ギブアンドテイク
蚊取り線香
ギブアンドテイク
浮気された。これを許すか許さないかで意見は割れた。
「あっちゃん絶対許したらあかんで。一回した男は二回目もするで。」
「それやったら別れるってことやろ。明日香が別れたいならええけど、別れたくないんやったら、何か買ってもらうとか他の解…」
加奈が言い終わる前に興奮ぎみに話を被せる莉子。
「やからあかんて。そんなんに時間費やすだけ無駄やわ。次のん見つけよ。うちも協力するし。夏やで夏!」
「莉子は極端すぎるわ。ちょっと様子見するのもいいんちゃう?夏休みやし、毎日会わんくなるし、距離置いてみて考えるとか。」
当事者は私なのに、二人は私を置いてけぼりにしていることに気づいておらず、討論している。それはどうでもよかった。二人に話を聞いて欲しかったわけではない。彼が浮気する男だ、と彼女達が勝手に広め、大学での彼の地位が少しでも下がるならそれでいいと思ったのだ。
浮気してしまった、と白状したのは私の彼氏、布施亮介だ。言わなければ、私は気付きもしなかっただろうに、馬鹿正直な彼は罪悪感に耐えられなくなったのだろう。
そんなところが好きになったのにな、と一人で考えていたが、長所と短所は紙一重。自分の罪悪感くらい自分で処理してくれ。性欲はこっちに向けてくれていいのに、余所でよろしくやりやがって。
そんな苛立ちを抱えていたところに二人がふらっと現れ、私に手を振りながら近づいて来たので、ぶちまけてやった。
「布施が浮気しおったわ。」
その一言で、二人は白熱しだしてしまい今に至る。
大学生の夏休みは長い。その間、一度も会わなかったら、と考えるとやはり寂しい。亮介は初めて出来た彼氏だ。今から新しい彼氏を作るのも、自分に出来る気がしない。来年の夏まで待つ気もさらさらない。夏の思い出くらい一緒に作りやがれ。私は彼氏としか出来ない夏を楽しみたい。それが浮気男だったとしても誰もいない夏よりよっぽどいい。
私はもともと人付き合いは苦手な方だし、一人でいる方が楽でいいと思うことが気づいたら多かった。
初めて出来た彼氏のことは気に入っている。どうしてこんな愛想の欠片もない私を好きになったのかは分からないが、向こうから子犬のように寄ってきて、その好意が目に見えて分かり、私も彼が近くにいるのが心地よく感じるようになった。
燃えるように熱い気持ち、とか好きすぎて震える、とかJPOPの歌詞のような感情は沸かなかったが、好かれていると思うとそれが気持ちよかった。
実際、彼が浮気をしたという事実が露呈しても、それだけで嫌いになるわけではなかった。変わらずに私のことが好きだ、大好きだ、と泣いていたし、許して欲しいと懇願された。
ただどうしようもない。
聞かなかったことには出来ないし、私のモヤモヤ、イライラは消えない。
嫌いにはなってはいないが、好き度がワンランク下がった感じ。
加奈が言うように、プレゼントをもらったとしても、お金で解決されている気がして嫌だ。そのプレゼントを見る度に浮気を思い出して逆にイライラが募りそうだ。
かといって、そのまま許すのも私が彼に負けた気がして嫌だ。
今から亮介みたいに私のことが大好きな彼氏を探して、夏を一緒に過ごすのも現実的に無理そうだし、もし出来たとしてもその過程が面倒くさくて嫌だ。
とにかく全てに対して嫌な気分だ。
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