第13話 反撃の下準備
★★★(北條雄二)
キュラキュラキュラ……
俺は、キャタピラで動くトラックの荷台の横に、取っ手を掴んでぶら下がり、気絶した非オーヴァードの人たちを回収して回ってた。
あれだ。荷台の側面中部に取っ手があり。荷台側面下部に足を引っかけるポイントがある。
某●ッターマンか。そんな感じだ。
キャタピラ……正式には無限軌道って言うらしいんだけど。
結構速い。
ちょっとした自動車レベルの速さがある。
見た感じ、速そうに見えなかったからそこのところ不安だったんだけど、杞憂だった。
このモルフェウス男の判断には異論なんてない。
まさにネックになってたところを即解決に動くとは。
まず人質状態になってる非オーヴァードの人々を回収し、保護する。
そうすれば、打開策も立てられる。だから最優先事項はそれ。
……敵にすると相当厄介そうだなと。
俺はちょっと思った。
トラック戦車?が停車する。
俺は荷台を降りて、周辺で倒れている人を抱えられるだけ抱えて、荷台に積んでいく。
重いは重いが、別に問題ない。伊達に鍛えちゃいないからね。
荷台……箱型なんで、かなりデカイ。
後ろの扉を開け、奥に寝かせるのではなく「座らせて」積んでいく。
……時代劇なんかじゃ、昔の棺桶、まさしく「桶」みたいなもんなんだよな。
寝かせるんじゃなくて、座らせた姿勢で葬る。
人間を収納する場合、寝かせて収納するよりこういう風に膝を抱えさせて収納した方が嵩張らなくなるのかな?
俺は、人を積みながらそう思った。
そんなことを考えながら、一列積んだ。
彼に言われていたから「奥に詰めて1列積んだ」と報告。
すると「了解。少し下がってくれ」との声が返ってきて……
言われた通り下がってみると。
バチッ。
ラップ音みたいな音と共に、奥に人を積んだスペースに変化。
金属の檻状の仕切りが出現し。積んだ人を閉じ込める。
……は?
俺は目を疑った。
目が点になった。
いやね、別にその意図を疑ってないんだよ。
彼は人を攫うためにこんなことをしたわけじゃないんだって。
おそらく、こうしないと大量の人を効率よく積めないだろう。
そういう配慮だと思う。
その証拠に、檻の上部にさらに人を積めるスペースがきっちり設けられている。
意識のある人にやったら大問題だけど、この場合はしょうがない。
俺が問題にしてたのは、そういう問題じゃ無いんだ。
……何で、出来るの?
見て無いんだけど、彼。
カメラなんか、無いよなぁ?
ひょっとして彼、自分の錬成をミリ単位で正確に把握し制御して、目で確認しなくても人を収納するには十分なスペースの檻を、荷台内部に錬成することが可能なのか?
……いや、それ、異常だろ?
勘で言ってるけど、多分間違いは無いと思う。
こんな錬成が普通なわけがない……!
「あ、言うの忘れてた。すまない」
運転席から彼の声がする。
「もし異常に体格良い人間を積んだら、必ず教えてくれ。配慮するから」
……やっぱりか。
とんでもないやつが、居るんだな。ファルスハーツには……。
俺は血の気が引くのを感じた。
★★★(水無月優子)
……は?
一瞬、手が止まりました。
なんですか、あの重機は。
あんなの、見たこと無いですよ?
ああいう無限軌道で走るトラック、無いわけじゃないですけど。
林業なんかで似た感じのありますからね。
でも。
そういうの、箱を荷台に取り付けてるのは無いはずです。
つまりは、あれはオリジナル重機の疑いが濃い。
……ここに、あの女オーヴァードが来ている以上、彼女のパートナーのモルフェウス男も来てる可能性が高いってのは予想してたんですけどね。
つまりあれですか?
あの男、既存品の丸コピーだけでなく、自分の頭の中でオリジナルの重機を考えて、それを錬成することが出来ると。
そういうことなんですか?
それってつまり、重機関係のエンジニアになれる知識量があの男にあるってことですよ?
だってオリジナルなんですもん……!
たまたまだ。
何故か、私にはそうは思えませんでした。
「おーい!!相棒ー!!」
男の声が飛んできます。
やはり。
あの男も来てるんですね……!!
ハヌマーンのゆりちゃんの高速回避を難なく見切って、ゆりちゃんの肩に日本刀を突き刺した、あのモルフェウス男……!
「何ー!?相方ー!?」
超高速移動を繰り返し、残像を残しつつ触手をその輝く手刀で切り刻み。
女オーヴァードが答えます。
「ちょっとUGN彼氏さんと、倒れてる人間回収して回るから、援護頑張ってくれー!!」
「りょうかーい!!」
……彼女たちにも、相当深い信頼関係がある。
声で、分かってしまいました。
……戦いたくない。
正直な気持ちは、それです。
手ごわい相手だから戦うなら死を覚悟する必要があるのはもちろんですけど。
きっと、勝っても辛いものが残る気がするから。
彼ら、犯罪組織の構成員だけど、この二人の絆は決して嘘ではない。
それが、感じ取れてしまったんです。
そんな私の傍に
「そういうわけだから、ちょっと彼氏さんの援護の手が止まっちゃうよ」
突如彼女が出現し、レーザー手刀で触手を切り飛ばしながらそう言ってきました。
「……聞こえてましたから分かってますよ。しばらくあなたと頑張ればいいんですか?」
「そゆこと。頑張ろうね」
言い残し、姿が消えます。
はい、FH(ファルスハーツ)と共闘ですか。
初めての経験ですけど。
何故でしょう?
どういうわけか、悪い気がしないですね。
★★★(佛野徹子)
アタシは今、ファルスハーツ(FH)の宿敵であるユニバーサル・ガーディアンズ・ネットワーク(UGN)のオーヴァードと共闘してる。
でも、別に特に問題は感じてない。
アタシ、組織にはそんなに忠誠心無いからね。
まぁ、豚二匹をブチ殺した後に面倒見てくれたことは感謝してるけどさ。
その分、酷い目にも遭わされたしね。差し引きトントンだよ。
それに。
アタシと今共闘してるこの子、別に個人的に許せないとか、恨みがあるとかでもないし。
むしろ、この子のほうががアタシを恨んでそう。
一回、任務でボコにしたらしいからね。アタシはすっかり忘れてたんだけど。
やった方は忘れても、やられた方は忘れないって言うよね。
でも、許して欲しいよ。あのときは任務だったんだし。ダメかな?
だって。
この子だけど。
アタシとしては、恨みがあるどころか、好感すら持ってるから。
近くで見たら分かったんだけど、午前中揉めた子だ。
あの、真面目そうな男の子の彼女。
見てて分かったけど、大好きなんだなって伝わってきた。
彼氏君も、彼女の事大好きで、アタシなんかに一瞬目を奪われたことをだいぶ後悔してた。
双方思いやってる。
そういうの、すごい理想なんだ。
だって、アタシの母親がろくでもないクズだったからね。
父さんを捨てて不倫相手のところに転がり込んで。
一人で行けばいいのにアタシまで連れ去って。
……養育費が欲しかったんだと思うよ。父さん、だいぶ稼ぐ人だったみたいだし。
裏切りに次ぐ裏切り。
そして挙句アタシを虐待し。
不倫相手がアタシのことを玩具にしだしても、不倫相手からアタシを守るどころか嫉妬してアタシをさらに殴り始めて。
最低だ、最低の牝豚。
笑えるのは不倫相手と一緒に殺してやろうとしたとき、先に死ぬ方を選ばせてやったら、不倫相手を先に殺してくれと願いやがったところ。
あれはホントに大笑い。
不倫相手の方も牝豚の方を先に殺せって喚くし。
双方罵り合い。
楽しかったなぁ。クズ過ぎて。
結局アイツは誰も愛してなかったんだよね。
自分の事しか見てなかった。
女なんて呼びたくないよ。あいつは人間じゃ無いから。
まぁ、アタシはそんなクズの血を引いてるんだけどね。
ゴミが産み落としたゴミの子。それがアタシ。
だからアタシは半分人間の血を引いて無いんだよ。
欠陥品なんだ。
……でも、だからこそ、ああいう子には憧れるし、アタシが思い描く理想の人生を歩んで欲しいんだよ。
ちゃんと結婚して欲しいし、二人愛し合っておばあちゃんになるまで生きてて欲しいんだ。
……この戦いが終わっても、できればこの子と戦いたくないなぁ。
勝っても負けても辛そうだもん。
文人、何て言うかな?
彼もアタシと同じ気持ちで居てくれると思うんだけどね。
だって、一緒にずっとやって来た相方だし。
★★★(下村文人)
自分で錬成した、この状況に一番都合がいい車を操って。
僕は一般人を回収して回っていた。
よく働いてくれてる。
UGNのあの男子。
多分、相当まっすぐで、ごまかしが出来ない男なんだろうな。
働きぶりで良く分かるよ。
嫌いじゃない。
カタギだったときなら、多分友人になりたかったタイプだ。
今は無理だけどな。
黙々と与えられている役割……倒れている一般人を拾って背負って車に積む。
それを繰り返してくれてる。
この状況で、僕らを信用しないと救助が遅れる。
疑いたいだろうけど、それを抑えてくれてるんだな。
……良い男じゃないか。
あの彼女さん、見る目あるな。
彼氏の肉体改造の件は異常だとは思うけど、男の選定眼だけは好感持てるよ。
多分、徹子も好きなタイプの女子だな。
徹子、純愛に憧れてる奴だし。
この戦いが終わったときに、拗れないことを願うよ。
勝っても負けても面倒なことになる。
「周辺の一般人全て積んだ。出してくれー!!」
そんな風に彼について思考を巡らせていたら、彼がそう言って来た。
一応、運転席の窓から身を乗り出して確認。
……取りこぼしは見えなかった。
周辺の浜辺、倒れてる人ゼロ。
結構広く回収してくれてる。
この車の特性を理解してくれてるのか。
直近の周囲の確認がやりづらい、ってことを。
もし取りこぼしがあった場合。寝てる一般人を轢く可能性あるからな。
それをやったら人が死ぬ。
それはまずい。だから、この仕事ぶりは本当にありがたい。
「OK。次行こう」
僕は車を出す。
キュラキュラ言わせつつ。
僕と彼とで、一般人回収を進めていった。
この行動を、海の化け物も問題視してるらしく。
邪魔しに次々触手が襲ってくるが、全て徹子が撃ち落としてくれた。
僕の相棒は、マッハ5オーバーで動けるからね。
実質、この浜辺全てが相棒の守備可能範囲だ。
アイツに任せておけば問題ないし。
加えて彼の彼女さんも手伝ってくれてるわけだ。
超問題ない。
彼、ハヌマーンオーヴァードの戦いを見たことがはじめてなのか、徹子が瞬間移動を繰り返し、触手をレーザーを纏わせた輝く手刀で切断して回っているのを驚愕の表情で見ている。
まぁ、速すぎるから瞬間移動に見えているだけなんだけども。
実際は走り回って斬りまくってるだけだ。ただし、超音速で。
まぁ、アイツはハヌマーンでも相当上の位階のオーヴァードだから、全員が全員、アイツと同じ動きができるか?と言われればそれは違うんだけどな。
……アイツが評価されているのは、悪い気はしないな。
ちょっと、僕は気分が浮つく。
顔は隠してるけど、オーヴァードという真実を晒しながら、同年代のヤツと関わるなんて久しぶりだったし。
なんだか、妙な連帯感、開放感があった。
ふざけてるかもしれないが、なんだか、妙に楽しかった。
そして。
僕は車を停めた。
海の化け物の触手が絶対に届かない位置だ。
ビーチの端っこ。
売店なんかの近く。
……千田さんもこの辺に寝かせてたはずだったな。
一般人全員、回収完了。
「ご苦労さん」
言いつつ車を降りた。
この仕事の相棒を務めてくれた彼は別に疲れてはいないようだった。
ただ。
「……アンタ、すごいな」
握手は求めては来なかった。そういうこと無しで。
彼はそう、呻くように言ってくる。
まぁ、複雑だろうね。
想像はつく。
これからの人生でぶつかる可能性のある組織に、厄介そうな奴がいるわけだしな。
「それなりに自分のシンドロームについて研究してるからね」
そう言いつつ、僕は車両に触れて。そのまま車両に錬成をかけて緩衝材に変えた。
避難完了したから監禁状態解除、ってのと。
……指紋が気になるからね。
一応、証拠隠滅。
目的はその二つだ。
彼はまた驚いていた。
何でやったのかは言わない。
拗れるだけだし。言うだけ無駄どころか、有害。
ポンポン、と彼の肩のひとつでも叩きたいところがだ、要らん疑念を与えるよな。
何か仕掛けられてるんじゃないかって。
やめとこう。
さて。
「反撃開始だ」
化け物退治の最大の障害、排除完了。
ここからだ。
……と、その前に。
僕は手を前に突き出し、その手に空気から黒い手袋を錬成した。
……緩衝材に埋もれた人を、掘り出すくらいはしといた方が良いな。
放置すると危ないかもしれないし。
彼にも手伝ってもらうか。
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