第10話 夜空の下の告白
「ふー……」
湯船に全身を浸からせると心地よい湯加減のおかげで全身が弛緩するのがわかる。まるで今日一日の疲れが一気に吹き飛ぶようだ。
一足遅れて凛が隣に入ってくる。髪が長い分、時間がかかったらしい。
「あったかいねー、気持ち良い。」
「うん。広い風呂が久しぶりだから開放感があるな。」
ふと空を見上げると星空が瞬いていた。とても幻想的。薄暗い露天風呂のおかげなのか、その様子はまるでプラネタリウムのようで自然と心が奪われてしまう。
「凛、上見てみろよ。綺麗だぞ。」
「ホントだ……綺麗。」
しばらくの間、無言で星空を見上げていた。すると何かが手に触れる。手元を見てみると、凛が自らの手を俺の手に絡めていた。
そのことがわかると何故か無性に恥ずかしいと言うか、不覚にもドキドキしてしまう。
「どうしたの……?戮。」
どうやら思ったよりも長い間絡めていた手をも見つめてしまっていたらしい。不思議そうに俺のことを見つめる凛を無駄に意識してしまう。よくわからない感情に支配されていた。
「あっ、ごめんね。手、握っちゃった。」
パッと俺の手から、自分の手を離す凛。
感覚が遠ざかって行くのを感じると無性に寂しさを感じ、もう一度凛の手を取った。
―――もう少しだけこうしていたい。
「少しだけ握っていてもいいか?」
恐る恐る凛に聞くと、一瞬だけ驚いた顔を見せたがニコッと柔らかい笑顔を作る。
「うん。戮、好き。」
「……俺も。」
俺の返答が予想外だったのか凛はとても驚いたように目を見開いた。その凛の様子が面白くてつい吹き出すと、少し拗ねたような口調で凛に言う。
「……なんだよ、なんか変だったか?」
「ううん。両思いだなって。」
嬉しそうにニコニコしながら凛は話す。そしてゆっくりと俺の体を抱きしめた。いきなり凛の柔らかい凛の体が触れた。驚きのあまり、一瞬体がビクッと反応してしまったが、凛に全てを委ねるように寄り添うと俺も凛の背中に腕を回した。
幸福感が二人を支配した。
▼△▼△
洗面器を持って女性二人が共に脱衣所を出た。
黒髪ショートの女性は生徒隊長の外山礼央。外山戮の姉だ。そして茶髪のもう一人の女性、彼女は如月桜。如月凛の姉。
「今日も疲れたねー。」
ほんわかと柔らかく話し始める桜。
「俺なんか入学式の挨拶だったんだぞ。めんどくさい。」
「あれ?誰か入ってる?」
桜が浴槽の方に視線をやると、浴槽の中で二人の生徒が抱き合っているのが見える。
―――もしかしてお邪魔だったかな?
「アイツらってもしかして……」
すると。何かに気がついた礼央がじっくりと目を凝らす。そして、なんと二人に向かって歩き出した。
「ちょっと礼央!」
阻止しようと声を掛けたが、聞こえていないようで二人に向かって歩き出した。そんな礼央を止めるべく桜自身も浴槽の二人に向かって歩き出す。
礼央は抱き合っている二人の後ろに立ち。確信を持つと声を掛ける。
「やっぱり。久しぶりだな、戮。」
「ね、姉ちゃん!?」
▼△▼△
突然、後ろから自分の姉が現れて驚きを隠せない。その横で凛も驚きのあまり目を見開いていた。
「礼央、お邪魔だって!……ってあれ?凛?」
「お姉ちゃん!?」
「へえー、まさか二人がなぁ……」
ニヤニヤしながらからかうように俺らを見つめる姉。
「ね、姉ちゃんだって、桜姉ちゃんと仲良いじゃんか!」
「そうだよ!礼央お姉ちゃんだって私達と一緒だよ!」
この勢いに物怖じしたのか、一歩後ろに下がる姉。
「ほーら。礼央、二人をからかうのやめなよー?私達だって人のこと言えないんだから。」
「はいはい、わかったよ。」
姉は拗ねたように洗い場に向かう。桜姉ちゃんは俺たちに別れを告げると後を追いかけていった。
「姉ちゃん達同じ寮だったんだな。」
「そうだね。……私達のしてた事、どこから見られてたんだろう。」
「……わかんない。でも桜姉ちゃん人の事言えないって言ってたぞ。」
「それって……」
考えを巡らせる様子の凛だったが、答えは出ないようだったみたいで、勢いよく湯船が立ち上がる。
「私はもう上がるけど戮はどうする?」
「じゃあ、俺も上がろうかな。」
ゆっくりと湯船から立ち上がる。すると、長湯しすぎたのかフラッとよろけてしまった。慌ててそれを支えようとする凛。ありがたいな、そんな事を思っていると……俺の胸に凛が手の平をあてがう。そして、二、三度感触を確かめるように手を動かした。
「えっ……!?」
恐る恐るといった様子で俺の顔を見る凛。恥ずかしさのあまり、顔を赤くなるのを感じながら凛を睨んでしまった。
「――っ!凛の変態!」
「ち、違うよ。不可抗力だよ!」
慌てて胸から手を離す凛。俺は素早く三歩ほど凛から距離を置いた。
「凛怖い……」
「私だって怖いよ!なんで戮と居たらこんなにエッチなハプニングばっかり起きるの!?」
「わざとじゃなかったのか!?」
「違うよ!」
ガヤガヤ揉めていると何かを察知したのか、遠くから姉と桜姉ちゃんがやってくる。
「どうしたってんだ一体。」
半分呆れたように姉が言う。まるで幼少期を思い出しているかのように。
「「だって凛(戮)が!」」
示し合わせていないのに凛と声がハモってしまった。
「……仲良さそうで何よりだよ。」
「何を揉めてたの?」
落ち着いた声で桜姉ちゃんが俺をなだめる。そんな桜姉ちゃんに訴えかけるように言う。
「凛がエッチな事ばかりしてくるんだよ。」
「え!?凛何やってんの!?」
驚いたように凛を見る桜姉ちゃん。その様子に慌てた凛が違う違う、と両手を前に出しながら慌てて否定した。
「ご、誤解だよ!戮だって私の恥ずかしい場所見たでしょ!?」
「戮!お前何やってんだよ!」
「ち、違う!それは凛が勝手に転んだんだ!」
「……でも少し位、いいじゃねえか。だってお前ら付き合ってるんだろ?」
「「え!?」」
突然姉が言い放ったセリフにまたしても俺らのセリフが同調した。その様子に何かおかしなこと言ったかな、と言いたそうに首を傾げる。
「ち、違うよ!まだ私達付き合って無いよ!」
「あれ?そうなのか。俺はてっきり……」
「全く礼央ったら早とちりなんだから……でも凛も今、『まだ』って言ったね。」
ニコニコしながら凛の方を見た桜姉ちゃん。すると自分が言った言葉を思い出したのか顔を赤くし始める。
「あー、凛。顔真っ赤。」
「もう、お姉ちゃんのバカ!」
「でも、いいね。初々しくて。」
まるで昔のことを思い出しているかのように目を瞑りながら物思いにふける桜姉ちゃん。そんな様子を見た姉が桜姉ちゃんの頭を撫で始めた。そして桜姉ちゃんが姉の胸に寄り添う。
「あれ?これって……?」
何か違和感を感じて二人のことをじっくり見つめてしまった。やがて自分たちの方を見ている俺達に気がついたのか、姉が口を開く。
「どうした?」
「いや……桜姉ちゃんと随分仲良いなって。」
「あれ?言ってなかったか?俺ら付き合ってるんだよ。」
―――え、姉ちゃんが桜姉ちゃんと?
「「ええーっ!」」
今回三度目のハモリ。今日は驚くことばかりで感情メーターが振り切れそうだ。まさか自分の姉と凛の姉が付き合っているなんて微塵も思っていなかった。
「お姉ちゃん付き合ってるの!?礼央お姉ちゃんと!?」
「そうだよー?いいでしょー、そんなイケメンが彼女だよ?」
どこか自慢げに言う桜姉ちゃん。
当人の凛は口をパクパクさせて二人のことを交互に見て驚きが隠せない様子。でも俺は桜姉ちゃんのことをかなりの美人だと思っている。もちろん凛のことも。
「じゃあ、私も戮と付き合う!」
―――ちょっと何言ってんですか凛さん。
「おっ?どさくさにまぎれて告白ですか?」
茶化したように言う。こ、告白って。
凛の顔を見てみると、恥ずかしかったのか顔を真っ赤にしていた。よっぽど勇気を振り絞ってくれたのだろう、そんな凛がとても愛おしく感じる。その勇気に応えるように俺も勇気を出す。意を決して凛の肩に手を置いた。そして……
「凛。俺と付き合って下さい。」
凛の目を見て答えを返した。すると凛は嬉しそうな表情をして俺の体を抱きしめる。
「おー!これで凛もイケメン彼女ゲットかな?」
「戮も美人な彼女ゲットおめでとう。」
口々に祝いの言葉を言い始める。そんな二人の法を照れたように見る凛。
今から凛が彼女なのか。意識してはいなかったけど、よく考えてみれば俺は昔から凛が好きだった。凛の一挙一動にドキドキしていたんだ。エッチなハプニングはまた別だが。
「えへへ、ありがとう。お姉ちゃん。」
「うん。幸せにしてもらうんだよー?」
改めて意識してみるとやっぱり凛は美人だ。ここまで綺麗な人が自分なんかの彼女で良いのかな。
「戮、絶対幸せにしろよ。」
俺の肩をポンと叩き、ウインクをする姉。
―――もちろんだ。俺は絶対に凛を幸せにする。
風呂から上がった俺と凛は部屋の前で明日一緒に学校へ行くことを約束した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます