第11話 自己紹介
目覚ましの音が強制的に俺を叩き起こした。どうにか意思力を総動員して布団から抜け出すと洗面所に向かう。
水道の蛇口を捻って水を出す。そして眠気を取るためにそれを一気に顔に浴びせた。その結果、かなりの冷気と共に一瞬で眠気を頭の中から追い出すことに成功させる。
「んー!」
そして大きく伸びをした。さて、準備するか。
下着を取り替えて、制服を着用する。そして腰に刀専用のホルスターを装備して刀を固定。壁に掛けてある時計を見ると、凛との約束の時間まで約十五分前。その間に朝食を済ませてしまおう。
簡単な食事が済んで、約束の時間まで後五分。凛を待たせるのも悪いので部屋から出ることにした。
部屋の扉を開けると凛が既に廊下に居た。手すりに体を預けて中庭を見下ろしている。
やはり凛はかなりの美人だ。こんな日常風景でも絵になる。ずっと見ていたい気持ちもあるが、凛に声を掛けた。
「凛。」
「り、戮!?随分早いんだね。」
一瞬、凛の声が裏返った。明らかに動揺しているのかわかる。
―――もしかして何かあったのかな。
「どうした?何かあったのか?」
「い、いや……なんか昨日のことで変に意識しちゃって。」
「あ……なるほど。」
凛は昨日から恋人だ。今まで幼馴染だった凛が恋人……変な感じだが、嬉しさの方が勝っている。
「じゃあ行こうか。」
せめて恋人らしい雰囲気を出す為に凛に手を差し伸べる。驚いたように俺の顔を見る凛だったが、顔を赤くしてその手を握った。
通学路を歩いている最中に色々な武器を持った生徒が街中を歩いている。昨日は入学式だったため全ての生徒が通学するとなればなかなか圧巻の光景だ。この光景は学園都市しか見られないので他の街から来た人からすればかなり面白い光景かもしれない。
「そういえば今日って自己紹介の日だったよね。戮は言うこと決めた?」
「まだ、かな。」
自己紹介と言っても何を言ったら良いのか全くわからない。教官が指定してくれればまだ問題は無いが、教官性格からしてその可能性は低いだろう。
「そういう凛は決めたのか?」
「なんとなくだけどね。」
「へー!どんな?」
「とりあえず。流派と名前。それぐらいかな?」
項目は俺が想像していた内容よりもかなり少なかった。凛が考えた項目の中で俺が言えるのは名前のみというあまりにも寂しすぎる自己紹介になってしまうではないか。
「なんだよ。真似しようと思ってたのにさー。」
「なんかごめんね?」
「ま、俺もそれでいいかな。流派は我流って言っておくよ。これで二項目になるだろ。」
学校に着き、自分の席に座って武器を床に置く。そして、背負っていたリュックを机の横に引っ掛けた。
今日は自己紹介をした後に訓練のオリエンテーションをするらしい。学校指定のジャージは自己紹介の時に受け取るみたいだ。
ガラッと扉が開いて大きなダンボールを抱えた教官が入ってくる。その様子に慌てて生徒たちが自分の席に戻っていた。
「起立!礼!」
出席番号一番生徒の号令と同時にみんなが揃って礼をする。そして、教官の号令で一斉に席に座った。
「今日の一限目は自己紹介をしてもらう。まず最初に氏名、次に流派、そして今後の目標だ。」
不安は全くの杞憂だったみたいで、教官が言うことを指定してくれた。出席番号順に始めるのでまず、一番の生徒が自己紹介を始める。
順調に自己紹介が進み、次はいよいよ凛の番。俺の方をチラッと見て、軽く笑顔を作ると、教卓へと歩いていく。
「私の名前は如月凛です。流派は虎爪流、目標はDBの特殊部隊に入ることです。以上。」
凛の自己紹介が終わると辺りがざわめく。当然だろう。流派がかの有名な虎爪流なだけで無く、特殊部隊に入ることと言い放ったのだから。
自分のジャージと外履きが入ったカバンを受け取った凛は、それを抱えて凛が戻ってくる。凛と視線を合わせると口を動かし、無言で『お疲れ様。』と労いの言葉を掛けた。凛はそれにウインクで応える。
しばらくして次は俺の番。正直順番は来て欲しくなかった。自己紹介をするのが嫌というわけでは決して無く、教官の近くに行くのが只々嫌だった。昨日の件で目を付けられているだろうから気が重い。
わざとゆっくりと立ち上がって、教卓へと進んでいく。そして教卓の前にたどり着くと目の目の生徒たちに向かって自己紹介を始める。
「俺……いや、私の名前は外山戮。流派は無く、我流です。目標は特殊部隊に入ること、そして現・生徒隊長を倒すことです。以上。」
自己紹介が終わってなるべく教官と目を合わせずにカバンを受け取った。席に付くとどっと疲れが襲ってきた。
全員の自己紹介が終わり、休憩時間となった。隣の席の凛が何故かニヤニヤして俺の方を見ている。
「いやー!大きく出たね、戮。」
「な、何がだよ。」
「生徒隊長を倒したいんでしょ?」
「まあな、目標でもあるから。」
姉を超える。これが俺の今の目標。今は無理でもいつか絶対に超えてみせると決心している。
「って、私もお姉ちゃんより強くなりたいんだけどねー。」
おどけたように言ってみせる凛。しかし、眼差しは真剣だった。
「でも、力の差ってあんまり無いんじゃないか?俺と違って。」
「何言ってるのさー!お姉ちゃんは看板の継承者だよ?」
「それは桜姉ちゃんが先に生まれたからであってわかんないぞ?まあ、凛は隙が多い気もするけど……」
冗談混じりに意見を言う。すると、凛もここぞとばかりに意見する。
「それを言ったら戮は防御が甘いんじゃないかなー?まあ、それに余る攻撃力があるけどね。」
「ああ。わかってる。防御にも磨きを掛けないとダメだな……一撃必殺というわけにもいかないだろうし。」
「うんうん。私も隙をなくすように修行しないと……あ、放課後に寮の修練所に行こう?組み手しよ!」
嬉しそうな顔で語りかけてくる凛。凛との組手は中学校の卒業以来か。
「それはいいな。……じゃ、とりあえず今日の授業を頑張らないとな。」
「」
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