第7話 下校と魔獣

何故姉ちゃんが壇上にいるのか。


まさか全校生徒の頂点が姉だとは微塵も思っていなかった。いつの間にここまで差が開いたのだろう。悔しさのあまり思わず制服のズボンを握り締めてしまう。壇上で何かを話す姉だったが、内容は全くと言ってもいいほど頭に入ってこなかった。





そのままいつの間にか式が終わって退場することになり、出席番号順に整列をして教室に戻る。自分の席に着きホッと一息つく。これで初日は終了だ。



「ねえ、戮。この後どうする?」



隣の席の凛から話しかけてくる。


この後はとりあえず契約を済ませてある寮の部屋に行かねばならないが、凛が言ってるのはきっとその後の話だと思われる。



「凛はどうしたい?」


「うーん。寮の近所でも回ってどんなお店があるのか知りたいね。」


「確かにいきなり地理がわからない状態で遠くに行くのはかなり危険だしな。」



学園都市と言う名は伊達ではなく、電車が走っているレベルの広さを誇っている。二人とも地理にはあまり強くないため、遠くに行けば二度と戻ってこられないような気さえしてしまう。



「うん。門限までに帰ってこられないかもしれないよー?」


「それは困るな……」



寮の申し込み用のパンフレットを事前に見た限りでは門限を過ぎたり、規則を破った生徒にはかなり厳しい懲罰が与えられるとか。どんなものかは流石に記されていなかったが、きっと生易しいものでは無いだろう。



「ちょっとずつ回っていこうか。」


「うん。そうしよう。」






ついに放課後になった。結局あの後は特に授業もあるわけではなく、生徒手帳を受け取っておしまいだ。自己紹介は明日のオリエンテーションも兼ねてやるらしい。


下校するために自分の武器と荷物を持って廊下に出る。するとやはり他の生徒も下校するようで既に大勢の生徒で廊下は埋め尽くされていた。その隙間をなんとかくぐり抜けて帰り道へと歩く。



「寮の周りはどんなお店があるのかな?」


「雑貨屋なら下見のときに見かけたよ。凛が好きそうなの。」


「本当!?じゃあ、一緒に見に行こうね!」



パッと明るい顔になった凛。その様子を見ていると何故か嬉しくなってくる。


下見も兼ねて辺りを散策しながらブラブラと街中を歩いた。ガイドブックに乗っている通り、色々なお店が見えてきた。


数々の店の横を通り過ぎると、寮が目の前に見えてくる。その隣にも同じような形の十階建てのマンションがいくつも並んでいた。マンションの形状は二つのマンションがくっついたような形をしていてちょっと面白い。確か結合している屋上は共同の露天風呂になっていたはずだ。



「凛はどの寮?」


「私は……E棟の506号室だね。戮は?」


凛は胸ポケットに入っていた生徒手帳を確認しながら言う。俺も胸ポケットから生徒手帳を取り出して眺める。生徒手帳の一番後ろには身分証が挟まっていて自分の氏名、住所、生年月日が書かれていた。



「あ、俺もE棟の505号室だ。」


「嘘!?ここでも一緒だ!やったね!」



飛び上がって嬉しそうな凛。正直俺も飛び上がるほど嬉しかった。



―――ここで離れるなんてあんまりだ。



「じゃあとりあえず自分の部屋に荷物を置いたらドアの前に集合ね!」


「わかった。そんじゃ、後でな。」



凛にそう告げると寮のドアを開けて中に入った。内装はかなりきれいで新築のよう。中はそこそこ広いみたいでワンルームにしては広い。おまけにシャワーとトイレは別々。しかも小さな浴槽までついている。


とりあえずベッドの上にかばんを置いて、必要最低限の物をポケットに突っ込んで長刀は下げたまま外に出た。



「あー!おかえりー。戮。」


「外に出てきたのにおかえりは無いだろ?」



苦笑いしながらそういうとエレベーターに向かって歩き出した。その横を凛がついてきて同時にエレベーターへ乗る。



「戮は今日の晩ごはんどうするの?」


「あー……、コンビニで何か買ってこようかなって。」



今住んでいる寮は食事は付いていない。食事付きも選択できたが、無しのほうが安上がりなのでそっちを選んだ。今思えば毎回食事のことを考えなくても済むから食事ありでも良かったかななんて思ったりもするけど。



「ちゃんと食べないと体に悪いよ?」


「わかってるって。バランス位考えるさ。」



他愛も無い話をしていると一階に着いたようでドアが開いた。外に出ると日は少し傾き始めてたが、あまり暗くはなっていないようだ。



「さてと!色々探索するか!」


「ああ!」



意気揚々と俺の前を歩く凛。機嫌が良く、足取りが軽く見える。そんな様子を見ていると自然と頬が緩む。楽しそうで何よりだ。


しばらく凛と歩いていると、突然破裂音が鳴り響いた。思わず空を見上げると、前方に赤い狼煙が空に向かって上がっている。



―――あれは一体……?



凛と無言で顔を見合わせると、大急ぎで狼煙の方へと走っていった。






―――狼煙の位置はこの辺りだったはずだ。



打ち上げられたと思われる位置に到達すると、青い毛皮の二本角を生やした虎のような魔獣の姿と一人の短剣使いの生徒が戦闘を繰り広げていた。間合いを取り、魔獣の動きを良く観察しながら的確に攻撃を叩き込んでいく。


戦闘方法としてはセオリーに従っていて間違っては居ないが、体格の差もありいくらか不利のようだ。そもそも魔獣を相手するのは一人では無理がある。対魔獣戦闘は三人以上で行うのが基本。


もしかしてさっきの狼煙は救援信号だったのかな。遠くから様子を伺っていると、戦闘中の生徒がこちらに気がついたようで大声で話しかけてくる。



「君たち!少し手を貸してくれない?」


「わかりました!」



腰の長刀を抜いて、凛と共に魔獣へと駆けつける。凛の槍は分割式になっているため、組み立てが完了するまでは俺が注意を引き付けねばならない。注意を引くためわざとに魔獣の足を少し切り裂いた。すると、瞳を金に光らせながら俺に向かって駆け寄ってきた。


それを確認すると、正面を向いて刃を横にして魔獣の攻撃を受け止める姿勢を取る。



「来い!」


魔獣は両手の爪を掲げ、風を切り裂きながら一気に振り下ろしてきた。すると魔獣の爪が刃に直撃し、ビリビリと振動が伝わってくる。


思わず長刀から手が離れそうになるが、それを気合で堪えて攻撃を弾いた。体勢が崩れた魔獣はフラフラと後退するが、休む暇を与えないように地面を蹴って魔獣の前に躍り出る。



「はあっ!」



そして、後退した魔獣の胸に上から下に向かって思い切り袈裟斬りを叩き込んだ。攻撃は上手くいったようで、胸元の傷口から魔獣の生命であり、魔力の源でもある黒い塵が吹き出す。それを見届けると更に追撃で体を回転させる勢いで返しの刃を左から右に向かって胸に叩き込む。丁度十字を描くように傷が刻まれた。


衝撃と痛みで悲鳴を上げて仰け反る魔獣。仰け反ったのを確認できると凛に合図を送る。



「いいぞ、凛!」


「了解!」



邪魔をしないように右方向へバックステップをすると、凛が魔獣の前へ出てくる。既に槍の組み立てが完了しているようで穂先には緑色の淡い光が帯びていた。その槍をピタリと構えると連続攻撃が始まる。何回か見たことがある技だ。


虎爪流の連続技【五月雨サミダレ】。怒涛の十五連撃。



突き技の雨が魔獣に降り注ぐ。みるみる内に魔獣が弱っていくのがわかる。そんな魔獣を見て止めを刺そうと凛が体を捻る。その瞬間魔獣は最後の力を振り絞って上空に腕を振り上げた。



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