第7話 出会ってしまうUGNとFH
★★★(海坊主野五藩太郎)
なんだこの優男。
いきなりやってきて「僕の彼女」?
本当か?
……折角、上物の子が捕まりそうだったのに。
俺は、そいつをじっくりと見た。
まぁ、背は高い。
筋肉は……そこそこついてる。
全体的に細っこいイメージは拭えないが。
こいつは彼女を「僕の彼女」という。
まぁ、見た目は悪くないんじゃないかと思うのと、いかにも彼女居そうなツラしてるから、説得力はあるが……
なんか、いけすかなかった。
特に、卑屈な笑みを浮かべるでもなく。平然とした顔で。
俺たちに、臆せずに「そいつは僕の彼女」と言ってのけたこと。
これが気に入らない。
……舐めてんのか?
お前ごとき、俺たち4人を相手にして勝てるとでも思ってんの?
イラっとした。
だから。
こうすることにした。
「……うるせえな。引っ込んでろよ」
……ちょっと脅せば、ビビって逃げ出すさ。
男は最後は強さよ。
それに。本当に彼氏だったとしても。
情けなく逃げ帰る姿を見れば、一瞬で恋も醒めるだろ。
そうすりゃ、俺らにもチャンス出てくるじゃん。
フリーになるんだから。
そう思った。
だから、言ってやったんだ。
でも。
「……は?僕の話、聞いてましたか?」
こいつ、この期に及んでまだ食い下がってくる。
もうちょっと、脅してやらんと分からんか?
「るせえ!!とっとと一人で帰れ!邪魔なんだよ!!」
仲間の3人も、俺に同調してくれてるようだった。
にやにや笑いながら、見守ってくれていた。
★★★(下村文人)
……こいつら、最低だな。
僕はそう思った。
徹子の事、助けるためには決まった相手が居ると言うのが一番良いはずだから。
あえて嘘を吐いたんだが。
実際は、徹子は相棒であって、恋人ではない。
ギリ友人。そういう関係だ。
でも、そんなことを言っても拗れるだけだからな。一番パンチのあることを言ったんだ。嘘だけど。
しかしこいつら、僕の言葉の真偽を確かめるでなく、いきなり脅してきた。
つまりだ。
徹子に、つまりナンパしてる相手に決まった恋人が居ても、しかも傍にその相手が居たとしても、行動は変わらないってことだよな?
ナンパして自分たちの相手役をさせることは確定事項で、彼氏が居たなら威圧して追い払うと。
……これが最低でなくて何なんだ?
まず男。
男にとって、女を守れなかったというのはトラウマモノの屈辱、罪悪感、無力感になるはずだ。
真面目なやつなら「自分は女と恋をする資格が無い」って思い詰める可能性すらある。
そんな選択を迫るわけだ。こいつらは。
そして女。
女の方は、自分を大切にしてくれたはずの男が、土壇場で逃げ出した。守ってくれなかった。
つまり、男は信用ならない。男性不信の原因になる可能性がある。
そんな状況に陥れようとしてるわけだ。こいつらは。
……何様だ?
二人分の人生を破壊するかもしれないような、酷い選択を迫るなんて。
「……それで僕が帰ったとしたら、僕はとんでもない犬畜生だと思うんですが。それ、分かってますか?」
一応、言っておく。
自分たちのことをこれで顧みて、とんでもないことを言ったことを自覚するなら、まぁ、良しとしよう。
「知るかよ」
「逃げればいいだろ。小便洩らしながらさ」
「お前みたいなのがこんないい女を連れてるの、ムカつくんだよ!」
嘲笑うようにそう返してきた。
……はぁ。
ハイ、話にならない。
ここで選択肢。
1)ひたすら下手に出て、説得する。
2)全員殴り倒す。
3)いったん引いて、人を呼びに行く。
……1)は無いな。
下手に出ても、増長するだけだ。
絶対に、説得には応じてこない。
3)は駄目だな。千田さんの目もあるし。学校の居場所が無くなりそうだ。
それに、徹子の期待を裏切るのは今後の仕事に影響が出るかもしれない。
徹子。助けに来てやったら嬉しそうにしてたからな。
……その気になればこいつら全員ブチ殺せるくせに。
何を喜んでるんだよ。全く。
じゃあ、2)か。
やり過ぎると過剰防衛でしょっ引かれるかもしれないし、先制攻撃したら正当防衛が通じなくなるかもしれないな。
……しょうがない。数発わざと殴らせて、反撃で一人徹底的に潰すか。
それで相手が引けばよし。引かなかったら、また後で考えよう。
……はぁ、面倒だな。
僕は喧嘩が嫌いなんだよ。
千田さんに引かれるかもしれないが、しょうがない。
「そうですか。拒否します」
そうキッパリ言った。
すると、連中のこめかみが引くつくのがはっきりと見て取れた。
そうですか。ブチキレたんですね。
徹子を積極的に口説こうとしてた金髪の男が、腕を振り上げてきた。
僕の胸でも小突くつもりかね。
まぁ、視線を見たらバレバレだけどさ。
……身体を流して衝撃を逃がすか。面倒だなぁ。
表情は変えない。
真顔を維持したまま、僕はこの目の前のチンピラの攻撃のダメージを減らすことを考えていた。
面倒だ、と心で嘆息しながら。
そのときだった。
突如、そのチンピラの腕が掴まれたのだ。
「……4対1は卑怯だな。アンタ、3人は俺が受け持とうか?」
いつの間にか歩み寄ってきていた、短髪の1人の男に。
ものすごい筋肉質の、ヘラクレスみたいな体型の男に。
彼はチンピラの腕をギリギリと握り締めながら、僕の目を見て、そう言って来た。
★★★(北條雄二)
俺は浜辺で自分の選択を後悔し、凹んでいた。
俺はなんて、臆病でダメな奴なんだ、と。
優子が戻ってきたら、謝るか……。
積極性が足りなかった、優子に教えてもらうことだって出来たのに、って。
謝ると男が下がるかもしれないが、それが正直な気持ちなんだから、そう言いたい。
多分、分かってもらえるハズ。
……彼女の優しさに甘えるのが、情けないな……
二度と、同じ間違いはしないようにしないと……
そう、反省を深めているときだった。
「るせえ!!とっとと一人で帰れ!邪魔なんだよ!!」
突如として、そんな粗野でどうしようもない声が耳に飛び込んできたんだ。
反射的にそちらを見た。
すると。
1人の男と、浅黒い肌の、髪を染めた男の4人組……が揉めていた。
4人組の傍に、赤いワンピース水着を着た金髪の女の子が一人居る。
男たちは彼女を取り囲んでいて、それに立ち向かうように、1人の男。
一瞬で、構図が読めてしまった。
多分、あの4人はあの金髪の子をナンパしてて、そして女の子が嫌がってて。
女の子の知り合いか、彼氏が、あの1人の男で。
助けに来たら、連中は引き下がらないで激高、と。
……俺は元々、3人兄弟で、一番上に、兄ちゃんが居た。
ガタイの良かった俺とは違い、線の細い兄ちゃんだった。
頭は、抜群に良かったんだけど。
読書が趣味で、優しかったな。
でも、中学に上がった時、同級生に殺された。
同級生に、どうしようもない、札付きのワルが居て、そいつの言うことに従わなかったからだ。
俺は兄ちゃんはかっこよかったと思う。暴力に屈しなかったんだから。
でも、殺された。
……兄ちゃんは、何も悪くなかったのに。
そのせいか、どうにも、こういうのが許せない。
暴力で威圧して、自分の身勝手な欲望を叶えようなんて考える連中は。
そんなのが男らしい?冗談じゃない。
黙ってなんて、見てられるかよ。
……あの4人に立ち向かう、1人の男が、なんだか兄ちゃんに見えたんだ。
考える前に、身体が動いてて。
4人のろくでなしの一人の腕を掴んでいた。
「……4対1は卑怯だな。アンタ、3人は俺が受け持とうか?」
傍で見たその一人の男は、すごく知的な風貌に見えた。
年齢は、俺と同じくらいだろうか?
★★★(海坊主野五藩太郎)
ちょっと殴りつけてやれば、このクソムカつく顔も歪むはずだ。
そして心も折れるはず。
そう思ったから、腕を振り上げたら。
いきなり、横から掴まれた。
ものすごい力だった。
「……4対1は卑怯だな。アンタ、3人は俺が受け持とうか?」
……え?
何?何これ?
横にいきなり、ゴリマッチョボディの男が出現していたんだ。
腹筋、バキバキ。
胸板、鎧ですか?
腕。赤ちゃんの胴体?
太腿、原始人の棍棒ですか?
……3人どころじゃない。
俺たち4人でかかっても、瞬殺される。
それが、その身体を見ただけで分かってしまった。
「あ……お前には関係ないだろ……!」
内心ビビリながら、腕を掴まれる痛みに耐えつつそう声を絞り出したが。
男の顔を見て、震え上がった。
顔はまだ幼さがあり、多分高校生くらいだった。
しかし。
明らかに、不機嫌になってる。
……受け答えに誤りがあれば、その時点でツブされる……!
それが、雰囲気で分かった。
「……関係あるさ。不愉快だ。傍でこんな見苦しい真似をされたらな!」
男の声には明らかに怒りがあった。
まずい!!
逆鱗に触れたかも!
背筋が寒くなった。
だからとっさに言った。
「分かった!!俺たちが悪かったから!!放してください!!」
★★★(下村文人)
……チンピラどもが逃げていく。
正直、助かった。
これで、千田さんに引かれて気まずい雰囲気を解消できず、場を用意した徹子の顔も潰してしまう事態は避けられた。
ありがたいありがたい。
「……助かった。殴り合い、覚悟してたんだけど、しないで済んだ」
頭を下げた。
「いや、いいって。単に見過ごすのが不愉快だっただけだからさ」
乱入してきて、手を貸してくれた男。
彼は爽やかに笑いながら、頭を掻いていた。
……改めてみると、すごい男だった。
多分、年齢は僕と同じくらいなんじゃ無いかな。
顔の感じが、少年っぽいし。
目が細くて純朴で、穏やかな感じ。
でも、身体がね……
どういう鍛え方してんだろうね?
高校生だよね?
専属のトレーナーでもついてんの?
筋肉のエッジがもう、彫刻レベル。
何?将来アクションスターでも目指してるわけ?
某ターミ●ーター的な?
「……すごい身体だ……」
思わず、言ってしまった。
「あ、彼女が鍛えると喜ぶから、言われるままにやってたらこうなった」
しれっと。
……アンタの彼女、どんな彼女だよ。
筋肉フェチまではまあ良いとして。
なんか、異様なものを感じてしまった。
フェチだからって、彼氏をここまで改造するか?
……おかしいんじゃないの?
まぁ、言わないけど。
彼も、心底彼女に惚れぬいてるからそこまでになったんだろうし。
確実に怒らせるよな。
一応、恩人だからそれは駄目だ。
「ありがとうございます!」
僕が彼の彼女について想像を巡らせていると(おそらく相当頭が良くて、人心掌握に長けていて、計画的に動ける人物と予想)横から徹子が突っ込んできて彼の手を握った。
まぁ、他意は無いんだろうけど。
純粋に、助けてもらう形になったから、礼儀として感謝する。それだけだろう。
でも、こいつの場合、男相手には罪作りではあるよな。
……彼の目線が一瞬徹子の胸に飛んだの。
僕はまぁ、見過ごさなかった。
……気持ちはまぁ、分かるよ。目に入ったんだよな。しょうがないよな。
★★★(北條雄二)
ひょっとしたら余計なお世話だったのかもしれない。
それぐらい、落ち着き払っていた。
彼は。
第一印象は知的な風貌、だったけど。
目付きがやたら鋭くて。
それに、筋肉の付き方が。
……これ、格闘家の筋肉じゃ無いの?
戦う男の身体。その教科書みたいな気がした。
……多分、助けに入らなくても彼は自分でなんとかしてたな。
見れば見るほど、そんな気がしてくる。
まぁ、助けに入ったのは。
成り行きを見守るには、あまりに不愉快過ぎる構図だったからだけど。
……ひょっとしたら、優子に迷惑掛かったかもしれないけど。
こればっかりはしょうがない。
無法を見て見ぬ振りするなんて。それを是とするのは嫌だから。優子だってきっとそのはずだ。
……一応、言っとくか。
怒らないでくれると信じてはいるけど。
そんなことを考えていたら。
「ありがとうございます!」
いきなり、柔らかい手に、手を握られた。
ぎょっとする。
優子以外で、こんな手に触れるのは久々だったから。
俺の手を握っていたのは、赤色ワンピース水着の金髪の女の子。
ここで。俺は。
……父さんの言いつけを破ってしまった。
彼女が出来たら、他の女の子の顔は見てはいけない、って。
……びっくりするぐらい、可愛い女の子だった。
目が大きくて、アイドルで通用するレベル。
……あぁ、だから父さんはああ言ったのか。
心を動かされる要素を徹底的に排除することが、女の子への誠実さに繋がるから、と。
身体で、分かっちゃったよ……すげえよ、父さん……
慌てて視線をずらした。
すると。
彼女の胸が目に飛び込んできた。
……うわ……デカッ……!!
……優子には言ってないけど。
俺は実は巨乳好きだ。
優子はスレンダーで。胸の大きさは普通。
巨乳とは呼べない。貧乳でも無いけどさ。
……別にさ、それが不満なんてことは無いんだよ。
傍に居て欲しいのは優子だし、女扱いしたいのも優子なんだから。
優子であることが重要で、胸の大きさは関係ない。
でも。
俺の、性癖に刻まれたおっぱい星人の血が、一瞬彼女の胸をガン見させてしまった……
優子、ゴメン!ホントゴメン!!
いくら見事なおっぱいだったからなんて。
Gはあって、形も良さそうだったからなんて。
……一瞬、見ちゃったよ。すまない……!!
それに、もしかしたら彼氏さんかもしれない、そこの彼も。
ごめんなさい……!
彼女の胸をガン見してしまいました……!
そうして、自己嫌悪に陥っていると。
いきなり、ぐい、と横から腕を引かれた。
視線を落とす。
……凍り付いた。
……そこに優子が居たからだ。
俺を、非難するような目で見つめながら。
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