第50話 波揺れる会話

その後迎えに来た船が船着場に停泊した。

 帰りの船は行きの船とは大きく違い大きな戦艦だった。名称は戦列艦、98門もの大砲が搭載されている。この時代で高い攻撃力と対艦能力に優れ、歴史にはフランス革命やナポレオン戦争に登場しトラファルガーの海戦以降大規模な海戦は無くなった。

 戦列艦の発展を見る歴史の中で重要な事柄として寸法規定があった。これは18世紀前半のイギリス海軍が行なっていた艦の大きさを一元的に決定する制度で、結果的にイギリス海軍の技術的発展を大きく阻害することになったが。反対に寸法規定廃止後は第2次百年戦争の影響もあって設計の革新が急速に進み、ナポレオン戦争後も1860年代まで緩やかな発展が続いた。

 


 戦列艦が着くなり、マスケット銃を持った兵が俺たちの前に立ちはだかった。

 俺たち三人を見張るように。

 

(あれは!ハンターギルドの対人特化部隊、主に重犯罪に手を染めた、犯罪者を確保する別働隊)

 この世界に迷い込んだ一人の日本人は脳裏でそんなことを思い出した。

 ハンターギルドを就職先ということで、調べているうちに知った部隊だ。 

 決して表には出ず、秘密が多い部隊でもあった。構成員は不明で、この隊の指揮官だけが公にされているだけ。

 秘密が多いが、俺の就職先の最有力候補でもあった。

 自惚れているわけではないが、対人間においては、俺に勝てるものはそうそういないはず、モンスター相手だと何が起こるかわからない、という理由から必然的にここを選んでいた。

(しかし、このような催しはなかったはずだ)


「皆さん試験お疲れ様です。次の試験はあちら

で」と言って都市がある陸地を指差し「開始しますのでお乗りください。」


 口髭をはやした初老の軍人はそう言って、船内へと招いた。

 紐の梯子を登り皆の集合を待つ。その間に辺りを見回してしまう。船から見える海は陸地で見るより遥かに遠くまで見ることができる。それは一重にこの船、戦列艦自体の全高が高い関係だと思う。マストに帆の数は乗ってきた船を遥かの多く大きく新しい。波の影響もそれほど受けていないようだ。それは沖合いに出ていないことも影響していると思うが。

 全員が船上に上がり、指示を仰いでいる雰囲気を作る。


「王都には五時間ほどで到着いたしますのでその間は船内で寛いでください。と言っても船内は大砲しかありませんが・・・少しだけなら見ていただいもよろしいいですよ」


 最後に受験者の緊張ほぐしか、物珍しいことをさせてくれる優しい船長だった。

 この人は何度か見たことがあった、何度かうちの父さんに会いにきていた海軍の高級軍人だった。

 名をアンドレア・ドリア

 既に初老の域に差しかかりはしているが、全盛期の体躯は衰えることを知らず、ゴツゴツとはしていなかったが、決して初めに見る人には幾分か若く目に映るほどではあった。

 そんな彼から俺は呼び出され、船体の最後尾にあるデッキに移動した。


「疲れているところよんですまないね」


 彼は本当に俺を労わるようにいい、肘を手摺りにつき俺を隣によんんだ。


「君のことはお父さんから聞いているよ、大きくなったね」

「はい」


 少しばかりの世間話を挟んだ後、真面目な顔に戻り本題を聞いてきた。


「あの島で何があったか話せるかい?」


 あの島での出来事、彼らが行った大殺戮は多くの命を奪った。彼がなぜそれをしたか、あれを話した後でもその真意はわからない。

 俺はおきたこと、を知っている範囲見た範囲で話した。


「やはりそうだったのか。私もこの島を監視していた者からの通信で軍部にきてもらうように言われて私がきたんだこれとね」老人は船を優しくポンと触りそう言った。


「現状を聞いた時は、私も耳を疑ったよ。火山でもないのに火柱が立ち、島の半分が焦土とかしたと言った報告には、それに知人の息子がその島にいると知った時は、血の気が引いたよ。行くのを躊躇していた私はすぐ様行く手筈を整えた」

「ありがとうございます」

「いやいや君のお父さんにはいつもお世話になっているからね、君のお兄さんにも、そのお礼と思ってもらえると助かるよ」


 老人は、自分は褒められた人ではないと思っているのだろう。一時とはいえ人を助けに行くことに躊躇したことに。

 しかし俺たちを迎えにきてくれた人なのだ責める必要はない、ハンター協会が危険と判断し船の滞泊を延期した中この老人は俺たちを迎えにきてくれたのだから。

 それからまた世間話をして最後に釘を刺された。


「このことは機密事項だから喋らないでね、でも知り合いの君には話しておきたくてね。ごめんよ」と言って老人は艦長室へと戻っていた。

 

 島(のちにハンター島という名を知る)から出航して何事もなく本土に到着した。

 しかし、参加者の顔は過度の疲労により暗く落ち、回復までに幾分かの時間が必要となるだろう。

 例の三方は船の上で紅茶を飲むという偉業を成し遂げていた。

 

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