第24話 実験体の証
体を洗い終わって湯船に四人で浸かった。他愛もない話をしていると、輪が突然言葉を発する。
「そういえばお二人に聞きたいことがあるのでした。」
「どうしたの?」
「お二人の体に刻まれているマークは何か意味があるものなのでしょうか。」
凛が一輝さんの鎖骨の下に刻まれているマークを示した。そこには何やら矢印を模したような臙脂色のタトゥーのようなものがくっきりと刻まれている。
それと、さっき雨音さんのお腹にも同じようなものが刻まれているのを見た。俺は特殊部隊のマークか何かだと思っていたが、もしかして違うのかな。
「ああ、これね。これは……」
「私が言うよ、雨音。」
最初に発言しようとした雨音さんを制すると、周囲を警戒するように見渡す。まるで誰も居ないことを確認するかのように。
「これはね……【実験体の証】。昔、異眼が現れ始めたときにね軍の中で人工的に異眼を作って見ようって話になったんだけど……こう眼球に直接注射器で薬品を入れるんだ。」
雨音さんの頭を押さえて注射器で薬品を注射する真似事をする。想像しただけで背筋がゾクッとする。眼球に針を刺すなんて考えられない。
「そんな非人道的な実験は主に子供。孤児や一般からの募集で実験体が集められたんだ。」
「それで実験の方は……」
固唾を飲んで一輝さんの話を聞き入る凛。
「失敗。みんな死んだ。副作用が酷くてね、バタバタと倒れていったらしいよ。それで生き残った者を判別するためにこれが魔力で入れられたんだ。」
「え……でもお二人は生きていますよね。」
「まあね、運が良かったんだろうね。私の異眼の色知ってるでしょ?」
そう言うと、一輝さんは両目の異眼を発動させる。右目は青、左目は赤。続いて雨音さんも自分の異眼を発動。右目は赤、左目は青。
「たまたま、薬品の取り違えがあったんだ。本来だったら私の目は両方青。【瞬間移動】【行動予測】で接近戦は無敵のはずだったんだ。」
「それでウチが両方赤で【見切り】と【属性弾】のはずだったの。だから遠距離では無敵だったんだけど。」
「どうやら両方の強力な能力を合わせることで強大な副作用を生み出してしまうみたいなんだ。今の状態でさえ、副作用はあるしね。」
副作用……一体どんな副作用があるというのか。見た感じでは戦闘に不向きな副作用があるようには見えないが。
「その副作用は私が魔力を一切使えないこと。そして雨音が気を一切扱えなくなること。どちらにしても戦闘中は不利になることが多いね。」
「ウチは気を利用した縮地や体術が使えないから接近戦はあまり得意じゃない。遠くから敵の攻撃が届かないところでペチペチやるしか無いんだ。一輝さんに敵を引きつけてもらってね。」
「それで私が魔力を一切使えないから属性攻撃ができないんだ。肉弾戦だと攻撃が通らないことが多々あるから、雨音の魔法で魔法を相殺してもらわないとすぐには魔獣を倒せない。」
こう聞くと二人はかなり苦労してるみたいだ。俺は元々魔力が使え、俺に加え一輝さんに気の扱いを学んだのでおかげでそれを使うことができる。
もし、俺が魔力を使えなくなったら攻撃方法が劇的に変化すると思われる。もちろん弱体化という意味で。
普段、気の扱いを中心に戦闘を組み立ている凛が気を利用できなくなったとすると苦戦は免れないだろう。慣れているのなら尚更。
「た、大変そうですね。」
「うん。私は元々魔法に適性がなかったみたいで属性弾を使うことで精一杯だったんだけど……まさか属性弾まで発動しなくなるなんて思わなかったよ。雨音に出会うまでは常備の【属性拳銃】もほとんど意味がなかったね。」
軍には属性拳銃という、属性弾が入った拳銃が一人一丁支給される。元に特殊部隊見習いの俺と凛も拳銃が支給されていた。
ちなみに属性弾の属性は俺は雷、凛は水となっている。通常、異眼を持っていても持っていなくても一つの属性しか撃ち出すことはできない。
属性弾の威力は銃器の種類によってかなり異なるみたいだ。拳銃で例えると雷の場合、動きが鈍る程度に痺れ、ライフル以上になると個人の技量によって効果が異なる。
雨音さんが持っているのは対物ライフルで、個人が持てる武器の中では上位の武器にあたる。現に俺が見た雨音さんの攻撃は自然現象かと見間違う威力の雷。
――大型の魔獣をいとも簡単に仕留めてしまう程の。
それほどの質量の攻撃をするにはロケット砲などの兵器が必要になると聞いたことがあるが、その常識が簡単に覆されてしまった。
「ウチが一輝さんの拳銃に入っている属性弾に回復魔法を込めたからね。残りの魔力がある限り回復し放題だよ。」
そういえば凛の凍りついた足を拳銃で溶かしていたことを思い出す。
「あの、ずっと気になっていたのですが……雨音さんの魔法属性は一体なんなのでしょうか。」
その質問は俺もしたかった。ずっと気になっていたから。雨音さんは雷は勿論、凛との組手の時に氷魔法を使っていたのを俺は見ている。
「ウチの本当の能力はね……【万象支配】って言うんだ。この世に存在する全ての魔法属性を制限無しに使うことができるよ。銃器が耐えられればの話だけど。」
「それって……無敵じゃないですか。」
驚いたように凛が言う。雨音さんは当たり前のように言っているが、実際はとんでもない能力。
属性弾は一つの属性、尚且属性弾に使用者の魔力の容量により撃ち込める魔法の総数が決まっている。なので、無限に撃ち出すのは実質不可能だ。膨大な魔力が無くてはできない所業。
「雨音の魔力はほぼ無限に近いから。羨ましい能力だよ。」
「えへへ、いいでしょー!」
茶化したように雨音さんは言う。そんな雨音の頭を撫でつつ、「羨ましい限りだよ。」と呟く。
「でも回復魔法を自分に撃つ時、雨音の温かい魔力を感じられるから嬉しい。……魔力を使えなくても良かったかも。」
「本当に?……嬉しいな。」
普段見せないような笑顔で雨音さんは一輝さんに寄り添っていった。見ているだけで和んでしまう。
その様子を見ていると、突然脱衣所の自動ドアが開く音がする。
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