。


そのナイフ?の刃。


ギザギザで、突き刺したら抜けにくくなるような工夫が入ってる。

ぬかりないねー。


それを二つ、アタシに差し出してくる。


はい。大体わかりました。


この尖った部分を、アレの触手のなるたけ根本に突き刺せばいいんだね?

いいよ。やるよ。


ラクショーだから。

任せて!



★★★(北條雄二)



俺が優子と合流し、無事を確かめ合っていると。

超高速の気配が、すぐ横を駆け抜けていった気がした。

全く見えなかったけど。


……優子は、目を見開いていた。


何?何かあったの?


「見て!!」


指差す。

優子の指す先を見ていると。


居た。


人間の太腿くらいあるか?っていうくらい太い触手の根元に。

腰まで海に浸かりながら、何かを突き刺した、仮面のセーラー服女子高生の姿が。


バシャッ!!


次の瞬間、海が弾け、女子高生の姿が消えた。


優子の目が動く。


……えっと。


ひょっとして優子、何か見えてるの?


「あっち!」


指差す方向を再び見る。

さっきと全く同じことをしている、仮面のセーラー服女子高生。


そして再び弾ける海。


女子高生……あの仮面の男のパートナー……が突き刺した何か。

それから、金属のワイヤーロープが伸びていて。


それが、砂浜まで続いてる。


えっと……?


ひょっとして、それで引っ張り出す?


それは分かったけど……

これだけじゃ、足りなくない?

色々と?


……と、考えた瞬間だった。


バチッ!

そんな音を聞いた気がした。


ワイヤーロープの太さが突然数倍に膨れ上がり、女子高生が何かを突き刺した触手が


明らかに、暴れていた。

痛みによる苦しさで。


そりゃそうだろうね。


トラバサミみたいなもんで、思い切り噛みつかれてるんだもの。がっちりと。

……多分、突き刺した何かに再錬成かけて、ああいう形に変えたんだ。

現在進行形でさらに、さらに変化し。より深く強固に喰らいついていく。


つーか。

トラバサミっていうか、ほとんどサメの顎じゃんよ。

それが何重にも拡大を繰り返して、深く深く触手に食らいついてる。


えげつないな……痛そう……


誰がやったのか?そんなの、言うまでもない。


視線を浜辺の方に移すと。

サメの顎から続くワイヤーロープのもう片方の先端が、成人男性の腰くらいの大きさがあるバカでかい二基のウインチに続いていて。


それぞれに両手で触れている、仮面の彼……さっきまで組んで仕事をしていたモルフェウス男の姿があった。


「相棒。ウインチのスイッチオンよろしく」


「OK」


彼の隣でスカートに染み込んだ海水を絞っていた彼のパートナーが、絞るのをやめて対応する。

……スカートを絞ってるときに、彼女の太腿がちょっと見えていて、それに目を奪われそうになったので慌てて視線を逸らしたのは内緒だ。

危ない危ない。

またイーストゲットアウト(E.G.O)になるところだった。


ガコンッ……


彼女がウインチのスイッチを押したのか。

二基のウインチが、巻き上げを開始した。



★★★(???)



いたいっ!!いたいよっ!!


さいしょ、しょくしゅにちくりとなにかがささった、なんなの?とおもってたのに。

いきなり、それがばくはつてきにおおきくなって、かみついてきた!


わけわかんない!!なにがおきてるの!?


はずじたかったけど、めちゃくちゃつよくかみつかれてて、はずせない!!


やめて!!やめてよっ!!


ぼくはいたくてうみのなかでないてしまった。


ごはんのくせに!!ぼくにこんなまねをするなんて!!

ゆるさない!!


ぼくがなまいきなごはんたちをおこっていると……


ずずっ……!


え……?


ぼく、ひっぱられてる……?

おかにむかって……?


どうなってるの!?


ぼくはじょうきょうをはあくするためにしゅういをかくにんした。


ぼくのしょくしゅが、きんぞくせいのあごでかみつかれてて。

そこからきんぞくのひもがのびていて。

そのひもが、ごはんのそばにあるおおきなどうぐで、まきあげられている。


あのどうぐのちからなの……?


どうしよう……?

このままじゃぼく、おかにひきずりだされちゃう……!


このきんぞくのひもが……ひもさえなければ……


……


こうしよう!!


ぼくはしょくしゅをそうどういんさせて、きんぞくのひもをかみきらせようとがんばった。

ひとかみできるのはぜったいむりだけど、がじがじやればきれるはず。

ぼくのきばはつよいんだ。

がんばればできるよ!!



★★★(下村文人)



……おぉ。よほど牙に自身があるんだな。

触手総出で嚙み切ろうとしてる。


「これで大丈夫なの?相方?」


「これで大丈夫だから、噛み切ろうと頑張ってるんだろ。化け物さんは」


相棒の徹子が、スカートの海水絞りを再開しながら聞いてきたので。


僕は彼女に平然と答えた。

少なくとも、引っ張られてて、まずいと思ってるからこそ、あのリアクションがあるはずだ。

つまり、このままじゃまずいって思ってる。


全然ビクともしないなら、ウィンチの方を海に引きずり込むか、こちらへの攻撃を優先するはずだ。


なのに、今、ヤツの攻撃は止んでいる。

つまり、攻撃してる余裕が無いってことだろ?

ほっとくとまずいことをされてるってことだ。


「それ、固定は大丈夫ですか?」


向こうから、UGNのカップルさんが駆けてきた。

そして彼女さんからのそんな質問。ウィンチを指しながら。

そこ、気になるのか。


ウインチが化け物の力に負けて途中で海に吹っ飛んでいかないのかってことだな。


いい質問。


「杭で各4か所で固定してる。地中で体積拡大を行い、アレを引きずり出すのには重量的に問題は無いはず」


ちゃんと考えてるよ。その辺は。

ウインチの固定に関しては第一に考えた。


アースドリルを錬成し、地面に深く食い込ませたところで杭に再錬成。

先端部分を横方向に伸びるように錬成し、質量を確保。

それで固定。


だから今、この浜辺の地中には金属の棒が網目のように張り巡らされている状態だ。

総重量はどのくらいか計算して無いので分からんが、おそらく1トンは超えているはず。

足りなきゃもっと錬成して目方を増やすつもりでいたけれど。

どうやらこれで足りているらしい。


「ワイヤーロープの強度は?」


そっちも問題ない。


「単純計算でおそらく48トンオーバーの破断強度」


いくらなんでもあの化け物がそれ以上の力で引っ張るとは思えないし、もしそれならば、あそこまで必死でロープを齧ってることについても説明がつかない。


それでも、彼女さんの質問はまだ終わらなかった。

慎重な子だな。


「噛み切られたりはしませんか?」


「しない」


「絶対に?」


「ああ」


言い切れる。


「……自信たっぷりだな」


そこで彼女さんの隣でずっと黙っていた彼氏さんが口を開く。声に、何か苛立ちがあった。


ああ、すまない。

ひょっとしたら、気に障ってしまった?


偉そうに聞こえてしまったか。

そんなつもりは無かったんだけど。


「気に障ったならスマン」


一応謝罪しておく。今、揉めたら問題だ。


「言い切るには、理由があるんだよ」



★★★(???)



ぼくはいっしょうけんめいきんぞくのひもをかじってる。

かみきれないっていうふうにはかんじない。

かみついたかんじ、いける、っておもったからそうしたんだ。

だからつづけているんだ。


……なのに。


まだかみきれない。

なんでだろう?


いけるとおもったのに。


ぼくはぐんぐんひっぱられていく……

おかがちかづいてくる。まずい、まずいよ……!



★★★(北條雄二)



「……自信たっぷりだな」


言ってしまった後、後悔した。

みっともない……


優子と、このファルスハーツのモルフェウス男が問答しているのを見てて、なんだか面白くなかったんだ。

ようは、嫉妬。


別に優子が彼に惹かれてるとか、そんなことないの分かってるはずなのに。

優子は単に、この海の魔物退治が問題なく行えるかの確認がしたいだけ。

そんなの、分かり切ったことなのに。


あぁ、俺ってやつは、どこまで情けないんだ……!!

ちょっと彼女が他の男と会話しただけで、気を悪くするなんて。


そしたら彼が


「気に障ったならスマン」


……謝られた。


……見抜かれてるよ。

ちきしょう。謝るのはこっちだよ!!


すみませんでした!場違いにやきもち焼いてすみませんでした!!

口には出さないが、つーか、出せないので心で謝っておく。


「言い切るには、理由があるんだよ」


そんな俺は放置して、彼は自分の言葉の種明かしをした。

しっと男なんかにはつきあってられんよな。

はぁ、情けない……!


まぁ、その後続いた言葉を聞いたときは驚きで、俺も嫉妬を忘れてしまったけど。


「……実は数秒おきにワイヤーロープに再錬成かけて、新品にしてるんだ」


……はあ?????

つまり、あのワイヤーロープ、数秒で初期状態に再生してるのか!?


そりゃ、絶対噛み切れんわ……!!

だって、いくら嚙み切ろうとしても元に戻るんだもの……!


凄すぎるな、彼……!?

戦うことになったら、ホント、困る……!

俺はファルスハーツという組織の恐ろしさの片鱗を感じて、絶句する。


そして。


彼がそう言ったとき。

彼の隣に立っているセーラー服姿の彼のパートナーが。


……何だか、仮面の奥で誇らしげに笑ったような気がした。

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