第49話 報復の連鎖

何事もなく残りの二日間を過ごした。魔法のテントを立ててその中では比較的に落ち着くことができていた。

「貴様一体なんのつもりだ主のそばを離れるなど重罪に当たるぞ!」

「……そんなことが許されると思っているのか?出世欲のサル」

「差別主義者が!」

禍殲廼は差別的発言を前に怒りをあらわにしていた。今にも抜刀しようとしている刀からは、焔が溢れ出ていた。


誰もがこの口論を君が止めろと思っていることだろうが残念ながら今ヒロトはこの場にはいなかった。基地内でも度々報告された醜い権力争いは、日に日にその過激さを増す様になった。それは今の段階では明確に各員の階級が提示されていないのが原因だろう。最高指揮官にヒロトがいるのは共通意識として根幹に存在するが、重役の少なさから確固たる階級がないことが、個々の無用な軋轢を生んでしまっている様だ。これではいずれ指揮系統が機能しなくなり、組織は瓦解するそれはあってはならない!ここからできることは明確な階級制度の作成それに他ならないだろう。


 オーストと禍殲廼がちょっとした口論をしていた、その結果この島の5/1が焦土となったが別段問題ではない筈だ。言い訳だがこの島は元々自然が多くはなかった、中央に聳え立っている岩肌も50mもない。100平方m程の林と草原、地下水が湧き出る小川、長年の歳月でけづり取られゴツゴツとした岩石海岸。失っても大して変わりはなていない。

 帰りの船にたどり着いたのは、俺たちを含めた七人。

 禍殲廼が見逃したと言っていた、子供と今にもキレそうな二十代前半くらいの男、ローブで全身を覆っている者二人。ローブを着た者以外の顔には疲労感や汚れが目立つ。最終日になると誰の戦闘音もして来なかった、これは俺たちと遭遇しなかった者同士の戦闘が終結した証拠だった。それに加えて島中には酷い死臭やナニかの焼ける匂いが漂っていた、それで戦意喪失した可能性もあるが。ここにいる誰もそんな表情ではない。もしかしたら、この島にもまだ生き残りがいるかもしれないが。


「お前等あぁぁ!」


 突如として、男が俺に掴みかかってきた。血眼担った目、そこから窺える感情はただ一つ「怒り」。

 その男を止めようとオーストと禍殲廼が前に出ようとしてきたが、俺はやめる様に手で指示をした。

 奴は俺に服の一部を強引に引っ張った。

 何故かヒロトの体は微動だにしない。大の大人がまだ若い内だが本気で力を入れているにもかかわらず、ピクリとも動かなかった。それすらもお構いなしに奴は、怒っていた。


「お前、よくも俺の仲間をおぉ‼︎」


 彼はあの惨劇、あの虐殺の生き残りなのだろう。彼は許せないのだ、仲間が死ぬのはそういう世界だからまだ心が切り替えられる、だが仲間が今まで一緒いいた仲間が、苦楽を共にしてきた仲間が、人間にまるで虫みたいに、簡単に殺されたことが許せなかった。今まで自分たちが成し遂げたことが否定されたかの様に・・・。


「すまなかった」

「・・・・・・・っえ」


 思考が止まる、予想だにしない相手の返しに。

 それでも復讐者Revengeは自己を失わずに、かたきを見失わなかった。


「そんなことで許されると───」


 彼は一瞬、今自分がどこにいるのか分からなくなった。前を見ると空があって敵の顔が見えた。

 手首に激痛が走ったかと思うと、その次の瞬間には、背に衝撃が走った。

 とっさに情報を仕入れようと目を開く、そこでやっと自分が地面へ仰向けになっていることが理解できた。

 その思考も束の間、敵が腕を振り上げていた手にはナイフ。何をするのかは容易の理解できた。

(まだ何・・・まだ何も終わってない・・・復讐は終わってない‼︎)

 反射的に目を閉じてしまう。

 自分はこう思ってはいるが本当は死んでもいいとさえ思っているそれで仲間のもとへ行けるのなら、一人だった俺を救ってくれた仲間の元へ・・・

 しかしそれは叶わぬ願いであった。頭では無くそのすぐ横にナイフは突き立てられた。

 ハッと目を見開く。敵はナイフを地面から抜き、立ち上がるとそのナイフをしまう。

 敵は見ていた俺をあの眼で、仲間を殺していたときの目で。


「その眼だ!お前は仲間をそんな、眼で見ていた‼︎」


 あの哀れむような目、敵だと言うのに、哀れんでいたのだ‼︎


「いつの時代も、ヒトが命を落とすのは悲しいものだ」ヒロトは淡々と話を続ける「人類戦争、一次大戦、独ソ戦、滅亡作戦。これ等の出来事で多くのヒトが死んだ、それもヒトの手によって。いつの時代も人間を殺すのは人間だった。それはこれからも変わることはないだろう。しかしそれはあまりにも身勝手だと思うのだ私は。君の仲間が死んだのは悲しいことなのだ、私も君も、そこにいる日本人も」


 この行いは決して理解されず、正義とは決して言われることはないだろう、それでも私は人間が犯した罪を継ぐなってもらわねばならないと思うのだ。

 これは世界からの報復だ



 この敵が言っていることは、よくわからない。俺たちは何もしちゃいない。それなのにこの敵は、俺たちが俺たち同士で死ぬのが身勝手だと言った。


「くそおぉぉぉ‼︎」


 俺は体重移動の勢いで一気に立ち上がり、放置されていた剣を取り敵に襲いかかった。

 剣を上段に持ち上げ、剣の重量を使った物量技。



 彼は冷静ではなく、報復心に駆られ、仲間の仇を取ろうとする。

 だがそれでは足りない。ただの報復心では俺には到底届かない。


「まだだまだ足りない」


 俺は斬りつけてくる彼を止めた。

 剣を持つ手を受け止め、空いた鳩尾に膝を打ち込む。そのまま倒れ込んだ相手の手を後ろに回し手錠をかけた。

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