第27話 魔力無効化

「弱点ですか?」


「ん。最近は制御できているが、昔は勝手に能力を発動することが多々あった。意図せずに触れたものが消えてしまう。」


「蒼が素手で戦ってるのもそれが理由だね。」



隣から詩音さんが説明に加わる。



「そうだ、武器も消滅するから。詩音に出会ってからそれも変わったけどな。この革手袋をあるだろ。」



ヒラヒラと俺の目の前で手を動かす。その手にはさっきはめた黒のオープンフィンガーの革手袋があり、手の甲の部分にはBの紋章が焼印で押されている。


手首にはなにやら俺が読めないような字で術式のようなものが刻印されていた。



「これは詩音しか作れない手袋だ。詩音の能力は【魔力無効化】。その術式を革手袋に刻印してある。だから実質、今の俺は魔力は使えない状態にある訳だ。昔はこれが無いと物には触れられないだけでなく握手もろくに出来なかった。」


「ちなみに一輝の双剣の鞘にも私の術式が刻印されているよ。」


「一輝さんのですか?何故……?」


「あれ?一輝に教えてもらってないのかな?……ちょっとー!一輝、こっち来て!」



「はい!」と大きく返事をして雨音さんと話していた一輝さんがやってくる。後ろから雨音さんも。



「どうかしましたか?」


「一輝、戮くんに双剣のこと教えてなかったんだね。」


「いずれ教えようかなと思っていたので。」


「そうなんだ。ついでだし、今説明しちゃってよ。」


「分かりました。」



一輝さんは腰のホルスターから短い方のナイフを抜いた。するとさっきの蒼さんの能力を発動させた音と似たような羽虫が羽ばたくような音が鳴り響く。


それを刀身の部分を手に持ち、俺に持ち手を差し出した。



「持ってご覧。」


「は、はい。」



片手で黒革のグリップを握る。すると一輝さんがパッと刀身から手を離す、その瞬間。


とてつもない重さが俺に襲いかかってきた。驚くことに俺の長刀よりも重量がある。確実にナイフの重量ではない。



「重っ!?」



危なく、取り落としそうになる。腰を入れて何とか双剣を保持した。


一輝さんと組手をした時の攻撃の重さの理由がわかった気がする。こんな鉄の塊を振り下ろされたらひとたまりもない。


それを見てははっと愉快そうに笑う詩音さん。



「はい、一輝。タネ明かし。」


「了解です。はい、返してもらうね。」



軽々と俺からナイフを受け取る。



「このナイフはね、ここの所に……見えるかい?」



グリップの底にキラリと光るものが見える。これは……属性弾の弾丸?



「この弾丸に重力魔法が込めてあるんだ。物に重力魔法を撃つと重さが変わるだろ?このナイフにも重力魔法が撃ってあるんだ。」



「でも……それだったら一輝さんも重たいのでは?」



さすがの一輝さんでも二本の重いナイフを自由に操るのは難しいのではないか。



「そこはウチの出番だよ。」



雨音さんがやって来る。



そして自分の持っている拳銃を一輝さんに握らせ、その上から雨音さんが一輝さんの手を握って同じように引き金に手をかける。


今、二人の指が引き金にかかっている。それを蒼さんに狙いを定めて発射。


蒼さんの体が回復魔法の優しい光に包まれた。みるみるうちに蒼さんの生傷が癒えていく。



「二人で撃つと、二人で魔法を使った事と同じ扱いになることが実験でわかったんだよね。それを利用したの。だから今、総司令に回復魔法をかけたのは一輝さんという扱いになるんだ。」



なるほど、重力魔法は効果範囲を指定できることを利用したわけか。ナイフ本体の重量は上がり、使用者の一輝さんにはそれ以下に感じる。


ある意味兵器だ。



「だから一輝さん以外の人がこれを使おうとしたらよっぽどの馬鹿力じゃないと無理なんだ。」


「あれ?でも、ナイフの重量は鞘にも負担がかかるんじゃないですか?」


「うん。だから……」



一輝さんがホルスターのベルトを前側にずらす。



「ここ、見える?」



鞘の入口を指さした一輝さん。よく見ると黒革なので見づらいが、先程蒼さんに見せてもらった刻印と同様の物が鞘に刻まれていた。



「この刻印が重力魔法を無効化させるんだ。だから重量は一般的なナイフと同じになるね。鞘から抜いた時だけ限定で重さが加算される。」



一輝さんが抜いていなかった方のナイフを鞘から抜く。するとまたしても羽虫の羽ばたくような音。この音は重力魔法が発動した音だったのか。



「俺の弱点というのは、魔力を無効化されると能力が使えないというところ。だから俺の天敵は詩音だな。」


「私が蒼の敵になることは死んでもないから大丈夫だよ。」



詩音さんが蒼さんの頭をくしゃくしゃと撫でる。蒼さんはというと大人しくその手を受け止めていた。



「そうだ、私の能力の説明の途中だったっけ。魔力無効化の刻印まで話したんだよね。後はこうやって……」



手の平に魔力を纏わせるとそれが銀の光で色付き、六角形の形を象る。まるで透明な下敷きのようなイメージ。



「今は小さな盾だけど、もっと魔力を放出させると……」



詩音さんの体から光が溢れると、詩音さんを銀色の半透明のドームが覆った。



「こうやって防護膜の大きいバージョンみたいなのが完成する。これはね……雨音ちゃん、良いかな。」


「はい、雷で良いですか?」


「うん、お願い。」



雨音さんが属性拳銃を詩音さんに標準し、弾丸を発射。着弾音が響くと上から稲妻が降ってくる。


それが詩音さんの作り出すドームに当たると、ドームの表面が虹色の光に覆われて空気の弾けるような音と共に消え去ってしまった。



「このドームは魔法攻撃を完全に無効化する。どんな魔法でもね。ちなみにこのドームは半径五十メートルまでなら中に入ってる全員を魔法攻撃から守ることができるよ。」



圧倒的な防御力を目の前で見せつけられた。攻撃中心の蒼さんに、防御中心の詩音さんか。


それに使いようによってはお互いが攻撃にも防御にも転換できる。



「はい。ということで私の異眼能力の講習を終わります。何か質問はありますか?」



まるで教官のように俺に問う詩音さん。



「ありません。」


「ふふっ♪よろしい。」



ニコッと微笑みながら腕組みをして答える詩音さん。



「……詩音。それ私の真似だろ。」



詩音さんの後ろから完全に蚊帳の外だった白波教官が現れる。苦笑いをしながら。

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