第2話 武器測定と流派

俺と凛は受験会場である武術学園にたどり着いた。あまりの人の多さのせいか、思わず辺りを見渡してしまう。


周囲には武器を装備した受験生達でひしめいていた。受験生は受付の前で長蛇の列を作っている。


入口のすぐ近くにある受付の数は数十箇所にも登り、その一箇所一箇所で武器の計測が行われているようだ。


受験するときは武器の測定が行われ、刀身の形、柄の長さによって学科が決められることになっている。


そのことは事前に郵送されている募集要項に書いてあり、既に知らされていた。


時間短縮のためにそれぞれ違う列に並び、受付を済ませることに。



「お願いします。」



自分の番が来て、受付の係員に軽く会釈をして挨拶。そして金具を外し刀を腰から外して計量器に乗せる。


すると受付の周りに居た受験生達が計量器に表示された内容に驚愕の表情を作り、私のことを見てざわめき始める。



「君、本当にこの剣を振れるのかい?」



重量を計り終えた係員の女性が黒鞘の刀を指差し問う。それも当然かもしれない。


俺の刀が乗っている測定器に表示された重さは“六キロ”。大きさは通常のものとしても、重さは通常の刀の《四倍》程だったからだ。



「問題ないですよ。」



当たり障りのないよう笑顔で答えておく。すると辺りのざわめきが更に広がった。視線が無遠慮に集まる。


計測を終えて受付の女性から左斜め上に“長剣科”と赤いハンコを押された書類を受け取り、書類を記入するために置かれた机に向かった。


机の近くには既に凛が測定を終え、俺を待っているようだった。私のことを発見すると笑顔になり、すぐさま駆け寄っていく。



「おかえりー!測定はどうだった?」


「本当にこの剣を振れるのかい?って聞かれたよ。」



やれやれ、といった素振りを見せる。すると苦笑いを浮かべてこっちを見る凛は、腰に下げてある長刀の鞘を手のひらでパンパン叩きながら言う。



「だってこんな重い刀を振り回せるのは、馬鹿力の戮ぐらいだよ?」


「し、失礼だな。凛だってどうやったらリーチが馬鹿みたいに長くなった槍を操れるんだよ。」


「馬鹿でかくないよ。私の槍は二メートル半しかないんだよー?普通だよ。」



昔の時代なら当然の長さで、むしろ物足りないのではないかと言われる長さ。今の時代は通常長槍で一メートル半位が一般的となっている。リーチよりも機動力が必要とされているからだ。



「普通ね……」



凛の普通は普通じゃないらしい。信じられないと言う顔つきで凛を見たが、昔からの付き合いもあるので慣れっ子になってしまっているみたいだ。


反論を諦め、書類を書く専用の机に座った。書類には数多くの項目があり、氏名、年齢、出身校と普通の項目の他に、剣の銘や流派などがある。


ペン立てからペンを一本取り、軽快にスラスラと項目にペンを走らせる。そしてある項目にたどり着くとピタリとペンを止めた。



「どうしたの?」



隣で同じく書類を書いていた凛が異変に気がついたのか俺の書類を覗き込んだ。


分かりやすいようにペンの裏でコンコンと問題の項目の空白部分を叩きながら指し示した。



「いや、流派の所どうしようと思ってさ。」



この世界には流派というものが存在し、各道場で武器の扱いを習ったものだけが“○○流”などと言う流派を名乗る事ができる。



だが、俺には流派がない。



一昔前にしかも学校の戦闘訓練で流派を持った相手と組手で闘った経験のみ。実際に流派の道場による剣術を習った経験は全くと言っていいほど無かった。


よって俺が使う剣術は全て自己流。正しくは姉に教わったり、ある者に教わったりしているが大半は自分の力で得たものだ。



「そっか、戮は流派がないんだよね。それなら我流って書けば良いんじゃないかな。」



それに対し、凛は道場の二人娘の次女で幼少の頃から両親から流派・虎爪流コソウリュウの手解きを受け、既に師範のレベルにまで達している。


虎爪流は主に長物専門の武器を扱う流派で、突き技がメイン。かなり有名な流派でこの流派を知らない者は少ない。



「うーん、そうするしかないか……」



しばらく腕を組みながら考え、決意を固め書類の項目に我流とペンを走らせた。というより、こうするしか無いのだが。


書類の全ての項目を埋めて最後にざっと書類の書き漏れが無いことを確認すると、ペン立てにペンを立て直して椅子から立ち上がった。



「書き漏れは無さそう?」



同じく隣で書類を書き終わったらしい凛は左手に書類を持ち、スッと立ち上がる。



「大丈夫だと思うけど……」



もう一度項目を確認しておく。俺は少しばかり心配性な面があるのを自覚している。



「よし!じゃあ、戦いに行くか!」



拳を天に突き上げてやる気まんまんの凛。そんな凛をつい、苦笑しながら見てしまう。



「だからなんでそんなに元気なんだよ。」


「だってそれぞれの隊長さんが直々に相手してくれるんだよ?」



たまらないという表情をして両拳を握り締める。その顔は希望に満ちていた。



「そうだな、やるからには勝ちたいよな。」


「そうそう!やっといつもの戮らしくなったね!」



そう言いながら元気よく戮の肩をポンポンと叩く。



「じゃあ、また後でね!期待してるよ!」



大きく手を振ると、凛は長槍科の列に並んでいく。


手を凛に振り返して私もまた、長剣科の列に並ぶ。列にも受付が居て受付に書類を渡すようだ。


受付の女性に書類を渡し、それと交換でプラスチック製のナンバープレートを受け取った。裏は安全ピンになっていてそれを制服の胸ポケットに装着する。


書かれた番号は459826番。流石に六桁の受験番号には驚いたが、二十学科もある学校なら当然。


長剣科は意外と人気の学科のようで列にはたくさんの受験生が並んでいた為、時間がかかりそうだ。


時間が勿体ないのでせめて参考程度に、正面の闘技台の上での戦いを観察する事にした。


隊長であろう人は、濃い紫の髪に瞳は全人類共通の黒、背中には真っ赤な薔薇の紋章が描かれた純白のコートを羽織っている。


使っている武器は目が痛くなるほどの黄金の両手剣。鍔には宝石が散りばめられていた。見るからに高価そうだ。


隊長の顔には戦闘中にも関わらず、まるで仮面のように笑顔が張り付いていた。


一方、相手の受験生は苦痛に顔を歪めている。隊長の総攻撃で防御も覚束無い様子だ。


しばらく隊長の攻撃が続き、受験生は剣を遠くに弾かれて試合が終了となった。


これを見るとかなり手練の隊長だと分かる。



「負けるものか……」



やるしかない。決意を固め、闘技台を睨みつけた。

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