第5話 海水浴場ですれ違う
★★★(
S海水浴場。
今日は仲間と一緒に海に来ていた。
目的はナンパ。
海で解放的になってる女の子をナンパし、遊びたい。
S海水浴場といえば、傍にホテルもあるし、若い奴らが集まりやすい場所だ。
夏だからな。楽しまなきゃよ。
恋の季節なんだから。
今日は車で来たが、今年も、今日も賑やかだ。
天気は最高に良い。お昼前の時間帯。これからたっぷり遊ぶとしよう。
現地調達で女の子を誘って!
俺たちは衣服を脱ぎ捨て、水着姿になり、浜辺に繰り出す。
さて、どの子に声をかけようか……?
見回していると、居た。
スラっとした女の子が、向こうから歩いてくる。
髪が長く、スレンダー。
胸の大きさは、まぁ、普通か。
貧乳ってわけじゃないが、巨乳とも呼べない。
顔つきはクールな感じで、キリリとしている。
かなりの美人だ。全体的な印象は、涼しげ。
水着は水色で、胸のところにフリルがついたワンピース。
……年齢は……高校生くらい?
まぁ、美人だし。
声を掛けない選択肢は無いわな。
「ねぇ、キミ、綺麗だね。どこから来たの?」
さっと駆け寄って声を掛けてみた。
すると、彼女はこっちを一瞥し、そのまま無視して歩いていく。
「ちょっとくらいいいじゃんか。一緒に遊ぼうよ」
追いかけてさらに声を掛けてみた。
すると。
「……婚約者と来てるんで」
振り返って、キッとした視線を向けてくる。
で、んなことを言われた。
……は?婚約者?
ちょっと頭の中に染み渡るのに時間が掛かった。
えっと、多分高校生だよね?この子?
それで、婚約者?
何?何かの冗談?
混乱していると、彼女
スタスタと歩いていく。
このままでは逃げられる。
そう思ったから、追いかけた。
で、もう一回言った。
「いいじゃん遊ぼうよ!折角なんだし!」
「……さい」
するとその子は立ち止まり。
何か言った。
「えっと」
問い返すと
「
彼女は振り返った。
俺はその目を見た。
……背筋が凍った。
アカン。
この子、アカン。
手ぇ出したら、アカンやつだ。
彼女の言い方は怒気を含んでおり、吐き捨てるようだった。
普通ならカチンとくるところなんだが……
そんな気は起きなかった。
……逆らってはいけない。
その目で、一瞬で分かってしまったから。
「……ハイ。すみませんでした」
条件反射的に、謝罪の言葉が出た。
彼女はそれを聞かずに、再び歩き出して去っていく。
「……おい、どうした?五藩太郎?」
仲間の
それで、硬直がやっと解ける。
「……この浜辺、ヤクザも利用してるのかもしれん」
「え?」
「今の子、絶対どっかの暴力団の組長の娘だ……」
去っていく清楚な後ろ姿を見つめながら。
危ないところだった。あれはカタギの目じゃない。必要とあれば他人を平気で破滅させられる。そんな恐ろしさを感じた。
美人だからといって誰でもかれでも声をかけると、えらいことになる。気を付けないと。
「暴力団って……」
「そうとしか思えん。あの目は……」
他の仲間の
俺はそう思ったのだが。
次に目にしたものに、そんな貴重な教訓が吹っ飛んでしまった。
ゆっさゆっさゆっさゆっさゆっさゆっさゆっさゆっさゆっさゆっさゆっさゆっさ
女が走ってきていたのだ。
赤いワンピース水着を着た女が。
問題はその胸!
どうみてもGカップはあった。
それを揺らしながら走ってきている。
加えて。
すごい美人だった。
さっきの子は清楚系の綺麗美人だったが、こっちは清楚系エロい美人だった。
身体がすごいのに、顔がカワイイ系。目が大きくて、小顔だ。
そしてその身体。
胸が大きいだけではない。
腰はキュッと括れているし。
お尻のラインは申し分ない。
足が長く。太腿の肉付きときたら。
髪は金髪で、肩のあたりで切り揃えている。
身長は女子としては高めだろうか。
思わず見惚れてしまった。
え?何?
この浜辺、芸能人まで来るの?
テレビで見た覚えない顔だけど、出てても全然不思議じゃないレベルなんだけど?
女は俺たちの前を通り過ぎた。
通り過ぎてから気づく。
「あ、ちょっとキミ……」
だが。
女は気づかずに、そのまま海に飛び込んで。
波間に、消えた。
こんな短時間に、系統は違うとはいえ美人に2人も遭遇するなんて……
……今年のS海水浴場は、すごいのかもしれない!!
★★★(水無月優子)
うん。やはり雄二君の慧眼は正しかったですね。
ビキニにしなくて正解だったと思います。
いきなりナンパされるなんて。
ビキニでうろつけば、もっと来たかもしれません。
私の相手はすでに決定しているんですから、寄ってきて欲しくないです。
婚約者と来ているとまで言ったのに、食い下がってきたときは、圧し潰してぺちゃんこにしてやろうかと思いましたよ!
それはつまり、雄二君から私を奪い、私たちの幸せを破壊すると宣言してるのと一緒ですからね。
で、私たちの幸せを破壊してまで連中が得るものはなんですかね?
どうせ、一時の快楽ですよね?違いませんよね?
……ふざけんな、って感じです。
あぁ、ホントに不愉快。
私たちの幸せを、軽く見られた!
あれ以上食い下がってたら、本気で病院送りにしてやってたところです!
私たちの幸せを侮辱するやつには容赦しません!
取るに足らないものを得るために、お金に代えられない価値のあるものを破壊されてたまるもんですか!
……はやく雄二君と合流しなきゃ。
彼と合流したら、おいそれとは声をかけたりはしてこないはずですしね。
彼を見て、彼から女を奪おうなんて考える馬鹿な男は居ないはずですから。
……並の男じゃ、ナイフ持ってても勝てそうに見えませんものね。
胸板も、腹筋の割れ具合も、腕や太腿の太さも。
筋トレを勉強と一緒に頑張った結果ですよ!
ステキです!
まぁ、実際、勝てるはず無いんですけど。
オーヴァードですし。しかも並ではないレベルの。
見た目だけじゃないです。
さて。
そんなことを考えているうちに。
着きました。
待ち合わせはこのあたりの浜辺のはずだったんですけど……
居ませんね?
すると。
「優子~!」
あ、雄二君!
手を振りつつ、水着姿で駆けてくる彼を見つけ、私は手を振り返しました。
更衣室混んでたんで、ちょっと時間をとってしまったから。
きっと先に出てるはず。男性は女より着替えに時間かからないし、と思ったんですけど。
どうやら違ったみたいですね。
「更衣室、混んでたの?」
「わりと」
聞くと、なかなか着替えるスペースを確保できなかったとか。
多分、強引に割り込んだりしなかったんだと思います。
彼、そういう行為嫌いですから。
暴力で他人を威圧して自分の取り分を確保する、みたいな。
……それは彼の美点だとは思うんですけど、そうなってしまった理由。
予想はつくんで、あまり褒めてあげたくは無いですね。
きっと、嫌なことを思い出すに決まってますし。
★★★(佛野徹子)
アタシは着替えが済んで更衣室を出た瞬間、海に向かって駆け出した。
ハッキリ言って、今日はほとんど泳ぎに来たからね。
千田さんとの仲直りは、文人に丸投げで問題ないでしょ。
アタシのサポートなんて、不要っていうか、多分無い方が上手く行くはず。
アタシの今日の仕事は場を提供するまで。あとは二人で頑張って。
途中、人にぶつかりそうになる場面もあったけど、そこは慣れてるんで。
高速移動時の感覚の応用で、躱しながら走った。
海まで一直線。
着くと同時に、水中ゴーグルを装着し、飛び込んだ。
ざばーん。
泳いだこと、プールと訓練用の湖しか無いけど。
まぁ、多分いけるでしょ。
波や海流の問題……離岸流だっけ?それも、その気になれば超音速モードで泳げるし、それで余裕で逃れられるはずだしね。
超音速で泳げば、海流自体止まってるのと同じ状態になるし。
そんなことをしたら衝撃波で犠牲者が?って言われるかもしれないけど、その辺は大丈夫。
ハヌマーンシンドロームによる超音速は、時間の流れに干渉している部分があって、そういう不都合なものは出ないから。
あと、無いとは思うけど、仮に鮫が襲ってきてもアタシは勝てるし。
何も怖いものは無い。わはははー!
そうやって、気分をあげながら沖へと泳ぐ。
沖へ沖へと泳いでいくと、人が減って行く。
まぁ、普通の人は足のつかないところであまり泳ぎたがらないしね。当然だよ。
まあ、人の目が減ると、こっちとしては都合良いんだけどさ。
好き勝手できるから。
アタシは一度海面に浮かび上がり、息継ぎをした後。
潜行し、海の底を目指した。
……思いつく限り、エフェクト使って遊び倒してやる!
★★★(千田律)
更衣室で、佛野さんと並んで着替えるのはちょっと辛かった。
スタイルの差がどうしても気になってしまうし。
スルスルと佛野さんが隣で脱いでいくのを横目でチラチラ見ながら、私も脱いで着替えた。
佛野さんはおっぱい大きくて、全然垂れて無い。ツンと上向き。形、すごくいい。釣鐘型?
そしてお腹周りも全然脂肪ついてなくて、きゅっとしてて。少し腹筋が割れていた。
……ホントどうなってんだろう。この人。
帰宅部のはずなのに。
対して私はものの見事な鯉のぼり体型。
……否が応にも劣等感は避けられない。
あ~あ。私もこんなんだったらなぁ……
羨ましい……
「えっと……」
気が付いたらまじまじと見ていたのか、佛野さんが困った顔をして
「千田さんも早く着替えた方が良いと思うけど?」
そんなことを言われてしまった。思わず、着替える手まで止まってたみたい。
……ちょっと恥ずかしかった。
そして。
私はフリルが腰回り、胸周りについた藍色のワンピース水着を着用し、更衣室を出た。
すでに佛野さんは居なかった。
更衣室を出る前に言ってたけど、今日はほとんど泳ぎまくるらしい。
一応、お昼ご飯は海の家で一緒に食べようって言ってるけど。
だから、一足先に海に直行したんだと思う。
……えーと、文人君は……?
「着替え終わったみたいだね」
キョロキョロしていると、横から声を掛けられた。
振り向く。文人君だった。
文人君は黒い競技用見える水着を着ていた。
で、両手にサーフィンのボードみたいなのとか、浮き輪とか、レジャーシートだとか。鞄とか。
いっぱい持ってた。
で、はじめて文人君の身体をまじまじと見たんだけど……鍛えてるんだっていうのが、すぐに分かった。
彼も帰宅部のはずなのに。
細身だけどしっかり、筋肉ついてて、かっこいい身体。
素敵だなぁ……。
思わず見惚れそうになる。
そこに。
「……で、何をする?一応、遊び道具は色々持ってきたんだけどさ」
そう言って、ニコッと微笑んでくれる。
ちょっとドキッとして。辛かった。
そこに他意なんて無いの、分かってるから。
私たちは並んで歩いていた。
レジャーシートを敷くところを探すために。
「まずはちょっとお話したいから、落ち着けるところ、探そうよ」
そう言ったからこうなった。
海水浴客を見ながら、歩く。
歩きながら、彼に話しかける。
「……佛野さんのこと、良く知らないで失礼なこと言ってごめん」
まずは謝罪。佛野さんへの最大級の侮辱を、彼に向かってやってしまったこと。まずはここからだ。
そう言ったら
「あいつが許したなら僕からは何も無いよ。僕に謝ることじゃ無い」
僕は許す立場に無いんだからさ。彼はそう言った。
……まぁ、その通りなんだけど。
いちいちややこしくするよね。この人。
下手すると拗れちゃうよ?もしかして許してくれないの?って。
重要なの「もう別に怒ってない」ってことでしょ?
……やっぱり、佛野さん言ってた通り「優しい」ってのとはちょっと違うのかもしれないなぁ。
本当に優しいのであれば、この局面でそういう「言わなくても別にいいこと」を言わない気がする……。
真面目狂人ってのも狂人は言い過ぎかもしれないけど、なんか納得できるものがある。
まぁ、嫌な気はしないんだけど。
で。そこから何も会話しない。
佛野さんの事を語ること。ちょっとやりそうな流れに見えるけど。
……理由は分かってる。
佛野さんの事、あまりにもプライベートな問題に踏み込んじゃうから、話せないんだ。
私も最初聞いたとき「なんて酷い話なの」って思ったし。
軽々しく話せることじゃないよね。
でも。
会話が止まるのは良くないな。
だから。
「下村君、いつも本を読んでるよね。前も聞いたけど、学術書ばっかりなんだっけ?」
新しく会話を切り出した。
「まぁ、ほぼ独学、勉強目的で読んでるから」
でも、学術書ってよく分かったね。と続けてきた。
歩きながら。
「佛野さんが教えてくれたんだよね」
そう言ったら。そうか、と彼は言った。
何故か、嬉しそうに思えたのは気のせいじゃ……多分、無い。
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