第14話 二人の刺客

修練所の入り口に立っていたのは二人組。そのうち一人はさっき出会ったばかりの四条紗雪。約二時間前ぐらいに俺が完膚なきまでにボコボコにした。そして、もう一人は入学試験の時に出会った長剣科の隊長、四条深雪だ。



―――同じ寮だったのか……最悪だ。



「ねえ、戮。どうする?」


「まあ、気にせず訓練でもするか。」



正直気にするなと言う方が無理があるが、仕方ないだろう。お互いに一礼して闘技台から降りようとする。



「待て!」



後ろから大きな声。いい加減聞き慣れた静止の声。面倒くさそうに後ろを振り返る。そして意図的に嫌そうな顔をし、紗雪に返事をした。



「……なんだよ。」


「立ち会いを申し込む。」


「つい、さっき俺にボコボコにされたのを忘れたのか?」



睨みながら答える。すると紗雪は隣に居た姉の肩に手を乗せて想像もしなかった一言を口にした。



「私だけでは無い。私達だ。私達四条姉妹はダブルスを申し込む。」




―――何だって!?



「ダブルス!?」



後ろで俺の代わりに驚いたような声を出す凛。しかし、驚愕の表情は一瞬で面白いものを見るかのような顔で槍の準備を始めた。



「お、おい。凛やるのか?」


「もちろん。苦手な戮以外の長剣を相手する良い機会だよ。」



凛の様子を見た四条姉妹は何故かニヤリと顔を見合わせて笑うと、腰からほぼ同時に長剣を抜いた。



「「はあっ!」」



そして二人同時に俺に向かって襲いかかってきた。左右から同時に長剣を振り下ろす。しかし、運が悪かった。今の俺は校舎内では無いので眼鏡をしていない。よって異眼の制限がない。


目に力を入れて両腕を硬化させるようにイメージした。すると、腕の感覚が鈍くなり、鋼鉄のように硬くなる。俺に向かって振り下ろされる二つの刃。しかし、刃は俺のことを一切点けることができずに、硬化された腕に受け止められた。


硬化の能力は堅田に使用した場合、鋼鉄を遥かに超える硬度に体表を変化させることができる。よって生半可な切れ味の武器なんかでは貫くことなんで夢のまた夢だ。


呆気に取られた二人。その隙をついて、次は足を硬化させて深雪の腹に思い切り蹴りを食らわせた。硬化の影響で鋼鉄のハンマーで殴りつけられたような衝撃が深雪を襲っただろう。


ゴキッと嫌な音がしたが、自業自得。


長剣を握ったまま勢いよく闘技台の縁に吹き飛ぶ深雪。それを見た紗雪が俺から距離を取ろうと足に力を入れた……しかし、


俺の相棒がそれを許さなかった。



「――私の事も忘れないでよね。」



横から石突での鳩尾への攻撃。うわ……痛そう。



「ナイス凛。」



必殺の一撃を食らった紗雪は深雪と同様に地面へと崩れ落ちた。凛はというと、槍を持ち直して姉妹のことを見下ろして睨みつける。そしてゆっくりと声を出した。



「再戦しますか?……次は不意打ち無しで。」



普通の声のトーンで凛は再戦するのか選択を迫った。声と表情は普通でもものすごい威圧感が体から滲み出ている。下から凛を見上げていた深雪の表情が恐怖に凍りつく。何事かと思い、凛の顔を覗くとすぐに原因が分かった。


凛の眼が緑に光っている。異眼の証だ。



―――まさか怒っているのか?



「当たり前だ!もう一度……」


「ま、待て!」



提案と受けようとする紗雪だったが怯えきった深雪の声に必死さに静止され、ピタリと言葉を止める。



「姉さん!何故!」


「ダメ、今の私達ではまともにやったとしても手も足も出ない。出直そう。」



長剣を鞘に収め、立ち上がると深雪は修練所から出ようと歩き始めた。そんな姉の後を俺を一睨みしたあとにそそくさと追いかけていった。二人を見届けた後、なんとなしに凛に異眼のことを聞いてみることにした。




「今。異眼発動してただろ?わざとか?」


「え?私異眼発動させてないよ?」



驚きの言葉を口にする。見間違いと言う事は無いだろう。なぜなら、さっきの深雪の顔。あの表情は恐らく入学試験のときの異眼を思い出してるのだろう。しかし不思議なことに本人んに異眼が発動していたという自覚は無いらしい。



「いや、出てたって。はっきりと。」


「本当に!?私全く意識してなかったよー。」



ここまで否定すると言うことは本当に凛の意識関係なしに発動していたらしい。まさか、霊獣が覚醒し始めてるのか?



「なあ、凛は霊獣の声はまだ聞こえないのか?」


「うん。まだ聞こえないよ?」


「そうか……」




それだと霊獣の線はないのか……わからない。異眼には不思議な事だらけだ。


とりあえず、長刀を鞘に収めて今度こそ闘技台の上から降りる。凛も槍を分解して背中と腰のホルスターに収めた。



「さてと。お部屋戻る?」


「そうだな。もうそろそろご飯作らなくちゃいけないし。」


「じゃあ、戻ろうかー!」



凛は俺の手を握って、意気揚々とエレベーターに向かって歩き出す。凛の様子を見ていると異眼による影響は無いようだ。






この日から一週間。勝手に凛の異眼は発動することは無かった。

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