第3話 異眼の秘密
「次の受験生前へ!」
試験官の声が響くと、腹を括りゆっくりと闘技台へ上がった。それと同時に体を薄い膜が覆う。
この膜は【防護膜】と呼ばれるもので、試験や検定、組手の際にお互いを傷つけない為に体を覆うもの。しかし、相手の力量によって傷つくことはないが痛みを感じたりしてしまう。
防護膜に覆われた事を確認して、視線を上げると目の前には腕組をした長剣科の隊長が立っていた。俺の姿を見つめるや否やクスリと笑いながら口を開く。
「貴方が流派も何もない子なのね?そんな重たい剣、使ったって私に当たるわけ無いのに……私は、長剣科隊長。
深雪は俺のことを我流と聞いていたのか、どこか小馬鹿にしているようだった。顔つき、態度からすると確実に実力を軽く見ている。
「俺は外山戮です。お言葉ですが、実力も見ないでそう仰るのはどうかと思いますよ。」
挑発し返すようになるべく低い声で言う。だが、深雪はいかにもそれが可笑しくてたまらないという顔で腰の鞘に収めていた長剣を抜く。
「そんな大口を叩くなら、貴方の実力を見せて貰わなくちゃね!」
そう言いながら深雪は地面を蹴り、距離を縮めると武器を構えてすらいない俺に襲いかかってきた。
風を切って凄まじい勢いで振り下ろされる長剣を体を捻り、ギリギリのところで避ける。的を外れた深雪の剣が地面を穿つ。
俺は体を捻った勢いを利用して、腰の漆黒の柄を握り締めて長刀を一気に抜き放った。
太陽の光に反射し、光を放つ白銀の片刃の刀身が姿を表した。それを両手でしっかりと握り、ダラリと地面スレスレの下段に構える。
しかし、構えた時には既に深雪は次の攻撃のモーションに入っていた。
動きをじっくり観て予測し、深雪が上から放ってくる斬撃を左斬り上げで弾く。ギィンと金属と金属が弾き合う音が甲高く闘技台に響いた。
一瞬だが驚いた表情を見せるとバックステップで距離を取る。
「ふーん。意外と剣使いこなせているじゃない。……でも、私に勝てるかしらねっ!」
深雪は笑顔で黄金の長剣を大上段に構える。すると、刀身が薄い紫の淡い光を帯びて輝き始めた。
この光は今から必殺技が繰り出されるという合図に近いもの。【気】と呼ばれる体内から発生され、身体エネルギーが武器を伝うと一人一人異なる色の光を発する。
必殺技の全てはこの気の力を利用して繰り出される。よって今、深雪は必殺技を俺に当てようとしている。
通常、学生の試験には使うことが許されていないことが多い。個人の立ち合いなら別だが。
この試合を見ていた受験生がざわめき出す。試験官も止めるべきかと悩んでいる様子だ。
「くっ……!」
今発動された技はきちんと受けきらないと全身を切り裂かれ、防護膜越しにでも動けなくなってしまう。
それだけは何としても避けねばならない。長刀の腹を横に向けて防御姿勢を取った。
そんな戮の様子を見て笑みを強くする深雪。
深雪は紫に輝く刀身を俺に向かって振り下ろした。この奥義はそれをきっかけに怒涛の連続攻撃が始まる。これは流派を持っている者に伝授される必殺の奥義。
「さあ、覚悟しなさい!【睡蓮流・百花繚乱】!」
目にも見えない斬撃の嵐が降り注いだ。刀身に斬撃が当たる度にジリジリと闘技台の縁に追いやられてしまう。
「どうしたのよ、実力を見せてくれるんじゃなかったの?」
クスクスと笑いながら止めることなく斬撃を降らす隊長。
斬撃の圧力に負け、足元がふらついてしまう。俺がぐらりと体勢を崩した所で斬撃を止め、長剣を持ったまま力を溜める。
深雪の長剣が更に強い光を帯びていく。
「終わりね。」
一言呟くと大振りで身動きの取れない俺に長剣を振り下した。容赦のない一撃。
「……仕方ないか。」
深雪に聞こえるか聞こえないか位の声で呟き、両眼を閉じて力を入れながらゆっくりと両眼を開いた。
それと同時に力が溢れ出す。黒い瞳だった両眼が瞳孔から徐々に金色に変化する。
俺は長刀を持つ手に力を入れて、思い切り深雪の長剣を弾き返した。深雪は驚いたことだろう。
それはそうだ。身動きの取れなかったはずの俺が両手でも振るのに苦労するあの重い刀を《片手》で振り上げて攻撃を弾いたからだ。
おまけに白銀だった刀身が漆黒に変化し、鈍く光っている。
「本気なら今から見せますよ。」
睨みつけながら相変わらず低い声で深雪に告げる。
そんな様子を見て深雪が驚愕の表情を見せた。ありえない……と呟きながら。
「【
「ご名答。少し準備に時間が掛かったけど、こんなものでしょう。」
異眼持ちとはそのまま【通常とは“異”なる形状をした“眼”】の意で、この世界に魔獣が現れた時からその影響で現れ始めたとされている。
主に黒以外の瞳に色が変化すると言われている瞳を持つ者の事で、この瞳が現れると特殊な能力に目覚めるという。
俺の能力は身体に宿している【霊獣】の力を解放し、自分の物にする事が出来る。
霊獣とは龍や幻獣などの霊体のことで、契約した人間に力を貸してくれる存在。霊獣は代々受け継がれていることが多く、遭遇できるのは非常に稀。
大抵は幼い頃に済ませている事が多いが、ごく稀に知らない間に身体に霊獣が宿っていることがある。
俺が宿している霊獣、黒龍の
の持っている能力は物質または自分自身の身体を鋼のように硬くすることに加え、紅い色をしたガード不能の雷を扱うことが可能だ。
その他にも霊獣そのものと人格を入れ替えるも可能。
人格を入れ替えている間は意識はあるが、勝手に身体が動く状態となる。霊獣と会話をすることも出来る。
ゆったりとした動きで深雪に近づいていく。普段の黒い瞳を金に変化させながら。
この様子を見て完全に怯えきっている深雪。地面にへたり込みながら身体を震わせている。
戦う意志のない深雪を見て、軽く舌打ちをした。戦う意志の無い相手と戦っても自分の成長は見込めないから。
▼△▼△
突然、戮の目が強い光を帯びる。
その目の光が和らいだかと思うといきなり戮の身体からとてつもなく悍ましい気配とプレッシャーが発された。
「こ、来ないで!あっち行って!」
あまりのオーラに顔を真っ青にして駄々っ子の様に剣を振る深雪。
じろりと深雪を見ると戮はその剣を軽々と弾く。すると黄金の剣は刀身半ばからへし折れ、折れた刀身は深雪の真横の地面へ突き立った。
『お前が調子に乗ってるから悪い。』
霊獣が表面に出て明らかに人格が変わっている戮。そして前髪の一部が金色に変化している。
悍ましい気を身体から発しながら少しずつ、ゆったりとした動きで深雪に近づいて行く。
『なんであやつもここで我を呼ぶのか。よっぽどつまらなかったのだろうな。』
「な、なんのことよ!」
返事もせずに赤い雷を纏わせた黒刀を肩に担ぐように構え、深雪に近付く戮の皮を被った『なにか』。
その『なにか』が深雪に刀を振り下ろす直前で、目の前に入ってきた人影に止められる。
寒冷迷彩の戦闘服に黒革のコートに身を包んだ双剣使い。
数々の武器を使いこなし、魔獣を討伐すると言われている軍隊所属のエキスパート集団の一人。
その双剣使いがそれぞれ大きさの違うナイフを交差させ、戮の重い一撃を受け止める。
「そこまで!結果は自宅に郵送するのでそれまで自宅で待機すること。」
「軍……か。解りました、それでは。」
さっきの性格の変化とは一変、丁寧に刀を収め一礼したあと闘技台から降りる戮。その瞳は既に元の黒に戻っていた。
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