思いつき
「なあ、合コンセッティングしてくれへん?」
突如いい案が浮かんだ。最低な案ではあるが、これだとお互い同等に立てる。浮気というものを自分も味わいたい、そして彼にも味わって欲しい。いや、彼にばれなくていい、私だけの秘密の浮気。そんな案が浮かんだ。世間でいう一夏の恋というやつ、彼氏がいたとしても、人生で一度くらいしてみても良いんじゃないか、と思った。
「ええけど、別れるん?」
加奈が不安げにこちらを見た。
「しよしよー。めっちゃいい男揃えたるわ。」
対照的に莉子は、もう私の次の男の世話をしたくなっている様子だ。
莉子は所謂コミュニケーション能力が人の数倍優れている。誰にでもフレンドリーで愛嬌のある子だ。そんな大学生が合コンしませんか、と言ってきたら拒否するという選択肢は普通の男にはないだろう。バイトしているコーヒー店で逆ナンして付き合ったこともある、今風に言えば肉食女子だ。合コンセッティングには頼もしい。
浮気することを前提に考えると、私と浮気相手に共通の知り合いがいないことが必須条件になる。大学内はもっての外だ。
浮気をする、という目標が出来た今、イライラやモヤモヤが消えて、すっと理性的になることができた。
私の考えがおかしいのかもしれない。しかし浮気の報復に浮気するという考えは冷静に考えれば、一番理にかなっているのではないか、と思った。
一瞬これが最低な案だと思ったが、それは男女で浮気に対するステレオタイプが私の潜在意識の中にあって、女が浮気するなんていけないことだ、と心のどこかで思ってしまっているのだろう、と考えた。
そんな考えはくそくらえだ。
「飲んで忘れたいかも…男の人は泣いたりしても、もう会わん人とかのがいいかなって…」
「うちのコミュ力侮ったらあかんで。バイト先でサラリーマンでも見つけたる。そんで奢ってもらお。目ぼしい人おったら声かけてみるわ。」
少し演技臭いと思ったが、莉子は簡単に引っ掛かってくれた。泣くことはないと思うが、他に嘘はない。少し感じた罪悪感は飲み込んで、なかったことにした。
「もしそれで彼氏見つけたとしても、それとは別で布施君にはなんか罪滅ぼししてもらおう?ほんまは布施君と別れる気ないんやろ?」
図星だ。亮介とは別れる気はない、彼氏をそこで見つける気もない。ただ浮気相手を見つけたいだけ。加奈は勘が鋭い。
加奈は、穏やかでかなりの美人だが特定の彼氏を作らない。頻繁にデートはしているようだが、友達だと誇張する。男を良くも悪くも言わず、恋愛感情が私以上に欠落しているように見える。私と亮介みたいに狭いアパートで二人で鍋をつついたりは絶対にしないタイプ、というより似合わない。
私たち三人はほとんど共通点がない。大学一年で必須科目を取る時に座った席が近く、なんとなく連絡先を交換した。私が一人行動をしていても、目敏く見つけて話しかけてくれるようになった。
亮介と知り合ったのも、二人がいなければ参加しなかったであろう飲み会の席だった。ほとんど無理に連れて行かれ、一年生はタダやから行かな損や、という考えの莉子に加奈と私が付き添う形だった。
案の定、男達にチヤホヤされだした二人からそっと離れ、帰ってしまおう、と思ってたところ亮介と出会った。そこから莉子が私と亮介の橋渡しをしてくれた。
きっとそのせいもあるのだろう。恋愛経験が豊富な二人は、私達のキューピッド役だと自負していた。初心な私達を見守っているつもりだったのだろう。そんな時に男の浮気が発覚した。莉子の場合、いい奴だと思っていたのに裏切られた感があり、私以上に怒っているのだろう。
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