第3話 延ばせば無限。

 「..はっ、何処だ!?」

 刀に穴を開け、敗けを経験した。普通に歩く事は難しく、常に辺りを警戒するようになっていた。敏感な感性、物音一つも敵に思える過剰体質。


「おのれ集呉郎...!

次に遭ったら叩き斬る、刀に傷は付けられたがスイギュウは以前よりいきり立っているからな。覚悟致せ!」

復讐の焔を燃やし再闘を誓う志は曲がる事無く純粋に集呉郎を斬る事にのみ向かっている。

「檻屋敷へ向かえば遭えるだろうか、貴様の土手っ腹に風穴を開けてやる」

 スイギュウは重量のみならず角で突く鋭利な一撃を与える素早さを持っている、穴を開ける事など寧ろこちらの専売特許ともいえる得意分野だ。


「へぇ、なかなか君集呉郎の居場所知ってるんだ。口振りだと一度敗けた感じみたいだけど。」


「何奴⁉︎」

「構えるなよ直ぐに、物事深く考えないから負けちゃうんだぜ?」

軽薄な口調だがしっかりと着物を着込んでいる。髷は結っておらず、油を落として金色に染まっている。

「貴様、侍か!

..それにしては余りにも派手過ぎる」


「現代仕様だよ、わかる?

いつまでも古い型にはまるなってば。

前よりおかしな刀持ってる癖に」

言葉はある程度街を歩けば覚えられる髪の色は友達をつくって金を払って貰えば変えられる建物が幾つも有る。

「こういうの〝臨機応変〟

って言うらしいぜ、面白くね?」


「軟弱者が!」

「だから臨機応変だってば。」

重たい刀を角の如くしならせ突きの姿勢で軟派男に向ける。何でもない路地に突如現れた男はフラフラと揺れ少し笑いながら常にこちらを小馬鹿にしているような雰囲気を放っている。

「抵抗せねば貫かれるぞ!」


「大丈夫よ、別に。

オレの剣は絶対〝避けられない〟し」

硬さも重さも鋭さも必要ない

当たりさえすれば痛みを伴うのだ。


「檻の屋敷に行けば遭えんだよね?」

 

ーーーーーー


 「説明して!」


「何の事だ」 

「何の事だじゃないでしょ、最近の事よ。アンタの事、ヒポタマちゃんの事

出てきた侍達の事よ!」

一方的に巻き込まれるだけの瑠璃にとっては迷惑極まりない昨今の出来事に気性はやはり荒くなる。

平日の昼間に制服と着物が言い争いをしている光景はなかなか拝めない。


「何しに此処に来たの!

なんでみんなアンタの名前知ってるの

ちゃんと話して、歴史嫌いだけど!」

「……。」

集呉郎は過去の時代であった事、此処に辿り着いた経緯、動物達が吸収された事、洗いざらい瑠璃に話した。


「魂吸いの妖刀?

それでヒポタマちゃんは刀の中にはいっちゃたの?」


「だろうな、元はと言えば彼奴が刃を折ったから漏れ出たのだ。刀に宿ったのは、刻送りの名残だろうか。」


「まだ一つ言ってない」


「なんだ?」


「名前を知っている理由よ、会う侍が軒並み知ってるでしょ」


「それは単純に、拙者の名が知れているからだ。〝戦嫌いの集呉郎〟とな」

戦が全ての時代でそれを忌み嫌う。

それは世界に背を向け否定するという事、当然名を知り追い詰める。

逃げ場を失い、行き着いたのが現在の見えているこの有り様だ。


「アンタが有名人?

ほんとなのそれ、検索したら出る?」


「検索?」「そ、現代の技術よ。」

スマホを取り出しインターネットを開く。直接聞かなくとも、バーに文字を打てば初めから解る事だったのだ。


「字教えてくれる?」

「名前の字か、表現が難しいな。手頃に文字を書ける紙切れはあるか?」


「..ちょっと待って。」「どうした」

文字を入れる前、最新のトピックスに気になるニュースが。

「これ、着物着てるよね?」

「侍か!」

着物姿の男が剥き出しの刀を所持し、刑務所の囚人を襲う。予想外の悪しきトレンドが画面中を覆った。

「男は檻を刀で斬り破り、中の囚人に直接斬り傷を負わせた痕跡がある。」


「愚か者め..!」

「何で男とかそういうのわかったんだろ、侵入とかでは無いって事かな?」

狼狽る集呉郎と変わって冷静に状況を整理する瑠璃。

冷めていると思われがちだが人間そんなものだろう、己に直接関与が無ければ心配はしない。素振りを見せるか、興味を示さずに放っておくかだ。


「行くぞ。」


「何処によ?」

「奴を追う、顔は知らぬが着物を着ている。それだけあれば掴めよう。」

刑務所の囚人を殺すくらいだ、相当な腕っぷしの侍に違い無い。集呉郎がどれ程の実力者なのかは知らないが、力劣れば、確実に殺される。


「私を巻き込まないでよ」

迷惑ならまだしも生死に関わる事柄には当然だが関与を拒みたい。

「でもヒポタマちゃんは助けて

だから絶対やられないでよね。」


「約束しよう、ひぽたまは守る。」

〝絶対にやられない〟

とは決して言わなかった。なんとなくわかっているのだろうか、相対する輩のふとした禍々しさに。


ーーーーーー


 「ふーん。

檻の屋敷って聞いたからあそこしか思いつかなかってけど、違うんだぁ」

目で見たものしか信じない、この男は過去の時代からもそうだった。


「人ってクチだけだからね、実際に見て確認しなきゃホントかどうかわからない。本来五感なんて多すぎる、目だけで充分だよ。特に人はさぁ」

高い丘に登り、街を一望して吟味する正解は何処なのか、正しい場所は。

「お、あそこよくない?

結構立派な檻だけど、でも結構遠そうだなぁ..歩くのしんどー。」

しゃがみ込み項垂れる、そして何故か天に向かって剣を立てた。


「お願いできる、キリンさん?」

刃の長さを大きく超える首が街を見下ろして刀に馴染む。刀は大きく伸長し浮かんだ首と同等の長さを誇る規格外の長刀へと変化する。

「待ってな集呉郎、お前にも愉しい戦ってのを見してやるからさ!」

逆手に持ち替えた刀の鋒を適当な地面に突き刺し、幅跳びの要領で目的地て一気に飛んでいく。侍故の大胆さか、現代で培った型破りか。定かでないがどちらにせよ一筋縄では容易に解ける

「剣はモノより振る側だ。

癖があろうと腕があれば強いだろ?」

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