二人からの連絡

 爽快な気分だった。加奈がくれた蝶が私に羽を与えてくれた気持ちになった。加奈の背中を見送り、私は松井さんに連絡することにした。ラインを見ると、亮介と松井さん二人から連絡が入っていて、私は下にある亮介のラインを先に開けた。


 亮介『映画やっぱり15時10分にして昼ピザ食べよう。11時に駅でいい?』


 二人でだらだらテレビを見ている時に私が観たい、と軽い気持ちで言った映画がちょうど公開になったらしい。それを亮介が嬉しそうに伝えてきたので、日曜日は映画デートをすることになっていた。その後家に来るのか、来ないのか先に知りたかったが聞かないことにした。

 彼は十一時台の映画か十五時台かでずいぶん迷っていた。お昼を食べてから向かうか、映画館でポップコーンやチュロスを食べるか、私が小食なことを気にしてどっちがいいか訊ねてきた。美味しいピザを一緒に食べたいが、夜だと予約が詰まっていたらしい。しかし昼間に食べてしまうと映画の醍醐味であるポップコーンとチュロスを楽しめない、と力説していた。

 私は何でも良かった。彼と会って許すことが目的で会いたい、と伝えただけだった。そんな一日に色々詰め込むデートをしたかったわけではない。映画など行かず、どちらかの家でゴロゴロしてセックスしてもいい、と思っていた。

 その映画もすぐにテレビで放映されるだろう。ピザもポップコーンもチュロスもどうでも良かった。そもそも食欲がほとんどなく、美味しいピザでさえ食べられる気がしていなかった。

 しかし私とのデートを楽しみにしているのがひしひしと伝わってきて、そんな姿を見ると心が満たされた。愛されている、と感じると温かい気持ちになることができた。



 私は亮介と映画に行く約束を一瞬忘れていた。その文面を見て、今食べたばかりの石窯で焼かれたピザを思い出した。亮介とピザを食べる前に美味しいピザをもう食べちゃったよ。

亮介は私が今日加奈たちと何を食べたかも聞かなかった。私が言えば良かったのか、ピザを食べるから日曜日は違うものが食べたい、と言えばそうしてくれただろう。でもなぜか腹が立った。私を思っているふりをして、結局自分がしたいようにしている気がした。私は、今返信すべき内容にも関わらず、そのまま閉じて松井さんのラインを開いた。


 松井『あの店を出て、左に2ブロック歩くコンビニで待ってるね。ゆっくりで大丈夫やよ。』


 時間を見ると七分前だった。七という数字は人の気持ちを和らげる。ラッキーセブンというくらいだ。七がなぜラッキーなのか知りもしないのに、七分前に来たそのラインを見て、今日これからいいことが起こる、となぜか根拠もないのにそんな気がした。罪悪感はまだゼロで、ミッションはスタートする。


 明日香『今から向かいます。お待たせしてごめんなさい。』


 莉子が歩いた道を歩きながら、店を通り過ぎ足早にコンビニに向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る