加奈

 当然のように傲ってくれた三人に笑顔を振りまいて、無事終わった初めての合コンは、あっという間に時間が過ぎ、満ち足りた疲労感を感じた。

 私たちは三人で帰ることになった。まだ二十二時半。私は駅に着く前に二人と別れて、松井さんに連絡しないといけない。

「佐藤さん意外とおもろかったな。」

「タイプじゃないんじゃなかった?」

 加奈が少し棘のある言い方をした。

 莉子は両手を大袈裟に合わせ、ラインのスタンプにでもなれそうな、ごめんポーズをした。

「ごめん。言いづらくて、このあと佐藤さんと飲みに行くってさっき約束してもうてん。待ってはるからいくわ。気をつけて帰って。」

 私たちの返事を待たず、颯爽と反対方向に駆けて、振り返った。

「また月曜なー。」

 声は良く通り、笑顔はいつものまま可愛らしいが、アルコールで少し赤らんだ頬が女らしくみえた。

 私は呆然としていたが、莉子に手を振った。


 佐藤さんと莉子は今日の回を上手く進行してくれていた。後半は、楽しそうに笑い合い、既に付き合っているような距離感で二人だけの会話をしている時もあった。私は自分のことで精一杯だったが、二人がこの後会うことに加奈は気づいていたのかもしれない。

「そうやと思ってんな。」

 加奈は短い溜息をついて、私を見つめた。ガラス玉のような瞳と目が合った。

 加奈は何か察している。それが視線から分かる。電車は同じ方向だし、正直に伝えるしかないが、軽蔑される気がして言いたくなかった。目を逸らしてしまった。

「……」

「明日香。松井さんとこの後飲むなら止めへんよ。もううちらも子どもちゃうんやし、そういう解決策もありやな、って思う。でもあの人彼氏には向いてないと思うで。」

 全て見破られていた。私が合コンがしたいと言った時から分かっていたのかもしれない。ごめん加奈。心配掛けてごめん。でも今日しか私にはないねん。

「軽蔑した?」

 自分の靴先だけを見つめながら、呟くように問いかけた。加奈の吹き出す音が聞こえて目を上げると、大きな目を三日月形にし、顔をクシャッとして笑っていた。それは今日見た加奈の顔で一番の笑顔だった。加奈が私の両肩に手をかけた。

「するわけないやん。あほやな。めそめそする女よりよっぽどいいわ。じゃ、うちは一人寂しく帰るかな。ワンピースめっちゃ似合ってるで。布施君にも見せてあげたいくらいやわ。」

 そう言うと殆ど何も入らないような可愛らしい鞄から何かを取り出して、私の手に握らせた。

「二人だけの秘密な。おやすみー」

 踵を返し、美しい髪を靡かせて加奈は一人、駅の方へ向かった。

「また月曜日!」

 加奈の凜とした後ろ姿に少し叫ぶように言った。加奈は振り返り、とびきりの笑顔を私に向けてくれた。

「月曜なー!」

 手を大きく振り、美しい友人は去って行った。

 

 手の中を見ると、それはコンドームだった。蝶のパッケージのそれがコンドームだと分かるまで少し時間がかかった。私は急いでそれを握りしめ、握りすぎてはだめだと、そのまま鞄のポケットの中に丁寧に入れ込んでチャックを占めた。


 私は一人、声を出して笑ってしまった。

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