第三章 仮入隊

第15話 DB本部へ仮入隊

凛の異眼が発動してから特に変わった出来事もなく、一ヶ月が経過した。しかし、俺たち一年生は今、DBの本部の正門前まで整列をしている。その理由は昨日の帰りのホームルームまで遡ることになる。







「お前ら!よく聞け。」



突然の白波教官の凛とした声。何事かとクラス全員が一斉に白波教官の方を向いた。



「明日、お前らC棟一年十組にはDBの軍部に仮入隊してもらう。詳しいことはこのプリントに書いてある。今から配るぞ。」



次々とプリントを配っていく。一番後ろの俺まで行き渡るとプリントを眺める。内容は明日の集合時間に必要な持ち物。それに実施期間が記されていた。


日にちは明日から一週間。宿泊は軍の寮が貸し出されるらしい。仮入隊の詳細は軍隊訓練の体験、基礎体力の向上が目的となっているみたいだ。



「集合時間は明日の八時。教室内に集合だ。」



「ハイッ!」と異性の良い生徒たちの返事に頷くと教室を出ていく。これで今日のホームルームは終了。教官が出ていった教室は突然賑やかになる。会話の内容は仮入隊の話で持ち切りだった。



―――仮入隊……あの時、蒼さんが言っていた“五月に本部で”の意味はこれだったのか。



「ねえ、戮!仮入隊だよ!楽しみだね!」


「まあな。」



楽しみで仕方がない。入学試験の時に一輝さんは学校には俺より強い者はほとんど居ないと言った。それはつまり、軍には強い者が沢山居るという証明になるのでは無いだろうか。


明日の仮入隊が楽しみだ。きっとワクワクで今夜は眠れないだろう。






いよいよ、仮入隊当日。教室に集合した生徒たちは徒歩で学校からDB本部へと向かうことになった。と言っても距離はさほど遠い訳では無く、三十分ほど歩けば着くほどの短い距離だ。


DB本部にたどり着くと堅牢な建物が生徒たちを出迎えた。門にはライフル銃と自分のメイン武器を持った見張りが二人。


厳重体制となっている門をくぐり抜けていざ中に入ると、物凄く広大な敷地になっていた。さすが本部なだけあり、普段通う校舎の三倍ほどはあるだろう。



「整列!」



教官の一声で建物の入り口前に一斉に生徒が並ぶ。すると、建物から二人の女性が出てきた。


そのうち一人は既に面識があった。一人は特殊部隊の一輝さん。前回と同じく寒冷地仕様の迷彩服に黒い立派なボディアーマー。そして黒革のコートを羽織っていた。もう一人は初めて見る。


髪型は茶髪で短く服装はウッドランドの迷彩服に白革のコート。カーキ色のボディアーマー。ヘルメットは無し。服装からしてかなりの上官で有ることが見て取れる。




階級は階級章で簡単に判別できる。階級章の位置は将官以上が肩、兵長以上は襟、それ以下は腕に。戦闘服は階級関係なしに一括して上腕と胸にカーキ色の階級章がある。


デザインは陸上自衛隊が元々使っていた物の桜を星に変えて使用して居るが、基本は同じ。ただ、准将と少将の階級章が追加されている。


将官以上だと

一つの星に斜め線→准将

星が一つ→少将

陸将補の階級章→中将

陸将の階級章→大将

四つ星の上に斜め線→副総司令官

陸上幕僚長→総司令官


灰色の大将階級章の上にバツ印→特殊部隊


となっている。ちなみに白波教官の軍の肩には金色の星が一つ。白波教官は少将だ。


その他にも見分ける特徴がある。



佐官以下の階級は基本装の迷彩服にカーキのボディアーマーとなっているが、佐官以上は更にコートの着用が認められている。そして頭部を守るヘルメット除装画許されるのはかなりの実力を持った将官以上とされている。



 ―――ということは、この方は少なくとも将官以上!



「こんにちは。私はDBの中将最上モガミハヤテといいます。今日から一週間皆さんの訓練指導の担当をさせてもらうことになりました。よろしくお願いします!」



ビシッと敬礼をする最上中将。それに倣って生徒達も敬礼を返す。



「「よろしくお願いします!」」



全員揃って挨拶を返す。すると満足そうにニッコリと笑うと、列の一番後ろに目を向けた。一番後ろに居るには……白波教官か。



「いやー!流石、霧子担当の生徒さんは元気が良いねー!」


「お、おい!生徒たちの前で下の名前で呼ぶな!」



若干慌てたように講義する白波教官。しかし、最上中将は笑顔を崩さずに悪びれもなく笑う。



「あれー?霧子の名字ってなんだったかな……?」


「白波だ、白波。全く……頼むぞ。」



仕方ないな……と腕組をして体勢を戻す。この二人ってもしかして仲良し?



「はい!じゃあ、白波教官の生徒さんたちはこっちに着いてきて下さい。……あ、えっと外山さんと如月さんはこっちの人に着いていってね。」



最上中将は一輝さんを指差す。そして大勢の生徒を引き連れて建物の中に向かって歩き出した。取り残された俺と凛は一輝さんの方も向いた。一輝さんがそれに気がつくと、ニッと笑い口を開く。



「さてと、久しぶりだな。戮、凛。」


「お久しぶりです。一輝さん。」


「じゃあ、早速だけど私に着いてきてもらえるかな。」



一輝さんが建物の中に先導して入って行くのでその後に着いていく。


中には色々な扉があり、室内訓練所の数だけでも膨大な数を占めている。他には休憩室、食堂、仮眠室、シャワー室、更衣室等もちらほら。



「色々な部屋があるんですね。」


「うん。凄いでしょ。なんて言ったって本部だから。支部だったらこうは行かないだろうね。」



後を追いかけてどれくらいの時間が経っただろうか。ようやく最上階の廊下の端へと辿り着いた。突き当りに見えてくるのホア一つの簡素なドアだ。ドアの横にかかっている大きな掛札を見る。すると木彫りで“総司令官執務室”との表示がされていた。



「さ、着いたよ。総司令がお呼びだ。」



一言そう言うと、ドアをノックする。三秒後ぐらいに「入れ。」と無愛想な声が帰ってきた。一輝さんはドアを開くと俺らを招き入れる。中は思ったよりも広くて、大きな机が真ん中に置いてあった。


立派な椅子に座っていたのは総司令官の蒼さん。軍服を身に纏い、金の肩章が付いた黒革のコート。


以前会った時とは全く雰囲気が違う。隣には以前と同じ格好の詩音さんが立っていて、笑顔で俺らを迎えてくれた。



「総司令官。言われた通り、二人を連れてきましたが。」


「ああ、ご苦労。では本題を話そうか。今日からお前らには……」







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る