第二章 学校生活
第5話 初めての登校日
俺は今、真新しい制服に身を包んで入学式が行われる学園に向かっていた。
制服のデザインは紺のブレザーにワイシャツ、DBの刺繍が入った赤のネクタイ。そしてスラックスか、スカートが選択することができる。
俺は動きやすさを重視してスラックスにすることにした。姉もスラックスだという理由もあったが。
腰に愛刀を下げて通学路を歩いていく。ある曲がり角を通り過ぎた瞬間、こちらに向かって走ってくる足音が聞こえてきた。
「おはよ!戮!」
凛らしき声が聞こえたと思ったその時、尻にビリっと衝撃が走る。思わず尻を抑えて後ろを振り返るととても眩しい笑顔で凛が後ろに立っていた。
「痛いな!なんで毎回尻叩くんだよ!」
「なんかいい形してるから?」
そんな馬鹿らしい回答をする凛は、俺と同様にDBの制服を身に纏っていた。唯一の違いはスラックスでは無く、スカートを履いているところ。
「この変態!」
「あはは!じゃあ行こうか?」
「う、うん。」
クルッと体の向きを反転させて学園に向かって歩き出した。学園はここからそう遠くないが、この通学路を通るのは今日で最後だ。
「あ、そういえばなんで眼鏡してるの?」
「なんか合格通知と一緒に送られて来たんだよね。」
俺は今、眼鏡を着用している。合格通知の封筒の中のメガネケースにこれが入っていた。
説明書によると、掛けている間全ての異眼の能力を抑え込むことができるようだ。
姉のように能力を使うことを禁じられこそしていないが、学校生活では念の為に掛けているようにと指示があった。
「その眼鏡、礼央お姉ちゃんもしていたよね。」
「姉ちゃんは憑いている霊獣が特別だから……これで抑え込むように言われてるんだって。」
姉の霊獣は古の龍王と言われている存在で、ガード不能の蒼い焔を扱う。それ以外にも体の一部を龍のような異形の形に変化させることができ、攻防一体のスタイルで戦うことができる。
しかし、姉は昔からこの霊獣と相性が悪く突然暴走することが多かった。暴走したときの被害が大きく、とてもじゃないが手に負えないので異眼を抑えられている。
「じゃあ戮も?」
凛の疑念も当然だ。一輝さんに霊獣の力を使いこなせていると言われた割には少し慎重すぎる措置ではないか。やっぱり万が一暴走することを考えて念には念を入れているのだろう。
「そうみたい。」
「私もじゃあ“声”が聞こえるようになったら掛けなくちゃいけないのかな?」
「桜姉ちゃん眼鏡してたっけ?」
「掛けてなかった……と思う。でも、結局一年ぐらい会ってないから今どうなっているかはわかんないな。」
俺と凛は一年程お互いの姉と会っていない。何故なら学園に入学した瞬間から生徒は全員学生寮に入る決まりになっているから。俺がこの眼鏡のことを知っていたのは姉が直接電話で教えてくれたからである。
「でも俺らも姉ちゃん達を同じく寮に入るから。そのうち会えるよ。」
「そうだねー。楽しみだな!」
「俺は手合わせするのが本当に楽しみかな。だって寮の地下には修練所があるんだろ?どんな設備なのかな?」
「本当に戮は訓練が好きだよね。試験のときはあんなに自身なさげだったのに。」
「まあね。でもこの学園にはまだ強い【生徒隊長】がいるんだろ?」
生徒隊長とは一般的な学校の生徒会長と役目はほとんど同じ。しかし、この学園では選挙は存在せず全て立ち会いの実力で決定される。ざっくり言えばこの学校の全ての学科の生徒の中で最も強い存在。それが生徒隊長だ。
とてつもなく強いんだろう。そう思うと胸はドキドキとワクワクでいっぱいになった。
「戦って見たいけどね。でもその為には【生徒隊長統一試合】に出なくちゃいけないんでしょ?」
「そうみたいだな。その前には【学科隊長】になるところから始めなくちゃいけないし。」
この学校には【隊長制度】と言うものがあり、各学科の中で一番強いものがなることができる。ちなみに学科隊長には様々な特権が用意されているとか。
「学科隊長かー。試験どおりの強さなら案外楽勝かも。」
「そのままならな。俺に至っては眼鏡で異眼制限されてるから難しい気がする。」
「流石に試合のときは外して良いんじゃない?」
「まあ、有っても勝つだけだけどな。」
「そうだね。戮は相当強いからきっと大丈夫だよ!」
笑顔で言う凛。そんな笑顔に勇気を貰い、学園の門へと歩き出した。
学園の前にたどり着き、改めて圧倒される。学園都市となっているため、校舎の広さが桁違いだ。かなりの広さがあるのでは無いかと言われているが、教官等を含めないDBSの生徒だけで約二万人もの人がいると思うと納得がいく。
ちなみに学園都市の中にはDBS以外DBの軍本部、軍用病院、軍直属の戦闘専門小・中学校等、他にはコンビニやゲームセンター等娯楽施設もあるとパンフレットには書いてあった。
しかし、改めて眺めてみると実物はとんでもないものだ。
「いやー!やっぱり凄いねー!」
「そうだな。入学式が終わったら街の中でも回ってみるか。」
「約束だよ!それじゃあ学校に行こうか!」
目の前の校門を通り抜け、学園の敷地内に入る。辺りにも新入生だろうか、大勢の生徒が呆気に取られ校舎を見上げていた。
「長剣科と長槍科って同じ建物だよね?」
「そ、確かC棟だったはず。」
「それにしても敷地広すぎるよ。戮、私から離れないでね。」
この言い方ではまるで俺が迷子になるみたいじゃないか。少し拗ねたように凛に言う。
「子供扱いすんなよな。」
その一言を聞いた凛は慌てて両手を前に出しながら訂正する。
「ち、違うよ!戮が居なくなっちゃったら私校舎にたどり着ける自信無いもん。だから離れないでね。」
そう言うと凛は俺の手を握る。握られた箇所から凛の暖かい温もりがほんのりと感じられた。
「わかったよ。絶対離れないから。とりあえず校舎探そうか。」
ようやく辿り着いた生徒玄関の前は、大勢の新入生で埋め尽くされていた。早速仲良しを作って笑い合う者、一人で静かに己の為だけに信念を燃やす者、様々だ。
「うわー。これしばらく校舎の中入れないね。」
「うん。この人数が靴を履き替えるまで無理だと思うな。」
「入学式間に合うかな?」
人の列が全然進まない。入学式は九時から。腕時計を見てみると今は八時半。
もう少し早く家を出ていけは良かった。でも今更後悔しても遅すぎる。
「凛、ちょっと。」
「どうしたの?」
「間をすり抜けられないかな。」
「うーん……これぐらいなら。」
凛の手を握る強さを少しだけ強めて、生徒の隙間を目指して歩いていく。
綺麗な列で並んでいる訳では無いので隙間からスルスルと玄関に進む。道中周りの生徒が俺らを見つめるが、意図的に気にしないようにする。
玄関に到達すると、握っていた手を離してお互いの下駄箱に進んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます