第12話 オリエンテーション
「外山!前に出ろ!」
突然名前を呼ばれた俺は生徒たちが並ぶ列の一番後ろから白波教官の目の前に出た。
今はグラウンドにジャージの姿にプロテクターを装備した生徒が集合し、組手のオリエンテーションを行っている……はずなのだが。目の前には腰から軍刀を抜いた白波教官が居てものすごい威圧感を放っている。
「お前も武器を抜け。」
教官から指示があったのなら仕方がない。腰の鞘から長刀を抜く。太陽の光に刀身が反射してギラリと輝いた。その様子を見届けた白波教官は中段に軍刀を構え、俺を睨みつけた。
「さあ、構えろ。好きにかかってこい。」
これは一体どういうことなのか。状況が把握できない。しかし、かかってこいと言うならば行くしか選択肢は無いだろう。
「ならば遠慮なく行きますよ。」
刀身が地面に触れるか触れないかの下段で構え、後ろに体重を掛けて地面を思い切り蹴った。白波教官の首元めがけて斬り上げを放つ。勢いよく風を切って刃が襲いかかる。少し目を見開いて驚いた様子の白波教官。予想外の攻撃だったのか、それとも思ったよりも早かったのか。
心理は読めないが、一瞬の隙ができた。このまま振り切れば一本取れるはずだ。……と思われたはずだったが、白波教官はとても見きれないスピードで俺の長刀を弾いた。
体が後ろに大きく弾かれる。それほどに凄まじい勢いだった。弾かれた様子を確認した白波教官はそのまま胴体を横薙ぎに斬るつもりらしい。攻撃を少しだけ身を引いてギリギリに位置で躱す。元々胴体があった場所を軍刀の刃が通り過ぎて行った。
「はあっ!」
気合いを発しながら斬りかかる。俺の次の狙いは胸元。しかし、それを読まれたのか防御姿勢を取られた。
―――それなら、これでどうだ?
斬りかかるのを止め、右腕を下から蹴り上げる。白波教官の腕は軍刀から離れて上に打ち上げられた。腕があった部分はがら空き。その部分に長刀の柄を思い切り打ち付け、体勢を崩す。勢いに任せて体勢を崩したままの白波教官に斬りかかる。しかし、何か様子がおかしい。
目が、水色に光っていた。
―――まさか教官も異眼持ち!?
異眼で対抗する手は今使えない。眼鏡で異眼が制限されているから。白波教官が何かをする前に全身の力を長刀に伝えて、思い切り振りきろうとした。しかし、長刀は見えない何かに’弾かれて体が後ろに持っていかれる。
一体何が起きているんだ。まるで見えない刃がこちらに向かって飛んできているような気分にさせられる。
―――じっくり相手の攻撃を見ろ!そうすればきっと。
目を凝らして白波教官の方を見る。視線を追うと、視線を合わせたところに小さい斬撃が来るのがわかった。試しに視線を合わせて、長刀の刃を向けてガード姿勢を取る。すると、キンと軽い金属音がなって斬撃を弾き返すことができた。結構厄介な能力。でも、ここまで使い勝手が良いならデメリットもあるはずだ。
「どうした。何も仕掛けてこないのか?」
その一言と共に一定の感覚で見えない刃が飛んでくる。
―――一定の感覚?
試しに攻撃のタイミングを計ってみることにする。一、二、一、二か。一で溜め、二で発する。仕組みが少しずつ分かってきた。
タイミングを計り、一で左足を大きく踏み出して右前に躍り出る。そして、首元に飛んできた刃を首を横に倒して少ない動作で躱した。
―――ここで溜めの時間がある!
この状態で俺は今一番早く出る技は左切り上げしかない。なるべくスピードを重視して長刀を振り上げた。絶対に避けられない自信があった。しかし、片膝を付いていた白波教官の手が腰に伸びる。この状態から一体何をする気なのか。
手の中で光る何か。それが必要最低限の動作で打ち出された。鋼鉄製の鋭く尖った大きめの針。この軌道では首に命中して傷を追うことは間違い無い。止むを得ず長刀で針を打払った。
これで俺に残された攻撃手段はない。追撃を目を閉じて待つ。……だが、来るはずの追撃がいつまで経っても来ない。
「よし。ここまでだ。」
想像してなかった白波教官の一言。軍刀を鞘に収めて腕組みをする。
―――助かった。
「思ったよりも体の捌き、技のキレが良い。課題は連続技の練習だな。一撃で決めようとするから、振り切った後の体勢が不安定になる。」
この一瞬だけで長所や短所を把握したのか。さすが、教官の立場にいるだけの
ことはあるのか。
「ありがとうございました。」
「ああ。列に戻っても良いぞ。」
長刀を収めて一礼し、列の後ろに戻る。白波教官は生徒達に向き直ると説明を再開した。
「組手のオリエンテーションは以上だ。次は体力測定だ。」
指示されたとおりに体力測定を行うことになった。
握力測定、50m走、ハンドボール投げ、長座体前屈等一般的な体力テストに加えて、視力検査、聴力検査等認識能力の測定などもざっと行った。後は教官達との戦闘能力測定。俺は既にオリエンテーションで済ませているため、免除。
問題は凛だった。凛は戦闘が大好きなこともあって張り切っていた。そのせいもあってか、大振りで教官に襲いかかった為にあっという間に弱点をさらけ出してしまった。
―――さっき言ったばかりなのに。
「いやー!やられちゃったよー。」
「当たり前だ。あんなに大振りで……らしくないぞ?」
先ほどの試合の欠点を指摘すると、拗ねたような目で俺を見つめる。
「だって……さっきの戮の試合見てたらあまりにも楽しそうで、張り切っちゃって。」
「まあ、それなら仕方がないよな。これから気をつけろよ?」
「うん。分かってる……」
諭すように言ったが失敗だったか。沈んだ様子で膝を抱えて座ったまま、顔を膝に埋めてしまった。どうやったら機嫌が治るのか……少し思いつきだがやってみる価値はある。
胡座で座っていた俺は膝を抱えて座り直して凛との距離を詰めた。そして体と体の距離を詰めた。そして体を体を触れ合わせる。おまけに周りから見えないように凛の腰に手を回して更に密着。
「ちょっと戮!?」
顔を真っ赤にして俺を見つめる凛。これで機嫌は治ったかな。
「やっぱり、凛とくっついてると落ち着く。」
「もう……戮ったら。ねえ、後で修練所行こうね。」
「ああ、ちゃんと付き合うから大丈夫だよ。」
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