第16話 特殊部隊の戦闘服

「今日からお前らには一週間特殊部隊研修生として、特殊部隊での訓練を受けてもらう。」


「特殊部隊って私達がですか!?」



凛が驚くのも無理はない。俺だって内心は物凄く驚いている。驚きのあまり蒼さんを見つめると、コンコンと後ろの扉がノックされる音がした。



「入れ。」



再び無愛想な声で入室を許可する。扉を開けて入ってきたのは寒冷迷彩で黒革コートを羽織っていた。特殊部隊隊員の黒崎雨音さん。雨音さんは蒼さんに向かってビシッと敬礼すると話し出す。



「準備が整いました。いつでも大丈夫です。」


「ああ。ありがとう。」



準備……?一体何のことだろうか。



「よし。では外山戮、如月凛。特殊部隊の二人と訓練室にて訓練開始だ。詳細は雨音に説明してもらうんだ。」


「「はいっ!」」



俺と凛は揃って返事をすると、特殊部隊の二人の誘導に従って再び廊下を歩き始めた。



「じゃあ、歩きながら説明するね。総司令から聞いた通り、二人は今日からウチらと同じ訓練をしてもらうことになったんだ。というか一緒にね。」


「私達が普段行っている訓練は普通の訓練所じゃできないんだ。だからこの部屋。」



先行していた一輝さんが立ち止まったのは鉄で出来た扉の前。掛札には“特殊部隊特別訓練室”との表示がしてあった。一輝さんが扉を開けるので一緒に中に入る。中の広さはさほど広いわけではない。部屋の中には四つのキングサイズのベッドが繋げて並べられていた。


足元には鉄で出来た箱。そして枕元には何やら配線が所狭しと敷き詰められている。



「じゃあ、訓練を始める前に……これに着替えてね。」



雨音さんが紙袋を二つずつ手渡した。中にはなんと一輝さん達特殊部隊が着用している寒冷迷彩の戦闘服と黒のボディアーマー。そしてブーツが入っている。



「これって……」


「ん?特殊部隊の戦闘服だよ。君たちがいつ入隊しても良いように。」


「総司令が用意していたんだ。さ、着替えておいで。更衣室はこっちね。」



着替えをするべく、更衣室の中に入る。そして学校指定のジャージを脱ぎ、特殊部隊のズボンに足を通した。ブーツにも足を通す。試しに脚を上げたり下ろしたりすると抵抗感が全く無く、体にフィットする。


次は戦闘服の上に袖を通した。こちらもなかなか動きやすい。その上からボディアーマーを装備した。


隣で着替えていた凛は既に着替えを終えていたようで、両腰と背中に分割した槍を背負っていた。それに倣い、腰に長刀を装備。







更衣室から出てくると笑顔で一輝さんは俺らを見ていた。



「なかなか似合うじゃないか。着心地はどうだい?」


「かなり良いですね。動きやすいです。」



凛の回答にうんうん。と頷いて満足したような表情の一輝さん。



「この戦闘服は特殊な素材でできているからね。物理的な攻撃は勿論、魔法による攻撃も軽いものならほとんど無効化するぞ。」


「まあ、それも限度があるけどね。ウチ、一度だけ破られたことあるから。」



かなりの強度を誇る戦闘服が破かれてしまうなんて一体どんな強力な魔獣と戦ったというのだろうか。特殊部隊の活躍は話に聞いていたが、これほどとは。



「そして、これね。」



一輝さんはトントンと親指で自分の黒いボディアーマーを示し、説明を始めた。



「これはただのボディーアーマーじゃないんだ。軍には一括して同じ物が支給されるけど、魔力を防ぐことができるのは知ってるね。」



軍が支給するボディアーマーは銃弾は当然だが、魔力による攻撃まで軽減出来て、それが戦闘員全員に支給されていた。勿論、DBSの生徒全員にも支給されている。物自体はかなりランクは低いが無いよりは百倍マシというもの。



「それでこのボディアーマーにしか付いていない機能なんだけど……ここにボタンがあるだろ?これを押すと……」



一輝さんがボディアーマーの左胸に付けられた特殊部隊階級章、その真ん中を押す。すると驚いたことに空中で金色の光で出来た魔法陣が展開された。一輝さんはその魔法陣の中に右腕を入れる。


少ししてから右腕を抜くと、なんとその右手にはそこに無かったはずのライフルが握られていた。



「こうやって物を収納したり、取り出したりすることができるんだ。重量による限度はあるけど。」


「結構便利なんだよねー。ウチは万が一のときのために予備の対物ライフルを入れてるよ。」



試しにと、雨音さんも同様に魔法陣を展開させる。そして現在、雨音さんが背負っているものと全く同じ対物ライフルを取り出した。


それをガシャっと音を立てて構える。背中に背負っているのも合わせ、対物ライフルだけで総重量は二十キロを超えているはずだ。一見華奢そうな体の何処にそんな力があるのだろうか。



「こんな感じでね。」


「なるほど……あの、雨音さんって力持ちですね。」



凛も同じことを思っていたみたいで不思議そうに聞いた。すると雨音さんはあー、と言うと説明を始める。



「このライフルにウチが自分で魔法を掛けてるんだ。重力魔法。」



なんと雨音さんは魔法を使うことができるらしい。重力魔法とは掛けた対象の物の重量を増やしたり、動きを鈍くしたりできる。


逆に自分自信に軽量化の魔法を掛けるととてつもないスピードで動けると聞いたことがある。しかし、自分自身が軽くなるため格闘などの物理攻撃の威力は低くなってしまうらしい。


そして、重力魔法は重量の増減を自分に影響を与えるかを自由に選択することができるらしい。


恐らく雨音さんはライフルに軽量化の魔法を掛けているのだろう。



「だから普通のライフル程度には軽いんだよね。大きさは流石にこれ以上小さく出来ないけど。」



そう言うと空中に浮かんだままの魔法陣に対物ライフルを収納した。そして背負っていた対物ライフルを外すと、ベッドの足元に置いてある鉄の箱に収納する。



「あの……武器をしまうんですか?」


「そ。君たちもこっちの箱に入れてね。」



雨音さんがもう一つの箱を指差した。その中は空だったので俺も腰から長刀は外して箱に入れ。凛もそれに続いて箱へと長槍を入れる。


箱からはケーブルが伸びていてベッドへと接続されていた。一体何の為に……



「入れ終わったね。じゃあ、訓練内容を説明します。大型の魔獣を倒す訓練です。四人チームでウチがバックアップ。みんなはフォワード。」


「訓練場所は仮想空間の中。専用の機械を装着して入ってもらうから。」



一輝さんたちがブーツを履いたままベッドに横たわる。そのまま手招きするので。同様にりんと一緒に同じベッドへと横たわった。



「この機械を両手首と両足首につけてね。」



雨音さんが差し出すそれはまるで心電図検査に使うものに似ていて、まるで洗濯バサミのようなものだ。始めて装着する俺たちにも簡単に装着することが出来た。その様子を見た雨音さんがもう一つの機械を渡してくる。金属で出来た首輪のようなもの。それをパチンと音をさせて首に止めれば準備完了。



「それじゃあ、機械のスイッチを入れるよ。戮、凛と手を繋いでおいてね。」



隣に寝ている凛の手を軽く握る。握った凛の手は汗ばんでいてどうやら緊張しているようだった。


その緊張を解すべく、凛の手を強めに握ってみる。すると緊張して強張っていた凛の手が緩んで力が抜けた。



―――良かった。リラックス出来たみたいだ。



「目を瞑って。私が合図をしたらゆっくりを目を開けてね。」


「「はい!」」



ウイーンと機械が起動する独特の音。その音を聞いた俺はそっと目を閉じた。

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