やっぱ学校って怖いな

「おはようございます!」ニコッ


 何してるかって?

 見りゃわかるだろ?

 挨拶だよ、挨拶。

 今日は入学式だからな、初対面はやっぱり挨拶が大事じゃないか?

 まぁ、鏡の前で自分の姿見るだけで泣きそうになるんだけどね。

 あの時のことがフラッシュバックしてくる。

 まぁ、やれるだけの事はして来たつもりだ。


「かなで〜、頑張ってくるから応援しててね。行ってきます!!」


ガチャッーーーー


 うん? 同じ時を繰り返してたりする?

 俺が扉を開けば楪さんの扉も開いた。

 昨日もこんな事があったような?

 その時も俺から声かけたっけ?

 あ、そうだ。楪さんを練習台にしちゃおう!


「楪さん! おはようございます!」ニコッ


「げ、月斗くん。お、おはよう」


 昨日と違うとこがあるとするなら、それは楪さんの赤面した顔が昨日の比にならないってとこだろう。


「昨日より赤いですけど、大丈夫ですか? やっぱり昨日から体調悪いんじゃーーー」


「ち、違うの!! これは違うの! これが私の正常なのよ!」


「ち、近いですよ! 楪さん! 分かりましたから、落ち着いてください」


 ものすごい勢いで迫ってくるもんだから唇触れちゃうんじゃないか、とか考えるのは仕方がない事だと思う。

 触れたいとも思う。

 あ、ごめん、今の忘れて。俺でもびっくりするぐらいヤバイ奴だったから。

 

「ご、ごめんね。ふふっ、なんか昨日もこんな事あったね」


「俺も同じ事考えてましたよ」


「それより、月斗くん。今日から学校始まるの?」


「そうなんですよ。今日が入学式だから身嗜みとか整えたんですが知り合いとか一人もいないんでちょっと緊張してるんですよ」


 本心を言うとちょっとじゃなくて結構なんですけどね。


「大丈夫だと思うよ? ……だってカッコいいんだもん」


 俺ってやっぱり難聴だったりするのかな?

 最後の方だけ聞こえないんだけど。


「そうですか? ならいいんですけど」


「うん! 自信持って良いと思うよ。頑張って来てね。夕御飯は昨日より豪華な物作るから期待しててね」


「はい! 今から楽しみですよ。じゃあ、行ってきます」


「行ってらっしゃい」


 楪さんの笑顔はいつ見ても綺麗だ。

 楪さんの笑顔が見れただけで

 楪さんの声が聞けただけで

 俺は元気がもらえ、安心できる。

 今ならなんでもできる気がするよ。


ーーーーー


「初めまして。日嘉ひが恭陽きょうようです。好きな時間はスポーツをしている時です。部活にはサッカー部に入る予定です。皆さん一年間よろしくお願いします!」ニコッ


 入学式も終わり今は俺のクラスで担任に就いた教師からの「自己紹介をしていただきます」と言われた。

 まぁ当然といえば当然なのだが、これほど憂鬱な時はあまりない。


 今自己紹介した人なんて名前の半分がヨウの漢字だけでもわかるだろう。

 今の笑顔なんて眩しすぎる。

 誰かサングラス持ってないですか?


 はぁ、こんな陽キャの次に自己紹介しろなんて教師はそこまで俺を堕としたいだろうか。

 鬼! 悪魔! 俺はお前の言いなりになんかならないからな!!

 などと心の中で思ってみるが口にも出さないし、今教卓の前に立ってしまったから言いなりになってんだよな。

 とりあえず、日嘉くんの自己紹介パクっちゃおっと。

 

「は、初めまして!」


 声が裏返ってしまった。

 周りからクスクスと笑い声が聞こえる。

 やってしまった。


「ごほん、日影月斗です。好きな時間は愛犬と遊んでいる時です。一つ一つの仕草が可愛くて俺が胡座をかいて座ってる時なんかは俺の足にちょこんって座って上目遣いで撫でろって訴えてきたり、鳴き声も綺麗でもう、とにかく可愛いんですよ!!」


 あ、かなでの事になったら話しすぎた。

 やっちまったな、みんなの目が怖いよ。


「あ、えっと、一年間よろしくお願いします」


「めっちゃカッコよくない?」

「不意打ちの笑顔素敵」

「クール系だと思ってたのに可愛いね」

「犬の話だったら一緒に話せるかな?」


 ほらね、席に戻る間にもコソコソとなんか言ってるよ。

 こっち見ながらだよ?

 もう悪口しかないじゃん。

 高校生活もボッチ確定か………


 うん? なに?

 難聴主人公?

 誰のこと言ってんだよ。

 俺、これでも耳はいい方だと思うんだけど。

 中学の頃なんて嫌という程俺の事を罵倒する言葉が聞こえてきたんだから。


 帰ったらかなでに癒してもらおう。

 俺の精神が崩壊しそうだよ。

 三年間も耐えられそうにない。

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