第26話 異眼の種類

不意に目が覚めた。辺りを見渡しても真っ暗できっとまだ深夜なのだろう。


二度寝をするべく目を閉じる。しかし、本格的に覚醒してしまったのか微塵も眠れる気配を感じない。


凛を起こさないようにゆっくりとベッドから降りると、スウェットから戦闘服へと着替えて長刀を腰に装備する。なるべく音を立てないように玄関へと向かい、ブーツを履く。そして廊下へ通じる扉を開け、廊下へと出ていった。



「ふー……」



なんとか誰も起こすことなく部屋から出ていくことに成功。


とりあえず向かう先は対人訓練室。ここで素振りの千本でもすればきっと眠れるのではないかと考えた。


重い扉を少し開けると中の光が廊下へと漏れだし、中からは剣戟の音と魔法独特の音が聞こえて来た。一体中では何が起こっているのか。





少し考えて、思いきって扉を開くと中には五人の軍人。


一人は総司令官の蒼さん。真っ黒な戦闘服のズボンに上は黒の半袖。蒼さんは何やら飛んでくる攻撃を次々と防いでいる様子。


そんな蒼さんに向かって攻撃をしているのはなんと三人がかり。一人は詩音さん。そして雨音さんになんと白波教官まで。


呆気に取られて見入っていると俺に気がついたのか最後の一人、一輝さんが俺に向かって手招きをする。好意に甘えることにして闘技台の上の皆さんの邪魔にならないように、急いで一輝さんの元へ走っていった。



「やあ、戮。眠れないのかい?」


「なんだか目が冴えちゃって……あの、これは一体何をしているのでしょうか。」


「ああ、これね……これは蒼さんの特別訓練なんだ。『俺はまだまだ未熟だ。』って言って自分から苦手な遠距離タイプの三人を一斉に相手しているのさ。」



よく目を凝らすと、雨音さんが次々蒼さんに向かって氷の弾丸を発射。その弾丸を素手で弾くと、次は白波教官の見えない斬擊が襲う。斬擊を目視せずに首を傾げて避けると、間髪入れずに詩音さんがで操る二本のナイフを蒼さんに向かって容赦なく発射。



「空中でナイフが浮いている……」


「そうか、戮は詩音さんの能力を見るのは初めてか。あれはね【空中操作】って言って文字通り空中で武器を操ることができるって聞いてる。詩音さんが言うには合計七本までのナイフなら別々の動きをさせられるらしいよ……これは超能力型の異眼だね。」



異眼は大まかに分けて三つの種類に分けられる。



まずは憑依型。霊獣の能力を使って戦うタイプ。その為には霊獣と契約しているのが絶対条件だ。


大抵は幼い頃に済ませている場合が多いが、稀に自分の意思とは関係なしに宿していることがあるらしい。俺の場合は幼少期に済ませているので前者。


このタイプは精神力を大幅に消費してしまうので、制御できずに暴走してしまうこともしばしば。すべてのタイプを兼ね備える最強のタイプらしい。俺と凛はこのタイプ。



能力向上型。


元々の身体能力を通常の倍以上に引き上げるタイプ。例としては足がとても早くなる、視力がかなり良くなる。出せる力が向上するなど。


小さい能力に思えるが、憑依型と違って体に負担がかからないのがメリット。



そして最後か超能力型。


文字の通りに超能力が使えるタイプ。例えば詩音さんみたいに空中でナイフを操る、一輝さんのような瞬間移動等々。聞くところによると雨音さんの【万障操作】もこれにあたるらしい。


タイプの比率は憑依型が五パーセント、能力向上型は八十パーセント、超能力型が十五パーセントとなっている。


その中でも超能力Ⅱ型と呼ばれる超能力型の中でも、その能力を二種類持っている持っている者は全体の一パーセントとも言われている。



「ん……そろそろ終わりかな。」



その場にいるのも嫌なので、俺も一輝さんに着いていく。



「終わりましたか。」


「ああ。本当はもう十分ぐらいやりたいんだが、明日に響くといけないからな。」



蒼さんの体を見ると、所々生傷が目立つ。もしかして防護膜無しでも訓練だったのか。



「あの……」


「戮じゃないか。どうした。」


「今の訓練ってもしかして……」


「ん、防護膜無しでの連距離攻撃相殺訓練だ。防護膜があると甘えが出てしまうからな。それにコイツの使い勝手も図っておきたい。」



そう言うと蒼さんは仮面をつけていない方の目を指差した。蒼さんの異眼の色はほとんど黒に近い紫か。



「異眼ですか……」


「そう。俺の能力は【消失】。俺は気と魔力を混ぜ合わせることで特殊な効果を産み出すことができる。その効果を手のひらに集中させると……」



蒼さんが革手袋を外して力を込めると、まるで羽虫が耳元を通りすぎたかと思うような音が一瞬辺りに響く。蒼さんの手には紫の気流が浮かび始めて、徐々に収縮していった。やがてその光が消えると、蒼さんは自分の手のひらを俺に見えるように向ける。


手のひらをよく見てみると、深い紫色の炎のような模様がくっきりと浮かんでいた。



「こう、紋章が現れる。その状態で……詩音。」


「はーい。」



蒼さんがもう片方の手袋を外したのを確認すると、詩音さんの異眼が発動。色は銀色。


詩音さんが手に持っていた合計七本の木剣を放り投げる。その瞬間まるで木剣一本一本が意思を持っているかのように銀色のオーラを纏って次々と蒼さんに襲いかかった。


それを蒼さんは次々と掌底で弾いていくがその様子に違和感を感じる。


蒼さんの掌底に当たった木剣が全てしていく。まるで最初からその場に存在していなかったかのように。


最後の木剣を弾いて蒼さんが一息。



「俺が触れたものは全てこの世から存在を消す。生態の消失には限度があるが、物質ならば消すことができる。」



それって雨音さんの能力とは比べ物にならないくらいのチートでは無いか。


その能力の恐ろしさについ、体が震えてしまう。


蒼さんは両手に革手袋をはめ直して説明を再開する。



「しかし、この能力は最強じゃない。むしろ、弱点だらけだ。」


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